夢野るいむの物語

るいむ

第1話

現代の街角を歩く彼――猫又・夢野るいむは、どこにでもいるような普通の若者の姿をしていた。だが、その瞳には長い時を生きてきた者だけが持つ、得体の知れない深さが宿っている。


るいむは、平安時代の中期に一匹の醜い野良猫として生まれた。周囲からは嘲笑され、いじめられる日々。やがて生きる意味を見失った彼は、何度も命を絶とうと試みた。しかし、そのたびに失敗し、ある日突然、死ぬことができない存在――猫又として目覚めた。


それから幾百年もの間、るいむは人間社会に紛れ込みながら生き続けた。最初はその不死の体を呪い、孤独を恐れていたが、次第に「死ねないなら、いっそ好きなように生きればいい」と考えるようになった。そんな達観した死生観を胸に抱えながら、彼は現代を自由気ままに生きている。


現在のるいむは、日中は郵便局でバイトをし、夜は人々の夢を守る「夢守り」として働いている。しかし、どちらの仕事にも熱中することはなく、どこか気まぐれに、そして適当にこなしているように見える。それでも、郵便局のバイトにはどこか楽しさを感じているらしい。人々の日常の一部に自分が関わっているという感覚が、彼の長い孤独な人生にささやかな意味をもたらしているのかもしれない。

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