第七話 [決着]~白焉修道院篇~


 毒液が蒸発し、戦場がくっきり見えるようになった時、その場にいた四人のベテラン術師達は絶句した。そこには、紅鬼の鞭のようで燃えている髪の毛の束が、龍惺の腹を貫通していたからだ。

「ごふっ…げぇ、はぁはぁ……」

 龍惺は、髪の毛に持ち上げられ、空中で大量の血を吐いた。

「おいっ!坊主!!大丈夫かよ!」

 大人の一人が声を掛けた。しかし、返事は無い。当然だ、鳩尾みぞおちを貫かれ、更に燃えていて、徐々に鳩尾の周りが焼きただれてきたのだ。だが、一応まだ龍惺の意識はあった。強い執念と言ったところだろうか。だが


 〈終:狂神蛇王・残霧毒つい:きょうしんじゃおう・ざんむどく

 

 なんと、この状態で技を繰り出したのだ。それも、終技ついぎだ。

 

 ───『終技』とは、簡単に言うと”最終奥義”だ。輪術は一人ずつ、独自の術が刻まれており、その術の全てを引き出す場合や、想定外の使い方で敵をほふる。そのような最強技のこと。───

 

 紅鬼の鬼も終技を唱えだした龍惺に一瞬怯んだ。しかし、子供相手に怯むほど弱くは無い。

「掛かってこいや!終技がなんぼのもんじゃー!!」

 途端に、巨大な蛇が出現し大暴れしだしたのだ。それに、その蛇が霧状の毒を噴射した。恐らく神経系の毒だろう。その場にいた大人達も体が痺れ出した。

「お、おい何すんだよ!稲川いながわやめ、ろ、、よぉ、ぉ……」

 稲川と呼ばれた男は、電気系の術を使ったあの人だ。なんと彼は、自分が持っていたナイフを、自分の首に刺したのだ。勢い良く首から血が溢れる中、水系の術者も意識が遠くなり、残りの二人と殺し合いを始めたのだ。

 紅鬼の鬼は、何が起こったかよくわかっていなかった。だが数秒後。紅鬼の鬼も体が少しピリピリと痺れてきたのだ。鬼だから人間より毒の耐性があるのだろう。意識も保ち、おかしな行動も取らない。そこで、

「奴ら術師の奇妙な行動といい、この痺れといい。恐らく神経系と精神系の毒だな。早々に殺しておくか」

 紅鬼の鬼が輪術の出力を上げた。すると、龍惺の体に発火した。

 

 ───龍惺の命は尽きた。───

 

 その場の生き残りは、紅鬼の鬼のみだ。そこで、紅鬼の鬼は輪術を解き、髪の毛の炎も消え、元の姿に戻った。

「あぁ、もう終わりかい。このガキのせいで他の奴らも死んだじゃねーか」

 そう、四人の輪術師の死因は毒により精神が狂い自害、共殺しだ。つまり、龍惺が間接的に殺してしまったことになる。

だが、あの終技なら仕方ないのかもしれない。

だが、殺しは殺しだ。

だが、龍惺が殺さなくても、紅鬼の鬼によってこの輪術師達は死んでいたのかもしれない。

 

 東雲龍惺しののめりゅうせい・享年十一歳

 稲川電治いながわでんじ・享年三十五歳

 水谷小雨みずたにこさめ・享年三十四歳

 山本健太やまもとけんた・享年三十五歳

 田中太郎たなかたろう・享年三十三歳

 

 今回の、白焉修道院はくえんしゅうどういん鬼襲撃事件は、死者五名。負傷者一名(大焚一茶おおたきいっさ)。被害、白焉修道院全焼。という結末で終わった。後に、『鬼襲白院きしゅうはくいん事件』と、呼ばれるようになるのだった。

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