王女の品位

神地 香里

第1章 王位継承の資格 朝のバス停 1

 5月下旬のアメリカの田舎街、街路樹のジャカランダの紫の花が咲き誇る。そこに

15才のリンネはスクールバスを待っていた。今日で中学の授業は最終だ。卒業式もある。それにプラム(卒業パーティー)も楽しみだ。


そして夏のバカンス、両親と3人で避暑地の北部へ行く予定だ。高校も3月に合格メールが届いているので、思いっきり楽しめる。そう思いながら眠い目を擦りバスを待っていた。そこへ友達のエマが現れ話かけてきた。


「おはよう、リンネ」

「おはよう、エマ」

「リンネはさあ、アーサーと同じ高校に通うでしょう。優秀で羨ましい。私は9月からの高校生活で、あのイケメンの顔が見れないなんて寂しいわ」

「エマはアーサー押しだからね。プロム(卒業パーティー)でパートナーに誘ってみたら」

「そうね。駄目もとで、誘ってみようかな。リンネは誰を誘うの?」

「まだ決めてない」


そう言うと黄色いスクールバスが到着した。2人は扉が開くと乗り込んで、後部座席に座って先程の続きを話始めていた。エマが気合の入った声で言った。


「あのさあ、アーサーは後ろの席に座るでしょ。善は急げでさ、プラム誘ちゃうわ」

「え、ここで。皆の前で勇気あるわエマ」

「何言ってるの。噂では誘った女子は全敗よ。振られたって恥ずかしくないわ」

「男前の発想ね」

「リンネはいいの。私がアーサーを誘って、上手くいったらどうする?」

「え、どうもしないよ」

「余裕ね。やっぱ、モテる子は違うわ」

「モテないわよ。だって誘われたこと無いもの」

「それは高根の花過ぎて、声がかけづらいのよ。もっと隙見せなさい」

「何よ。隙って?」

「もし、お目当ての子がいたら目を合わすのよ。リンネだったらイチコロよ」

「無い無い。そんなこと」

「こんなに美人よ。あんたが思うより男子はリンネに夢中よ」

「やめて。それ友達だから良く見えてるの」

「そうかな。今だって男子の視線感じるんだけど」

「冗談ばっかり」


そう話しているうちに次のスクールバスのバス停で止まった。そこへアーサーが乗り込んできた。周りにいる女子達がアーサーに釘付けだ。


アーサーはいつも座る後方の座席に座った。いつもの席は必ず空いている。暗黙の了解でアーサーのために女子が確保している。アーサーのファンはエマだけでなく大多数いるからだ。


アーサーは座席に座ると誰かを探しているように周りを見まわしていた。後ろの席からエマが声をかけた。


「アーサー」

「何?」


後ろの席のエマに声をかけられて振り向いた。するとリンネがいた。自然とリンネの顔に視線を移した。


「ちょっと、私が呼んだんだけど」

「あ、そう」

「アーサー、プラムのことなんだけど。パートナーになって」

「ごめん。決めた人がいるんだ」

「やっぱりね」


思う程、エマはがっかりしていなかった。

アーサーは横にいるリンネを見た。リンネは目が合ったが、すぐに逸らした。あまりジロジロ見ていては2人に悪いと思ったからだ。でもアーサーはリンネから目を離さない。そしてリンネに言った。


「僕とプラムのパートナーになって下さい。」

「えっ!」


バスに乗っている全員がアーサーとリンネに注目した。


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