1 寧ろ、ラスボス

 敬天けいてん王国、フォース。

 ……何か、強そうだ。


 だが、当然、そういうアニメによくある王のいる国でしかないはず。

 ので、王国の事情は収集しないといけないことでもなかろう。戦争とかしてないなら留意するべきことでもなかろう。


 フワッと、しておけ。


 華やかな、城である。

 もう、どこからどこへと歩き回りつづけてきたのかさっぱり、ともあれ、赤い髪の王太子に案内してもらったのは大広間だった。応接間か?


 調度品が、ド派手だ。

 ふかふかソファーから物々しいテーブルまであったが、いずれも繊細な紋様が黄金みたいにキラキラしている。


 造詣ないからどういう代物かはさっぱりわからないし、欲しくてやまない気持ちも湧かないものたちだったが――一つだけ、わかった。


 絶対、値が張る。


 すなわち、これらに使われているのが税金だと思ったらイラつく。


 おうとも。

 贅沢など、敵だ! 納税者の、敵だ……! 

 税金生み出す金蔓だと見做すや搾取してくれやがって……! 


 金なんて、ねーわよ!


 ――とはいえ!


 すべてが税金だというなら羨望しかないわたしだった。


 いいよな、王族。いいよな、贅沢……。

 いや、しがらみだらけの王族そのものにはなりたくないので、聖女の地位にあるのが最高だと気付いたわたしだった。


 聖女には、特権ある。聖女特権。


 きちんとおつとめするなら贅沢していいみたいな特権。なんなら、そんじょそこらの王族より驕り高ぶっていいみたいだ。

 なにそれ、しゅごい。

 となれば、特権きわめた聖女の地位をうしなうわけにはいかない。


 但し、サボったときにはすこぶる痛い目を見るのも明らかで――


 でも、そもそも、わたしはどこまでいってもあくまで本物ではないのだ。特権ともなう聖女であるには聖女の皮を被らなくては。

 ところが、なんらか策謀するほどあたまがいいわけでもなかった。


 だったら――パワーだ。


 あたまがダメダメだったらパワーに傾倒するしかない。

 神聖なる脳筋パワーですべてを圧倒するしかないのだ。すなわち、わたしがこれから取り組まなくてはいけない活動とは、


「――鍛錬だな」

「何だって? 美雨みう?」


 向かいの、紫月殿下。目を、ぱちくり。


 そう。わたしは、美雨。

 枝世えせ美雨。エセって……。

 まあ、いい。


 ともかく、まず、肝心な人物の目を覚まさせなくてはいけないはず。おのれが失態つづけているのを突き付けなくては――。ちょっと、乗り出す。


「紫月殿下、こんなことを口にするのはたいへんこころが痛みますけど、先送りにするならいっそう窮地しかないかもしれないので……伝えます」


「おっ、おう……何だ?」

 ああ。はっきり、告げよう。


「わたしはあなたの所望している聖女などではございません」


「!?」


「たんなる、凡人です。ハズレの、凡人です」

「なっ、なっ、なっ」

 なっ?


「嘘だ……!!」


 ガタンと、ホラーアニメ的な怖い顔で彼は立ち上がっていた。

 ネタ、古くない?


「真実です。あっちの……くに、くに、国守くにもりさん? ――こそ、聖女です」


 さっきの、彼女。

 どうやらまわりに国守だと名乗っていたみたいだ。そういや、本物ではない認定くらって現在どうしているのか……。


「では、おまえの身に負う強力な魔力はなんだというのだ……?」


 ふむ。わたしに相当の魔力があるのはわかっているのか。

 たしかに、出会ったあのときオーラがどうとか口走っていた。


 王族特権? 


