青春の一幕

白ノ宮@小説初心者

少女達の葛藤

夕陽差し込む体育館。


私と彼女はステージの淵に座って、赤く照らされる館内を眺めていた。


「もう、卒業だね...」


彼女は俯きがちに、いつもより何段階も低いトーンで悲しげにいった。


「そう...だね」


私は彼女に掛ける言葉が思い浮かばず、同意することしかできずにいた。


時は2月の末、4日後には卒業式が控えている。

彼女と私は親友同士ではあるのだが、目指すものが違うため進学先が違う。更に彼女は東京の大学に進学するようで、向こうで一人暮らしをするようだ。


つまり、気軽に会うことは叶わなくなる。


納得していたはずなのに、いざ卒業式が近くなると心苦しくなる。コレは多分、親友に向ける感情じゃない...。


「ね、ほのかはさ。離れ離れになっても親友で居てくれる?」


彼女...莉奈は、瞳に涙を浮かべながら私に寄りかかり、頭を私の肩の乗せた。

まるで学園恋愛を題材にしたドラマかのような美しい光景に見惚れそうになる。


思考が止まりそうになりながら言葉を返す。


「うん、勿論。莉奈だって私の事忘れないでよ?」


私がそう言い切った瞬間、莉奈は私をステージの床に押し倒した。さりげなく頭が床にぶつからないように左手を差し込んでいる所が可愛い。


私の腰を両膝で挟むように跨ぎ、私の左耳付近に莉奈の右手が置かれる。

莉奈の長い髪が私の首筋に掛かり、吐息が顔に当たるほどに距離が近くなる。彼女の涙が私の頬に落ち、まるで私が泣いているかのように床に向かって伝う。


莉奈の目は私の目を真っ直ぐ見つめていて、もはやコレは親友の距離感じゃないことは明らかだ。


(このまま莉奈と一つになりたい...)


そんな劣情を催してしまうが、我慢しなければ...。この先耐えられない。離れ離れになるのだから早く踏ん切りを付けないといけない。


それでも...。


「ほのか...良い、よね?」


莉奈の頬は別の意味で熱を持ち赤くなっている。距離も更に近づこうとしていて、彼女が何をシようとしているのか分かる。


「...だめ。だって、これしたら気持ちの整理が...」


本能と真逆の言葉を絞り出す。それでも私は莉奈の熱を持った目から目線を逸らすことができないでいる。


「そっか...、うん。無理強いは良くないよね。ごめん、気持ち悪いよね」


スッと離れる莉奈の腕を掴んでこちらに引き寄せる。


「え、ちょ、うわっ!」


完全にバランスが崩れた莉奈を抱き留める。

ギュッと抱きしめながら片手で莉奈の頭を撫でる。


莉奈は抵抗することなく私の胸の中で泣き始めた。


(せっかく勇気を出してくれたのに...、こっちこそごめんね莉奈)


莉奈を振り回してしまっている自分に嫌悪しつつ、私も静かに涙を流した。


──────

───


夕陽は地平線に完全に潜り、月明かりが地面を照らす。

体育館から出てきた私達は荷物を教室から取ってきて下校していた。


道中は終始無言で手を繋いでいた。いつもよりも遅く歩いていたのはなるべく多くの時間を莉奈と一緒に居たいから。


いつも別れる十字路で二人立ち止まる。

繋いでいた手を離す。


「...また明日ね、ほのか」


「...ん、また明日。莉奈」


莉奈は微笑みを浮かべていたが、心境はめちゃくちゃだろう。だって私もそうだから。

私はうまく笑顔を作れていただろうか。


少しずつ遠くなっていく莉奈の背中を眺める。本当にこの選択で良かったのだろうか?


(...やっぱりダメだっ!!)


荷物を道に投げ捨て莉奈の背中に向かって走る。

莉奈も背後から音が聞こえたのを疑問に思ったのか振り向く。その頃には私は莉奈の目の前にいた。


衝動に身を任せて私の顔はそのまま近付き、莉奈の頬にそっと口付けをした。


「...え?」


「ふふっ」


莉奈は何が起こったか理解できていない様子で呆然としている。そんな莉奈がおかしいのと照れ隠しも含めて笑ってしまう。


「なっ!?...もうっ!」


すると揶揄われているとでも思ったのか莉奈はムッとした表情を浮かべて私の手を莉奈の方に引き寄せた。


「えっ、まっ、おぉっ!!」


突然のことに私は抵抗できずに莉奈の方に引き寄せられてしまう。まるで体育館での莉奈のように。


莉奈は目を瞑って私の唇に自身の唇を合わせた。


莉奈のふにっとした柔らかい唇が私の脳を焼き焦がす。舌が触れているわけでもないのに甘酸っぱい味がした。


「お返し...大成功っ♪」


唇を離した莉奈は顔を赤く染めながら、ペロっと舌を出してイタズラが成功した子供のような表情を浮かべたのち、笑顔になった。


私の顔も彼女と同じように赤く染まったのは言うまでもない。

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