それからの小話

傷跡と幸福論

ラガーマンをやってるとどうしても身体には傷がつく。

練習中に折れた骨を繋ぎ直した跡や試合中に切れた皮膚の傷跡、それら全てがラガーマンとして生きて来た日々の証であり俺のささやかな誇りだった。

「ユキ、この傷は痛くない?」

久しぶりに肌を合わせた後、アディは俺を案じるように傷跡をなぞる。

「今は全然痛くないから気にしなくて良いぞ」

「そう。でもどうしてこんなに傷が?」

「ラグビーをしてるとどうしても増えてくるんだよ、接触のある競技だから試合中に折れたり切れたりしてな」

「ユキは勇敢なんだな」

アディは優しく微笑みながら俺の傷をいたわるように撫でる。

この可愛い年下の夫が見ようによっては痛々しく見える傷をそう言ってくれることは、今の俺にとっては何より嬉しいことだ。

ラガーマンとして生きて来た日々の全てを肯定し、それを手放した俺も含めて愛してくれているアディがいる。

これを幸福と呼ばずになんと呼ぶのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺、異世界王子と政略結婚します。 あかべこ @akabeko_kanaha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画