第五話 [外出の悲劇②]~白焉修道院篇~


─────商店街から修道院への帰り道────

 「もう畑か、」

 行きの道よりもなんだか商店街から畑までの道のりが、短く感じた龍惺りゅうせいは呟き、煌橙こうだいの言っていたことに対し、確かにと思っていた。龍惺の聞こえるか聞こえないかの絶妙な声量の一言に、珀爾はくじは頷いた。同じことを思っていたのだろう。

 海沿いの田んぼ道を通り修道院が見えてきた頃、珀爾

が叫んだ!

 

 「なんだァァ!あれはァァ!」

 

 煌橙は膝から崩れ落ちる。龍惺も膠着こうちゃく状態だ。

 珀爾が怒りと恐怖、不安が混じった声で言う。

 「な、なんで修道院が、燃えてんだよ…。おいっ!お前ら早く修道院に行くぞっ」

 真っ赤に燃え上がる修道院を遠くから見ていた二人は珀爾の一言で我に返った。

 三人は必死で修道院まで走った。そこには頭から血を垂らした院長の大焚おおたき先生と、火を消そうとしている副院長の氷室ひむろ先生だ。煌橙が今にも泣きそうな声で問うた。

 「先生…これは、一体……」

 その言葉に大焚先生が答える。

 「あっ、帰ってきたのですね。他の子達はみんな学校の方に避難させましたっ!あなた達も急いで学校へ向かってください。皆さんがいるはずです。状況は避難した子達から聞いてください。さぁ!急いで!」

 三人は頷いてから走り出した。田んぼ道を走っている時、四人ほどの大人が修道院に向かって行った。珀爾はそれに気付かなかったが、煌橙は気が付いていた。

 『 もしかしたら協会の方からの応援か?』

 そう思いながらも必死に走って学校へ向かっていた。

 学校に着いた頃、珀爾と煌橙は気が付いた。

 「龍惺が…いない……」

 龍惺がいなくなっていることに。二人は慌てた。そこで、煌橙が記憶を巡らせる。逃げるのに必死だったからなのか記憶は曖昧だが思い出した。あの時の四人程の大人の後ろを龍惺はついて行っていたのだった。煌橙は思い出し、なぜ視界に入っていたのに止めれなかったのかを悔やんだ。まだ子供の龍惺が行ったって何にもならないからだ。しかし、一人修道院に戻ろうとしていた龍惺もそんなことはわかっていた。でも、どうしても役に立ちたい。という思いがあったのだろう。

 大人の後についてきていた龍惺も、大人達と共に修道院に到着していた。応援に駆けつけた協会の大人達は挨拶をし、まだ状態がいい氷室先生に状況を聞いた。氷室先生は簡潔に詳しく説明してくれた。

 「の襲撃だ。この修道院は古くから、輪術師として子供達を育ててきた。そのため鬼達の標的にされ、何度か襲撃はされてきたらしいっ。しかし、今日…その襲撃が来るとはな。修道院の奥には鬼がいる。それも、輪術の使い手で、炎かなんかの術だろう。」

 その、説明を聞いて大人達は理解した。龍惺も子供ながら何となく理解はした。鬼や、他の種族のことは修道院の授業で聞いたことはあったからだ。

「おいっ一茶いっさ!大丈夫か?」大人達の中の一人が大焚先生に呼び捨てで安否を確認した。大焚先生はこくりと頷いた。それを見て、大人達は大焚先生を氷室先生に任せて燃え盛る修道院の中へ入っていった。それに、龍惺もついて行った。その後ろ姿を見て大焚先生は、はっと気付いた。

 「龍惺さんっ!」

 その声はもう龍惺には届かなかった。

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