ゾンビ
ヤマ
ゾンビ
大通りは、炎と煙に覆われていた。
ガードレールにぶつかった車の窓を突き破り、運転手に向かって、腐った腕がのたうつ。
数日前に研究施設から流出したウイルスが、人々をゾンビに変えてしまった。
俺は、しばらく自室に籠もっていたが……。
「よし……、行くか」
生存者を探して、外に出ることにした。
息を潜めて、裏道へと走り込む。
しかし、角を曲がった瞬間、十数体のゾンビと鉢合わせた。
背後からも迫られ、逃げ場はない。
武器は、ひしゃげた金属バット一本。
歯を剥き出しにして、迫り来るゾンビたち。
噛まれる。
死を覚悟し、ぎゅっと目を瞑った瞬間——
ゾンビの群れが、ぴたりと止まった。
濁った視線が揃って向いた先には、拡声器を手にした数人の男女。
血まみれの通りに、よく通る声が響いた。
「聞いてください! 肉を食べることは殺人と同じです!」
「人間も動物もゾンビも、命は平等です!」
「ゾンビの食事を差別するな!」
「ゾンビにも人権を!」
幾つかの活動家グループが、言い争っているようだった。
彼らは、それぞれの主張を書いたプラカードを掲げ、大声を出している。
しかし、そこに——
歓声を上げる観客のように、ゾンビの群れが押し寄せた。
腕を掴まれ、噛み付かれても、活動家たちは叫び続ける。
「命を守——ぎゃっ!」
「やめ、ちょ、そこは——!」
「肉——!」
やがて、群れに飲み込まれる声が、掻き消える。
残ったのは、ちぎれた拡声器だけ。
俺は立ち尽くし、心の底から確信する——
ゾンビになっても、黙らせたい相手はいるのだ。
ゾンビ ヤマ @ymhr0926
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