②合格通知

ピーンポーン。玄関から軽快なチャイムの音がする。読んでいた本に栞を挟み、立ち上がる。階段をおり、ドアを開けると、マンガならニカッと効果音が出ていそうなくらい眩しい笑顔を見せている男の子が立っていた。

「お邪魔しまーす!」

私の幼なじみ、真白だ。寒い風が入り込まないように急いでドアを閉める。

「あ、あ、あれ?背、伸びた?」

「一日で伸びすぎだろ!これはブーツ。いや、誰がチビだ!」

そこまでは言ってないよ。寒いからノリツッコミしてないで早く入れ。部屋に入ると、真白がそれじゃあ、と封筒を取り出した。

「早速開けようぜ!」

うん、と頷き、私も同じ封筒を取り出す。これは中学校の合格通知だ。届いたら2人で開けようって約束したの。ペーパーナイフでぴりりりと封を切っていく。真白は普通にビリビリ破いているけれど。心臓がバクバクと音をたてる。もし、これで受からなかったら、私は真白と離れ離れだ。ぎゅっと目を瞑り、緊張しながら中の紙をゆっくりと取り出す。そして目を恐る恐る開けると……。

「あ、わ、わ私受かった!」

赤い文字で合格と書かれた紙を真白に見せる。

「やったじゃん、六華!俺は……。」

と言いかけた真白の顔がさっと青くなる。

「まさか……。」

小さく息を呑んだ。心臓の鼓動が早くなる。嘘でしょ?真白、落ちたの?冷や汗が止まらない。どうしよう、どうしよう。私一人だけじゃ、この学校に行く意味なんて無いのに。そう焦っていると真白がニヤッと笑った。

「なーんて!俺も受かった!」

そう言って真白も合格の紙を見せてくる。

「もー、ほ、本当にびっくりした!」

なんて冗談めかして言ったけど、心臓はまだバクバクしている。落ち着く為に、そばに置いてあるクッションを、ぎゅっと抱き潰した。手はまだ震えている。

「ワリーワリー。それにしても、六華が演技また始めようって思ってくれて良かったよ。子どもの頃から女優になりたいって言ってたもんな。」

「う、うん……。」

そう言って笑う真白の顔を見ていられなくて目を背ける。私達が受験したのは私立ナラルテア学園。芸能科の学校で、アイドルから女優、俳優、モデルに歌手を目指す子達が在籍している。大体の入学者が未経験だけど卒業生は有名人が多い。いわゆる芸能人育成学校だ。私がこの学校を受けるって言ったらお母さんもお父さんも凄い喜んでくれたっけ。真白と一緒なら安心だ、なんかも言って。ふぅ、と息を吐き、空中をぼんやりと見つめる。真白は純粋に俳優を目指す為に入学を決めたけど、私はそんな綺麗な理由じゃない。私は、独りぼっちになるのが嫌で、嘘をついたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る