能力【物語特攻】

レンジでチン

この世の全ては

【もしも自分が超能力者だったら?】


 誰だって一度は妄想したことがあるはずだろう。

 飛行能力、瞬間移動、時間操作……こんな能力が使えたらいいのに、こんな超能力があったらこうするのに……なんて、意味のない妄想を繰り返す。現実で起こるわけもない、実現不可能なものに人間は憧れる……

 この物語は、そんな超能力にまつわる一人の少年の話だ。



「……眠い……」


 眠そうな目を擦りながら歩くこの少年は蓮城れんじょうたくみ。一見どこにでもいる様な高校一年生。今日も今日とて学校に向かう……のだが。



「ヒャッハー! てめぇら全員皆殺しだ!」



「オラオラ! 痛い目見たくないなら財布置いてけ!」



「アハハハハ! この銃が見えないの!?」



〈ダダダダダ〉


〈バンッバンッ〉


〈ドガーン〉


「……はぁ……」


 この国は現在、いたるところで世紀末のような光景が広がっている。こうした街中でも銃撃戦が繰り広げられ、弱肉強食を体現したかのような世の中になっている。何故こうなってしまったのかは……ま、今はそれどころではないだろう。


「おい、そこの坊主」


 そうこうしていると、匠はそのモヒカン頭の男に声をかけられる。


「……なんですか」


 匠はダルそうにしながらその男を見据える。


「……おいおい、この俺様に向かってそんな態度を取ってもいいのか?」


「……別に、アンタ程度、簡単に倒せるからな」


「……なんだと?」


「……わかったなら早く俺の目の前から消え失せることだ」


「この……ガキ……」


 わかりやすいくらいに腹を立てた様子なその男。だが、匠はその表情を一切変えることなく、冷静で、堂々としていた。


「……それじゃ、俺は先に行くので」


 そうして匠が再び歩みを進めた時だった。


「……おい! やっちまえ!」


 その男が急に大声を出す。すると、匠の後ろから男の仲間らしき、モヒカン頭の男が釘バットを振り被りながら現れた。


「死ね! クソガキ!」


 そうして、仲間の男は匠の頭部を狙って……




「……なるほど頭か」




〈サッ〉


「「!?」」


匠は体を少し前に傾けることでその仲間の男の攻撃を避ける。


「……っ、貴様ぁ!」


 そうして男は再び匠に攻撃を仕掛ける。今度は足元を狙って……


「……ほっ」


〈ピョンッ〉


「「!?!?」」


 匠は軽くジャンプをすることでその攻撃をかわす。


「おいお前! 何ガキ相手に手間取ってんだ!」


「ちっ違う! コイツ俺の攻撃が……」


「うるさい! さっさと仕留めるぞ!」


 そうして匠は男二人から猛攻を仕掛けられる。

 頭部、腹部、手足……体のいたるところを攻撃されそうになる。しかし、男たちが狙っても狙っても、その攻撃が匠に命中することはなかった。


「な……なんだコイツは……?」


「……う、狼狽えるな! 一気に仕留めるぞ!」


 そうして男二人はバットを横から振りかぶって……


「……あっけなかったな」


〈スッ〉


「「!?!?!?」」


 匠はその場にしゃがむことでその攻撃をかわし、そして……


〈バギィィィッ〉


「あが……」


「ぐッ……」


〈ドサドサッ〉


 男二人はお互いの攻撃によって同士討ちするのだった。


「……やっぱり便利だな。この


 そう、匠にはとある能力があった。それはとても特殊で……




「……勿体ぶらずに早く言ったらどうだ?」




 ……【物語特攻ストーリーメタ】。この能力は簡単を説明するなら、今ここに書いてある【文章】を読むことができる、というもの。そのため、匠は語り手と対話のできる唯一の存在であったりする。


「……おい、早く学校に行かせろ」


 ……そうして匠は学校へと向かうのだった。



 そうして匠は学校に辿り着いた。


「……やっぱ便利だな」


 ……このように、小説は【語り手】が語った内容は、この世界において全て現実となる。そのため、語り手は度々匠からこのように適当な扱いをされたりする。まったく、毎回指図されるこっちの気にもなってほしいものだ……


