第2章 『月の闇と覚悟 ー 煌めく世界』
「――だから!
医者になるには進学しなきゃじゃん!」
「わかってるって!
でも、ルナが働くまで行く必要は…」
「医者になって、
わたしを守るって約束したよね!」
「……まあそうだけど」
「学費はわたしが稼ぐから、
ノクタは医者になって
これからもわたしを守って……ね?」
「……わかったよ。ただ無茶はすんな」
ノクタには進学してもらいたい。
夢を叶えて欲しい。
そのために、アタシは働くって決めた。
ノクタが15歳を過ぎた頃、異変が起きた。
「……ちっ、見えねぇ」
「また霞むの?」
「いや、そういう問題じゃねぇ」
ノクタはそう言って、
どこかへフラフラと行こうとする。
「いや、危ないから待って!」
アタシはノクタの手をぎゅっと掴んだ。
「どこ行くつもり?」
「……ルナの薬を作ったとこ」
「ひとりじゃ危ないしわたしも行く」
――――――
「ほー、この子があの『噂の子』か」
「『噂の子』?」
「いや、ノクタがな…」
「うるせー!やめろ!ハゲ!!」
ノクタの話によると、
このおじいさんは『師匠』なんだって。
中学で失踪していた間、
このおじいさんのとこにいたとか。
……さっき、なにか言いかけてたけど、
なんだったんだろ?
「で、久々に顔を出したかと思えば
なんの用じゃ?」
「最近、目の調子が悪ぃんだ。
寮や学校じゃ調べられねーから来てやった。
あとついでにこいつの目も見てくれよ」
確かにアタシも
この頃から見えにくくはなっていた。
「まず、ノクタ。
お前水中
…それも海中なら良く目が見えるじゃろ」
「……ああ。」
「認めたくはねぇじゃろうけど、
その目は魚人だ。魚人の目だ」
「……」
「そして、ルナちゃんって言ったかの。
君は前に片目を弄られておるじゃろ」
思い出したくもない――
アタシの片目は、あの孤児院で
色んな器具を刺されてきた。
「今は――何が見えておる」
「人の持つ魔力と体力……それから人の動き」
「……行動予知みたいなものかね」
「多分…そんな感じ…?」
「ノクタから聞いた話だと、
世界が時々白黒にみえるとか」
「うん。
というか、片目だけ白黒に見える時があって、
目眩がするんだよね…」
ほんの一瞬で、世界がぐしゃりと壊れる。
右目は普通に色があるのに、
左目だけ砂嵐みたいにザラザラして、
頭の奥を殴られたみたいに痛くなる。
おじいさんは何かを考え、
ノクタに魔法で水をかける。
「は!?なんでオレに水かけた!?」
「ほっほーっ!
大切な人を守るとか言っておいて、
今の魔法も避けられぬとか雑魚じゃのー!」
「このクソジジイ!!
てめぇの毛全部毟り取ってやる!!」
「まあ、とりあえず
今日から何日か泊まっていけ。
その間、お前ノクタはワシの助手な。
見えねえ目でも、ワシの技術を盗め。
あと、ルナちゃんはのんびりしてての」
うわ……ノクタめっちゃ不満そう…。
数日後、ノクタはげっそりしてた。
目の下には濃いクマ、
そして指先は赤く荒れていた。
「まだ試作段階だけど、
コンタクトつけれるか…」
「え、あ…うん。
やってみるけど、ノクタ大丈夫?」
あとになって知ったんだけど…
この時ノクタは、アタシのコンタクトと
自分のメガネを同時進行で作りながら、
医学部の勉強までしてたらしい。
しかも師匠にしごかれながら。
……どんだけ大変だったんだろ、
って今なら思う。
「おい、ノクタ。お前もこのメガネつけてみろ」
「うっす……」
「ノクタ!見て!コンタクトつけられた!」
――
この時、ワシは思った。
ノクタが、なぜルナちゃんに
そこまで拘るのかを。
――
「ノクタ、ワシは応援しておるぞ」
「あ?何がたよ」
「そんなことより、ノクタ、ルナちゃん。
見え方はどうじゃ?」
「オレのは細めればまあ…」
「うーん…わたしのももう少しかな」
それからどのくらい経っただろうか……
アタシは下手ながらも皿洗いや掃除、
それに簡単な料理もした。
手はボロボロになったけど、
泣き言は言わなかった。
もちろん、学校の勉強も欠かさなかった。
ノクタが頑張ってるのに、
なにもしないでいるのが無理だった。
そんなある日、珍しく上手くキッシュが焼けた。
この頃には、
アタシも片目が良く見えなくなっていた。
よく焼けたなって、自分でも思った。
ほぼ勘だけど。
「わ〜!美味しそう!ふたり喜んでくれるかな」
「……はあ…だぁぁぁ。
やっと…やっと完成した…」
雪崩込むようにノクタが研究室から出てきた。
…なんかまた背が伸びた気がする。
「ルナちゃん、またこれつけてくれるかの?」
入れた瞬間、世界が爆発した。
光が、色が、形が、一気に押し寄せてきて
……涙でぐしゃぐしゃでも、
全部がはっきり見えた。
「ありがとう!おじいちゃん!」
「ほほっ!
それもこれもルナちゃんが
お手伝いしてくれたのと……」
「んだよ……」
ノクタの顔を見るとメガネをかけていた。
「ノクタも見えるようになった…?」
「まあな…」
「良かった…」
アタシは嬉しくて泣いていた。
それからノクタは高等学校、大学に進み、
アタシは働きはじめた。
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