第10話 会議の一言

 午後三時の会議室。

 部長が資料を閉じ、全員に視線を向けた。

「では最後に、一人ずつ一言もらおうか」


 空気が凍る。

 田村の心臓は一気に跳ね上がった。

(やばい……何も考えてない!)


 同僚たちが順に発言していく。

「本日の内容を参考に、部でも検討します」

「新しい提案を取り入れて進めたいです」


 ついに田村の番。

 頭は真っ白、口から出たのは――

「えっと……、がんばります!」


 沈黙。次の瞬間、場がどっと笑いに包まれた。

 部長も口元を緩める。

「……その素直さ、嫌いじゃないぞ」


 田村は安堵の息をついた。

 額の汗をぬぐいながら心の中で思う。

「次からは、ちゃんと考えとこう……」

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『日常あるある劇場』 稲佐オサム @INASAOSAMU

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