第3話 電車に飲み込まれる男

朝のラッシュアワー。

 高橋はドアの前に立ちながら、ひと駅先の乗り換えを頭の中でシミュレーションしていた。

「よし、この駅で降りてダッシュすれば間に合うはず……」


 アナウンスが鳴り、電車が止まる。

 ――が、降りようとした瞬間。


 ドッと人波が雪崩れ込んできた。

 高橋の足は見事に固定され、身動き一つ取れない。

「ちょ、降ります……!降り――」

 声は雑踏に飲まれ、結局そのまま扉は閉まった。


 電車は無情にも走り出す。

 窓に映る自分の顔を見ながら、高橋は小さくつぶやいた。

「……これ、もう一本遅刻コース確定だな」


 遠くで車内アナウンスが響く。

「次は、予定外の駅です」

 その言葉が、彼の心を追い打ちした。

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