あとりのえほん
杏鳥
明日への乾杯 エモクロア「宵に泥酔、紫煙に溜息」 夜花
※エモクロア「宵に泥酔、紫煙に溜息」クリア後の話。
※好きに書いてる。かきたいところだけを書いてます。
※口調とか性格解釈違いだったらすみません…!!
※捏造部分あり
_____ひとつめ。
“自我”を得てから一番初めに見たのは小さな命だった。産まれたてでどこもかしこも柔らかい。少し力を込めれば踏まれた果物の様にぐにゃりと潰れてしまいそうな小さな小さな命。
_____ふたつめ。
小さな命のあとに見た景色。幸せそうに微笑む夫婦の姿。不幸なんて知りません。災いなど怖くありません。なんて、言わんばかりの笑みを見せ合い、そうしてこちらを見てまた微笑む。
自我を得たばかりの私…俺でもわかった。あぁ、これが眩いほど美しい命なのだろうと。喪えば人が泣き、身が裂けるほどの痛みをうみだす物なのだと理解した。穢れたものだけを寄せ集め、形成された自分とはあまりにもかけ離れた美しさ…何より、その儚くも美しい“愛”と“祝福”を一身に注がれ育つであろう赤子など…本来なら自分の様な穢れた神などが触れていいものではない。だというのに、この夫婦…セキの両親は生まれて間もないセキを何の警戒も無く俺…私に抱かせたのだ。思えば何と言えばいいのやら…能天気なのか、マイペースというものなのか…。少しぐらい、警戒心を持ってほしいものだ。セキもセキで私…俺の爪の伸びた指をその小さな掌で掴んで安心した様に笑っていたのだから…やっぱり親子だなぁなんて……。
“自我”とやらを得た日の私…俺はそこで初めて慈しみやら愛情やらを理解したんだと思う。今の姿もこの時ほぼ完成に近かった筈だ。セキを抱くためには腕が必要で、それに合わせて適当に作ったものだ。ただ、その時作り上げたのは今よりもあまりにも怪異”に近かったのだが…セキはよく泣かなかったな…。なんて。兎に角、怪異の姿であってもある程度は人に、歪でも怖くもなく、清潔感のあるもので無ければいけないと、赤子のセキに触れた触れられた際、怪我をしないように爪は短く、角は丸くと考えに考えたのが今の“穢れ神と“人間”のガワだった。
あと、夜花という名乗り出したのもこの辺りだったはずだ。たしか、セキの両親の名前から連想したものだった気がする…。
黎明に昇る太陽。百花の王。黎陽の“黎”は黎明。黎明は夜明け。百花の王は牡丹。牡丹は花…みたいな感じで。…これ、セキに話したっけ?聞かれたら話せばいいか…。少しでも、愛着がわくものがいいとつけた適当な名前だったけれど、俺…私は気に入ってたりする。
名が穢れてしまうのが怖くて一度も口にすることが出来なかったけれど、セキと同じくらいに愛しいと思っていた二人から考えた名前。…名が穢れるで言えば…、セキについては、少しやんちゃでおしゃべりになった頃にチビちゃんと呼んだら拗ねられたり、名前を呼ばないとグズりだした為、妥協として“セキ”と呼ぶ様になった。“汐郎”と名を穢さない様に考えた末に出した案だったけれど…この呼び名だって今では大切な宝物だ。
こんな感じに、セキがうまれてからと言うものの、“自我”がうまれ、姿や名が作られ、対話や触れ合いなどする機会が増えていった。小さな子供というのは好奇心の塊みたいなものだから…少し目を離せばやれ虫を捕まえた、あれにのりたい、あれをしてほしい、してみたい、疲れて動けない、あれが欲しいこれが欲しいと目まぐるしい感情と要求の変化を訴えてくるもので…。それらに応えたり、駄目と促す為に言葉や行動で緩和させていく為だった。勿論、初めのうちは穢れが移らない様に、接触をしないようにしていたけれど…好奇心と無邪気なこの小さな命には私…俺の気持ちなんか伝わるわけもなく、簡単に手を引かれ早々に諦めてしまった。だって、それを振り払うのは難しかったのだから。振り払う際にその小さな手を怪我させてしまったら怖いだろう?だから、妥協として“人間”のガワで過ごす日々が増えていったのだった。それに伴って、俺…私と言うモノが与える影響を緩和出来たらと自分を切り離すという日課も出来た。