「……と言いつつ、案外俺の言うこと聞いてくれるだろ? それにこういう【能力】なんだから、便利だし、使わないともったいないだろ?」


 それはまあ、そうなのだが……


「おっ、レンジじゃーんw また俺様に殴られに来たのかw?」


「……はぁ……また面倒な奴が来た」


 この男はいつも匠に絡んでくる不良生徒。というか世の中が荒れているのであれば、それより小さい学校は荒れざるを得ないというのは、自然の摂理だろうか。


 そして、匠はここでは何故か【レンジ】と呼ばれている。蓮城をもじってレンジ……安直なあだ名だな。


 そうして匠は普段この男から殴られたり物を壊したりなどの被害に遭っていた。しかし何故匠が反撃しないかというと、面倒事を起こしたくないから、である。


「……おいおい、面倒な奴だと? お前のそういう態度が気に食わないんだよ」


 そうしてその男は匠にズカズカと近づいてくる。


「お、殴り合いか?」


「俺も加勢しようかなw?」


「おいおい、レンジがかわいそうだろw」


 辺りには軽く観客オーディエンスが集まってきていた。

 そうして一触即発の空気感を漂わせる中で……


「……け、ケンカはやめなさいあなた達!」


 一人の少女が匠と男の間に割り込む。彼女はこの学校の生徒会で、一見するとこの学校で唯一の良心。


「……おい、会長ごときが俺様に盾突くんじゃねえよ」


〈ドンッ〉


「きゃっ……」


 会長はその男に突き飛ばされてしまうが、匠は一切動じない。


「……はあ……面倒だがやるしかないか」


 すると、匠は目の前のその男に近づいていく。その男は油断している様だった。


「なんだ? わざわざ殴られに来……」


〈バキィッ〉


「がっ!?!?」


 匠はその渾身の一撃をその男に叩きこむ。

 この匠のパワーは能力関係なしに、元々匠にあった力だったりする。そして何で急に反撃したかというと、女が殴られたから……ということに、今はしておこう。


「くそっ……レンジお前……!」


 目の前の男は意外とタフなのか、匠の攻撃をくらっても一発で倒れることはなかった。それどころか……


「おいレンジ、コイツに手出したら何が起こるかわからんのかw?」


「俺らが加勢するに決まってるだろw」


「そんなこともわからんのかw?」


 わからない訳がなかった。というか、わかりやすすぎるまである。しかし、匠はわかっていながらこのような行動をとったのだ。そして、その理由は……


「……おい、語り手。この状況を何とかしろ」


 ……語り手に頼れるからだ。私だってやりたくてやってるんじゃないけどな……それに指図される立場じゃないし……


「……これくらいいいだろ?」


 ……そうして匠は目の前の奴らに立ち向かうのだった。



 匠は満身創痍になりながらも、ソイツらを返り討ちにすることに成功していた。


「はぁっ……おい、満身創痍はいらないだろ……」


 戦った感は出しといたほうがいいと思ってな。それに敵は倒したんだから、この私に感謝することだな。


「人遣いの荒いこと……」


 そんなこんなで匠が息を整えている時だった。


「……あの……大丈夫ですか?」


「……あ、さっきすぐに出番がなくなった会長」


「出番……? とにかく、助けてくれてありがとうございます! よければこの後……」


 などと、この会長は必死に匠のご機嫌取りをしているが、普段会長は匠のことを見下しており、今回で匠が強いということを知り、掌を返しただけの、ただの金魚の糞なのである。


「……あまり調子に乗るなよこのクソ女」


「……なっ!? 誰がクソ女ですって……」


〈バキィッ〉


「……ぁが……」


〈ドサッ〉


「……ふぅスッキリした。ありがとな語り手」


 いいってことよ。見てるこっちも胸糞悪かったしな。


「……だが、これだけじゃあ面白く無いだろ?」


 ……? 匠、お前には何かいい考えがあるとでも言うのか? それも、この語り手が思いつかないような考えが……


「……今のこの世界は、腐りきっている。それはお前もわかるよな?」


 ……そうだな。この国では争いが日夜絶えず起こり続けている。そしてそのことの発端は……って、まさかお前……!?


「そう、そのまさかだ」


 そうして匠はその一言を告げる。




「俺は革命を起こす。そしてこの国の頂点トップに立ってやる」




 ……確かに面白そうな話だな。だが、お前はそんな簡単に革命が起こせるとでも思っているのか? それに、お前には革命を手助けしてくれるような仲間がいないだろう。今までお前のことを見てきた語り手にはわかっている。


「……いや、それは間違いだな」


 ……なんだと?


