第4章 『カモミールの想い ー 月光の花』


私は、グラヴィムスという村の

姫として産まれ育った。



木々は踊り、小川も妖精も歌うそんな美しい村。


魔力も人より多く、周りからは期待もされ、

憧れの眼差しをよく向けられていた。



そんなある日、妖精やお友達とのお茶会で、

この世界には様々な種族がいることを知った。



気になった私は、

その後すぐ書斎へ篭もり世界について調べた。


種族以外にも、

海や山、火山などといったものが

あることも知り、

ますます自分の目で確かめたくなった。



――けれど、お父様は許可しなかった。



それならと、私は夜中にこっそり抜け出した。


月の光を頼りに森の中を走った。



きっと、抜け出せると思って……



無我夢中に走っていて、木の根に気づかず、

私は足を引っ掛けて

前に勢いよく転んでしまった。



けれど、体は痛くなかった。


不思議に思ったその時、

ふわりと優しい香りが漂った。



辺りを見渡すと月明かりに照らされ、

風と共に揺れる白い花が一面に咲いていた。



後に、その花が『カモミール』だと知る。



あまりにも綺麗なお花畑で、

見とれていたら奥からまた違う香りがした。


奥を見ると、

ゆらゆらと黒い影が近づいてきていた。



護身術も学んでいた私は、思わず身構えた。

すると、その影が話しかけてきた。


 

「大丈夫ですか?」



その影は、

月明かりに照らされて人だと分かった。

 


けれど、私たちエルフとは違い

原色に近いピンクの髪色に

角と羽、尻尾も生えていた。



「だ、誰ですか…!?」


「…誰でしょうね?」



声は柔らかく優しい印象だった。




――それが、彼との出会いだった。

 

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