第12話
一国の王子の伴侶となった俺の朝は早い。
アリシアさんの持って来てくれた衣服に着替えた後、アドルフと毎朝朝ごはんを囲む。
硬めの黒パンに燻製香強めのスモークサーモンとレタス・トマトのサンドイッチと角切り野菜のスープ、食後には甘めの紅茶とクッキーが数枚。
アドルフは朝食を食べつつ今日の予定を話ししてくれるのだが、俺はいつも同じメニューなのが正直ちょっとつまらない。
(味は不味くはないんだけどなぁ……)
実家の母が毎朝大盛りご飯にいろんなものを乗せて出してくれたのを思い出し、母の偉大さを今になって思い知る。
せめてたまにはサンドイッチを具を変えて欲しいと頼んでみようかと検討中である。
朝ごはんが終わればラジオ体操で軽く体をほぐし、家庭教師の時間となる。
実はサルドビア王家から王子の配偶者として必要な教養を叩き込むため、現国王妃の妹にあたるリュシルという人が毎日俺のところへやってくる。
しかしそのリュシル先生という人がたいへん怖い先生で、出来の悪い俺はとにかくよく怒られる。
「昨日やったところなのになぜ覚えてないの?」「左足の動きが悪い!もう一度!」「全くダメ!それでいいと思ってるの?」「インクで手を汚しながら手紙を書く貴族なんていません!」
サルドビアの歴史文化風俗に始まり、サルドビア式の礼儀作法、サルドビア貴族式文字の読み書き(翻訳魔法は日本語含む地球諸語から王国語への翻訳が不十分だからある程度自分で覚える必要がある)まで、とにかく徹底的なスパルタ教育だ。
そうして鬼のようなしごきを終えてリュシル先生を見送ると、ようやくお昼ご飯の時間になる。
お昼ご飯は挽肉と刻んだ野菜を包んで焼き上げた大きなミートパイにサラダ、そして食後の紅茶と季節のカットフルーツ。これも毎日同じ組み合わせだ。
(美味しいけどたまにはラーメンとか食いてえ……)
本当にサルドビア人はなぜ同じものを同じ時間に食べて飽きないのか?と不思議でならない。
向こうに残った高梁さんもきっと今頃同じことを考えてるに違いない。頑張って欲しい。
午後からはアドルフの仕事を手伝う。
翻訳魔法は便利だが、地球の言葉をサルドビアの言葉に翻訳しようとすると上手くいかないことがわりとある。アドルフ配下の魔法研究者曰く『日本には自然マナが無いためこちらの世界の万能知識書庫への魔導アクセスが不完全で、たまにアクセスが途切れたりバグを起こしたりする』とかなんとか。俺にはあまりピンとこないが、とにかく翻訳魔法の精度があんまりよろしくない。なので日本人の俺によるダブルチェックをする事で、少しでも翻訳精度を上げて外交トラブルを回避するという目的がある。
アドルフの手伝いがない時は邸宅内の管理をしたり、午前中の勉強の復習をしたりと、比較的ゆったり過ごしている。
火が沈む頃にはアドルフも邸宅に戻ってきて、一緒に夕飯を囲む。
夕飯は大きなステーキ、ロールパンにスープとサラダ、そして食後には季節の果物パイと紅茶。大体この辺のメニューも同じだ。
ステーキとサラダは味付けもほぼ同じで、いくらステーキ好きでも割と飽きるな……というのが率直なところだ。味は悪くないんだけどね、味は。
そうしてご飯の時間を終えると、お風呂でサッと汗を流す。
サルドビアは日本よりカラッとしてるので風呂の習慣はそこまで発達していないがお風呂というものはちゃんとあり、流石に王族となると自分専用風呂がある(庶民は家に風呂なんてないので公共浴場に行くらしい)
もちろんこの邸宅にもアドルフ王子と俺のための風呂がある。俺はありがたく毎日風呂に入らせてもらっている。アドルフは汗や体臭が気になる時だけ入ってるようだが、夏になれば毎日入浴することになるだろう。日本の夏は過酷だからね。
風呂は結構でかくて、大の大人3〜4人が足を伸ばして入れるサイズなので大柄な俺でも窮屈などせず肩から足先までのびのび入れる。
そして、夜。
「ユキ」
俺とアドルフはだいたい同じベットで寝る。
とは言っても何の触れ合いもない、普通の添い寝である。
結婚式の夜に添い寝してから、添い寝というものが本人の琴線に触れたらしく毎日添い寝をねだられていた。
実際アドルフの寝室のベットは王宮のものも、この邸宅のものもでかい。大人3人分寝られるサイズに1人というのが少し寂しかったのだろう。
俺としてもケツを差し出せと言われない限り断る理由がないので、添い寝を受け入れている。
(なんか添い寝の方がより安眠できる気がするんだよな?なんでだろ)
アドルフの寝室の馬鹿でかいベットにふたり、今日も静かに眠りにつく。
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