第2話 

「「プハア……」

蓮は自販機で買ったジュースを一気に飲み干し、缶を指先で転がす。冷たい液体が喉を通り、全身にじんわりと染み渡る。日差しに照らされた校庭の砂や木々の葉が、午後の空気とともにやわらかく揺れる。静かな風が頬を撫で、訓練後の疲れを優しく癒やしてくれる。


「……あー、やっぱこれ最高だわ」

蓮は肩を落とし、缶を両手で抱えながら一息つく。刀や忍術の稽古で熱くなった体が、ジュースの冷たさでちょうどいいクールダウンを迎えた。


颯真は少し離れた場所で、影縫いの糸を束ねながら蓮を見ている。

「てか、また腕上げたな、蓮」

冷静な声の中に、ほんのわずかの称賛が滲む。颯真は口数が少ないが、戦いの技量には鋭い観察眼を持っていた。


「へへっ、だろ! カマイタチの術、教えてやろーか?」

「いや、それはいい。忍者の家系に忍術を教えようとするんじゃない」

颯真は即座に否定する。蓮は肩をすくめ、少し笑みを漏らす。刀の扱いなら蓮も一流だが、忍術に関しては素人。しかし、それが二人の楽しさの源でもあった。


「別にいいだろ、やってみるかお前も? この術、面白いぞ」

蓮は颯真の背後に素早く回り込み、風のように軽やかな動きで忍術を放つ。颯真はそれをすぐに察知し、素早く刀を構えて受け止める。小さな衝突音が響き、風の巻き上がる砂の粒が二人の足元で舞った。


「くっ……威力、上げやがったな」

颯真の口元に小さく笑みが浮かぶ。蓮も負けじと笑い、再び刀を握り直す。二人にとって、この刹那の攻防こそが楽しみであり、互いを高め合う時間だった。


周囲では、部活動の声や笑い声が徐々に遠ざかり、校庭に二人だけの世界が広がる。風が葉を揺らし、夕日の光が長く影を落とす中、刀と影が軽やかに交錯する。二人の体温と呼吸が、稽古場の静かな緊張感に溶け込んでいった。


「ふぅ……」

蓮は息を整えながら缶ジュースに手を伸ばす。

「やっぱり、午後のこの時間が一番落ち着くな」

「まあな……でもまだ終わりじゃないだろ?」

颯真は影縫いの糸を巻き直し、再び戦いの構えを取る。二人は互いに息を合わせ、軽く跳んで距離を詰める。刀と忍術、風と影、全てが絶妙に噛み合う瞬間。


「なあ、蓮」

颯真が口を開く。

「なんだ?」

「いつか、俺たち本物の戦場でどこまで通用するか試してみたいな」

蓮の目が輝く。少年の笑みと、東雲家の血筋が混ざり合った決意が、言葉にならずとも体中に宿る。


「そうだな、俺たちならやれるさ」

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