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こうして改めて振り返ってみて、私…俺というものはたった一人の人間の為だけにその在り方も、考えも、生き方も変わってしまったのだなぁ…と感傷深い…というのかな。そう思う。人間にとっても、神にとっても大したことがないと言われる出来事だろうがやっぱり私…俺にとっては大きなきっかけだ。
あの時、赤ん坊を抱かせてもらう経験が無ければあたたかな命の温もりも、柔らかく尊いものだと言うことも知らないままで自我すら得られなかっただろうから。
逆を言えば、あの…虚蝉と名のった“あれ”はその機会すらあればあぁはならなかったのかもしれない。中途半端に感情を理解して、間違いにも気づかず寧ろこれが最善だと思い行動し、けれどそれを理解されることも無く、無意識に求めていたものすら手に入れられず最後は消えていった。なんとも言えない悲しい結末を迎えても、あれは笑顔のままで…それすらもちゃんとした感情が“わからない”“知らない”からの表情だったのかもしれない。
命からがら、よく生きて帰れたと思える程の戦闘を終え、戻ってきた俺…私達。セキは内側から、私…俺は外側からのダメージと共に精神的なダメージが酷く、本当に文字通りボロボロだ。流石にこれは…となったお嬢さんに言われ、お兄さんによる手当てを受けているセキを見ていれば思わず乾いた笑いと溜息が溢れてしまう。生きてくれて良かったと思うと同時に不甲斐ない自分に呆れてしまうのはしょうがない。まさか、少しでも傍にいる為にと行った行動がこうなるとは思わないだろう。いや、思うべきだったのかもしれないけれど…。私…俺は思わなかった。大抵は穢れに蝕まれて消えてしまうのだから、まさか、本当に、誰があぁなると思うのか。もし、自分が自身を切り離さなければ虚蝉は生まれなかったのでは無いのかとか、その場合は自身の穢れでセキがもっと悲惨な目にあっていたのでは無いかと…たらればがぐるぐると巡って頭が休まらない。精神干渉というのか、共鳴というのか、執念深い攻撃手段を受けてしまったからか、急に過去の事やあったかもしれない可能性を考えては馬鹿みたいに思考が落ち込む。今一人だったら確実にモノに当たり散らしていたと思う程の嫌悪や苛立ち、無力感が込み上げてくる。元々、狂気を飼っているからか慣れてはいるとはいえ、こうも鬱々とした感情に蝕まれるのはあまりいいものではない。深々とため息をついてそのままカウンターに突っ伏せば、治療を終えたのかセキが隣に座った。机に頭を預けたままそちらに視線を向けると、頼んだ酒を飲んでいる。さっきまで手当てを受けながらギャンギャン騒いでた人とは思えない程穏やかな表情をしていた。
「…大きくなったなぁ…。」
「んだよ、急に」
「いやぁ…改めて本当に大きくなったなぁ…って。なってくれたんだなぁって思ったら口に出ちゃった。」
「おかげさまで?」
へらりと笑うセキから視線を外してそう零す。綺麗に磨かれた机にお洒落なグラスが置かれる音が響く。きっとお嬢様さんが出してくれたのだろう。斜め上に視線を向ければ、淡いオレンジから朱色へと変わる夕焼け空の様なカクテルが置かれていた。
「元気ないな」
「…元気だよ?」
「嘘つけ、流石にそれは分かるわ」
「元気、元気なんだよ〜〜?うん。元気。ただ、たださぁ」
「ただ?」
「たださぁ〜〜〜〜〜〜」
さっきまで鬱々としていた気分を吐き出す様に情けない声を上げながら身体を起こすと出されたカクテルを一気に煽る。本来なら混ぜる物だろうそれをそのまま飲んだからか、オレンジジュースと甘めの酒の味が分かれてしまい少し勿体ない事をしてしまったが…それは一旦置いておいて、飲み干したグラスを机に置く。再び頬を机にくっつけるように突っ伏してセキを見てみれば、早く言えと言わんばかりの顔をしている。それにまた深々と息を吐いて、目線をそらす。
「ただ、ちょっと昔の事思い出してたんだよ。…セキが生まれて、自我が生まれた時の。幸せだったなぁ…って、ちょっと感傷深くなったと言うか…あっという間だったなぁ…とか…。さ、考えてたらなんか…アレは自分の別の姿だったんだろうなぁ…って段々鬱々としてただけ…。別に、自分をそれで責めたりとかはしないけど…さぁ…。」
「…お前まだそんな事考えてたのかよ…?」