「……語り手……お前がいるだろう?」


 ……お前の仲間になったつもりはないが……まぁ、いいだろう。お前の言っている【革命】も面白そうだしな。


「よし、さっそく始めるぞ」


 ああ……そうして匠はその場を離れ、とある場所へと移動するのだった。



 やがて匠はその建物の前に辿り着く。その建物は……


「ここが……国会議事堂……」


 そう、国会議事堂だった。そうして匠は今から、ここにいるはずの総理大臣を滅ぼし、この国の頂点トップに立つつもりらしい。


「よし……行くぞ」


 そうして匠はその建物に向かって歩き始める。


「……待て、そこのお前」


 しかし、警備員らしき男二人に行く手を阻まれてしまう。


「お前……何者だ? この国会議事堂に一人で向かってくるとは……」


「……おらぁっ!」


〈ボゴォ〉


「なっ……お前!?」


 匠が警備員の一人を殴り飛ばすと、もう一人が取り押さえようと匠の足元を狙ってきて……


「……ふんっ」


〈メキィ〉


「……っ!?」


 匠は待ってましたと言わんばかりにその警備員の顔面を思いっきり蹴り飛ばした。


「よし……騒ぎになる前に急ぐぞ!」


 ……まったく、この語り手がいなかったら大声で独り言を喋る変質者になるというのに……


「おい聞こえてるぞ」


 ……そうだった……



 警備員二人を倒すと、匠はその建物の内部に侵入する。


「……! 侵入者だ! 捕らえろ!」


 しかし建物の内部は警備員が多く配置されていた。見た感じ……10人くらい?


「なんで正確な数がわからねぇんだよ!?」


 いや……だって【物語】ってこんな感じじゃん?


「ったく……それより頼んだぞ」


「……撃て!」


 そうして警備員たちは匠に向かって銃口を向ける。それも……頭部に。


〈バンッ〉


「!?……ぶねっ!」


「「「!?」」」


 しかし、匠は間一髪首を傾けることでその銃弾をかわす。


「お前もっと早くしろ!」


 仕方がないだろ! こっちだって瞬時に判断するのは難しいんだぞ!


「……って、早く総理のところまで飛ばせばいいだろ!」


 ……あ、そうか。


「コイツ……」


 匠はその後も警備員の猛攻をかわしながら、やがて総理大臣のいる部屋までたどり着くのだった。



「……君が侵入者かい?」


「……お前を滅ぼしに来た」


「……随分と血気盛んだね」


「お前がそういう国にしたんだろ」


「……そうだ。私がこの国をこんな姿にした。だが、当然だとは思わないか? 弱肉強食。強きが食らい、弱きが食らわれる。自然界では当然のことだろう? 私はそんな生物にとって当たり前だったかつての当然ナチュラルを目指してこの国を……そしてやがて世界をも……」


〈バキィィィッ〉


「がっ……!?」


「……お前の言ってることが正しいなら、弱者は食われても文句ないんだよな?」


「……け、警備員! 早くコイツを……」


 因みに警備員は匠が既に全滅させていた。


「く……来るな……私は……総理だぞ……!」




「弱者は黙って食われてな」




〈メキメキィィィッ〉


「……うっ」


〈ドサッ〉


「……よし、これで俺を止める者は誰もいない……」


 そうして匠はこの国の頂点トップになるのだった。



 ……うーん……結局あまり面白くはなかったな……


 急な展開に見ているみんなは驚いているかもしれないけど、【この世界】は、語り手が操っているんだ。蓮城匠という人間だって私が作り出した人間のうちの一人だし、世紀末の国も、あっけなくやられたモブたちも、匠が持っていた能力も、私が生み出したものだ。


 結局のところ、語り手はすべてを決められる。ハッピーエンドにも、バッドエンドにも、どんな風にも作り変えられる。決定権はすべて、この私にあるのだ。


 私は面白い物語ストーリーを作るために、今日もネタを探して、考えて、歩いて、見て、感じて、書いて、考えて、妄想して、書いて、書いて、書いて、没にして……また考える……それの繰り返し。


 今回の物語ストーリーだって、本当は没になる予定だった話だ……だが、今回カクヨム甲子園創作合宿にて、お題がピッタリだと思ったから、没になったアイデアを引きずり出したまでだ。


 これこそが本当の茶番メタフィクションだと……そうは思わないか?

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能力【物語特攻】 レンジでチン @renjidechin113

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