 なにしろ、わたしが認識叶うのはわたしに備わった魔力だけ。王国では民草までふくめて魔力あるようだったが、まわりの者たちのちからは露ほども確認できない。彼の、ちからも。


 ……ともあれ、丁度いい。現実、見せよう。


「ええ。魔力なら、あります。ええっと……水晶石すいしょうせきを」

「おお、なら……! ちょっと、待て」


 隣室へと、駆け込む。あるのか。

 くだんのアニメに存在したから適当こいたというのに、忙しなく戻るなり適切なブツを寄越してくるプリンス。ひとみが、真剣。


 水晶石は、鑑定機だ。計るのは、魔力――


「……これ、どうです? 聖女だと、思います?」


 水晶石に、手を置く。

 直後、水晶石の中でなにやらグルグルしだした霧の如き何か。うずまく何物かは夜の闇を体現したみたいに黒々しく――


 毒々しい。いや、禍々しい。これ、何属性よ?


「巨悪かな……?」


 彼の、つぶやき。わたしは、うなずく。

「ですよね。いまのは、慧眼かと」


 こんなにはっきり禍々しいようなら聖女ではないはず。

 寧ろ、征伐するべきラスボスこそわたしの適性かもしれない。それほど、禍々しい。暗黒属性?


「何で。どうして。強いのに、酷い……。怖い……」


 彼が呻く。

 ちょっと、可哀想だ。


 反省ならともかく絶望させたいわけではないので、いや、底なしに絶望されたらこのさきわたしが困るので、多少強引でもいいからなんとか回復させなくては。故に、宣言した。


「でも、ご安心を。わたしははいそうですかと追放されたくないので。というか、


 国民の税金で死ぬまでヌクヌク暮らしていきたい……!


 ので、何かしら真面目にコツコツ対策したいと思います。つまりは、以後、聖女だと大々的に大言してもらって問題ないかと」


 ドヤっと、宣言した。


 彼が、固まった。また、つぶやく。

「下衆かな……?」


 何だ、おまえも皆様の税金でヌクヌクしているくせして。


「ええ、そうです。こころが、邪悪です。ちからの属性からしてまったく聖女ではないので。本当、邪悪です――とはいえ、調子こいたらいのちをうしなう可能性もあります。処刑です、処刑。あなたもわたしもギロチンくらって人生終了です」


 おそらく、どっかのケルトの由緒ある処刑方法ではあるまい。あれ、怖いよね。あんなの持ち出しされたら即行くたばるまである……ともあれ。


 ざまぁだ。

 よくある転生ものにはめっちゃありがちだという。(伝聞)


 ただ、多少贅沢したところで革命まで至るとは思えない。

 ので、そんなにたやすく処刑イベントなど発生するまい。現在、この王国まったく貧乏そうではなさそうだったし。


 とはいえ、王族にはけっして歓迎できないフレーズみたいで、

「こっ、怖いこと、言うなよ……」

 引かれた。


 そりゃあ、そう。わたしも、怖い。ざまぁは、怖い。


「いや、でしょう? わたしも、いやです。なら、このままシレっと聖女だと言い張りつづけて、何かしら然るべきかたちでちょっと精勤して、多少なりとも国民へと還元するのがいいかと――。すなわち、あっちを蹴落とすつもりでがんばらなくては。なんなら、本物の聖女がみずから勇退するようみちびく……! これ、しかない!」


 この結論、最高。我ながら、かしこい。(愚か)


 でも、わたしたちがもろとも処刑されるというなら、おそらく、本物の聖女に断罪くらったときではないかと。なら、彼女を窮地へ追い遣る画策するのはよくない。


 読むなら、流れ。


 彼女の意思で決断したかの如く流さなくては。

 当然、どうにもそういうかたちにできないようなら、どうにかなるまで静観しているのがベストだ。


 そのかん、わたしたちはわたしたちでなんらか努力する。

 為の、鍛錬。


 等と、おバカなあたまが調子よく結論したところで、

「本当、アレだな。大概だな……。……だが、」

 くすっと――笑う、彼がいた。


「おまえは、楽しそう。それなら……まあ、悪くない」


 ……おや? わたしが楽しそうなら何かいいことあるのか? 

 どういう気持ちでいるのかさっぱりだったが、ともあれ、いまので何事かに満足したようならよかった。


 そう、これから付き合わせるのに支障ないようなら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る