第33話 依頼整理会議、再び

アレンの家の居間に集まった仲間たちは、しばし束の間の休息を味わっていた。


そんな中、セレーネがカップを置き、ふと思い出したように口を開いた。

「ところで……私たちって今、いったい何の依頼を抱えているのですの?」


部屋の空気が一瞬止まった。

リリアナが天を仰ぎ、深いため息をつく。

「……出たわね。その質問」


アレンは苦笑いを浮かべながら、机の上にメモ用紙を広げて書き出した。


「えっと、今残ってるのは……」


・五大幻花:残り四種。手がかりは渡されたイラストだけ。

・十六魔神の討伐:残り十一体。所在不明。

・暗殺ギルド《黒牙》壊滅:拠点を一つ潰したが、ボスは未だ不明。

・七大角獣:残り三種。そのうち二種は居場所判明。

・八種の神器:残り六種。そのうち一つは謎の老人――おそらくディアスが所有。

・三女神の遺産:一種は製作中、残り二種も素材の場所は判明。

・五大宝石:残り四種。手がかりなし。


「……あ、あと個人的には“無限地下迷宮の300階の先”にも行きたいかな」

アレンがさらりと付け加えると、全員の視線が一斉に集まった。


リリアナはこめかみを押さえ、机を指でとんとん叩いた。

「ちょっと待って。これ……多すぎじゃない? 私たち何人でこの量抱えてると思ってるの」


カイルは書き連ねられた依頼を見て、顔を引きつらせる。

「うへぇ……まるでギルドの掲示板丸ごと背負ってる気分だな」


ソフィアは不安げに手を胸に当て、小声で呟いた。

「私……本当に役に立ててるのかな……」


セレーネは逆に、楽しげに笑っていた。

「でも、これだけ依頼があるのは“頼られている証”でしょう? 王国にとっても、これほど心強い冒険者はいませんわ」


「……そう言ってくれるのはありがたいけどな」

アレンは頭を掻きながら、書き上げたリストを見つめた。

「問題は……どこから手を付けるかだ」


積み上がる依頼の山。

仲間たちは顔を見合わせ、再びの「依頼整理会議」が始まろうとしていた。



「……まずは、来週の商店の店舗解体だな」

アレンが紙にさらりと書き込みながら言うと、リリアナの額に青筋が浮かんだ。


「……はぁ!? 何それ、いつの間に受けたのよ!」

「え、あぁ……ちょっと前に、頼まれて」

「だから言ったでしょ! そういう依頼を勝手に受けるときは、ひと声かけてって!」

リリアナの拳が机をドンッと叩き、アレンは思わず背をのけぞらせた。


アレンは苦笑いを浮かべて頭をかき、

「いや、簡単そうだし、ちょうど空いてたから……」


「“空いてたから”じゃないの! 私たちはもうBランクよ!?」

リリアナの怒声に、ソフィアはおろおろと目を泳がせ、セレーネは口元に手を当てて笑みをこらえている。

カイルはというと「解体かぁ……大剣の出番だな」と、全く悪びれずに頷いていた。


「で、その次は?」とセレーネが涼しい顔で促すと、アレンはあっさりと答えた。

「三女神の遺産の残り二種かな。素材の場所もわかってるし、早めに揃えておいたほうがいい」


「ふむ……まあ、それは賛成ですわ」

セレーネが優雅に頷き、リリアナも不承不承ながら腕を組んだ。


「……仕方ないわね。遺産は確かに優先すべき案件だし」


「それ以外は?」

カイルが首をかしげると、アレンは軽い調子で答えた。

「うーん、残りはその時の気分で、かな」


「気分で!?」

リリアナが再び吠える。

しかし、アレンはにこにこと笑うばかりで、悪びれる様子はない。


こうして今回の「依頼整理会議」も、結局まとまったのかまとまっていないのか、判然としないまま幕を閉じたのだった。

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