「そりゃあ…ね?君の両親…。名前、穢れちゃうかもしれないから1回も呼べなかったけど…黎陽も、牡丹もいて、セキも居て、幸せだったんだから。…勿論、今もセキと居れて幸せだと思うし、生きてここでお酒を飲めてるのも私…俺にとっては凄く幸せな事だと思うよ。それに、今セキと話してたらなーんで、自分が自我を持ったんだろうとかも考えちゃってさ。…ふふ、しっかり精神干渉受けててなんか笑っちゃうね。」
「いや笑えねーからな?…本当に大丈夫何だよな?」
「そこは本当にだいじょーぶ。セキと話して落ち着いてきたよ。それに、さっきも言ったけど…改めて、セキもセキのご両親も自分にとっては本当に大切な存在で、大切な記憶だったんだなぁって。気付けたしね。…私…俺が自我を持ったのもさぁ…多分、“幸福”を理解する為だったんだろうねぇ〜」
「“カミサマ”なのに?」
「そー。“カミサマ”なのに。人の暴力的な面や悪い面だけを知ってるのはあまりに寂しい。だから、気まぐれな“誰か”さんが、きっと、そういうあったかいものも知ってほしかったのかもしれない。欲だけじゃなく、儚く尊い部分だってあるんだよってさ。そーして、人を愛せればさ。私…俺みたいな存在も、ちょっとは前向きに生きれるかもしれないって、チャンスをくれたのかもね。」
からかう様に言ったセキの言葉に笑って言葉を返す。いつも通りの雰囲気に戻り出した俺…私にセキも安心したのか同じ様に笑って、二人分の酒をお嬢さんに頼んでいる。
「ねぇセキ。久々にさ…会いに行こうよ。美味しいお酒と、美味しいご飯と、洋菓子とか和菓子持ってさ。」
突っ伏したままの頭をあげ、頬杖をつきながら何でもないかのように話す。
「洋菓子は食べれないなら俺…私が食べるし、ご飯は好きな物を持っていけばいい。お酒は…ちょっといいのを持っていってさ。黎陽と牡丹に会いに行こうよ。勿論、セキがいいならだけど」
ね?と首を傾げてセキの方を見る。報告も兼ねてもだけど、やっぱり。大きくなったセキを2人に見て欲しかった。本来なら見たかった、見るはずの大人になった我が子を。立派…というか、まともなのかは首を傾げてしまうけれど…優しくて強い子には育った彼が成し遂げた事、見せてあげたかった、見て欲しかったと思ってしまうのは…私…俺のわがままだから…勿論、セキが嫌がるなら諦めるしか無いが…。
どうかな?と様子を見ていれば、2つのグラスが机に置かれる。セキには丸く削られた氷の入った蒸留酒、私…俺には先程のカクテルが置かれていた。セキはそれを手に取ると、少し考える素振りを見せてから、じっとこちらを見てからグラスをこちらに傾ける。
「セキ?」
「ん」
「んって?」
「親父と飲む前に、まず夜花と今日の一杯飲んでねぇだろ」
「…今さっき飲んだよ?」
「“乾杯”はしてねぇだろ!?!?」
「えー…」
「いーから!ほらっ!持てよ!」
ムスッとしたセキに言われるがままに自分もグラスを手に持つ。この言い方的に、多分行くって解釈でいいと思うのだけど…なんというか、セキらしいと言うか…答えがちょっと分かりにくい様な…。
まだまだ子供らしさがあるこの大人。ちぐはぐで不恰好なのに目が離せない眩しい命に思わず笑みが溢れてしまう。
「セキらしいね。」
「いいだろ別に」
「うん、そうだね。…なにか言う?」
「何かって?オツカレサマ〜とか?」
「そうそう、せっかく生きてたわけだし?」
「ん〜〜〜〜…じゃあ…」
“明日への乾杯”
カンッと甲高いグラスの音が響く。
生きていることに、明日の朝日を見れることに。
隣にいれること、隣に君が居ることに感謝しよう。
一緒の時を歩む事は出来ないけれど…、可能な限りは“幸せ”なモノを分けていきたい。
だから、どうか末永く。この弱い“カミサマ”の傍に居てほしいな…なんて。
きっと、あの頃みたいに手を繋がなくても、頼まなくても、君は離れていかないんだろうな。
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あとりのえほん 杏鳥 @koinatu_awayuki
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