残念! わたしはハズレの聖女です(暗黒微笑)

崑崙八仙 禰々

序 アニメで、見たやつ

「――おまえだ! おまえが、聖女だな?」


 はっ?

 いきなり何か叫ばれてパチッと目を開けたら、何と、いきなり赤い髪のきれいなおとこでびっくり。


 いわゆる、イケメン。西洋風の――。だれ? なに? 


 わたしがバカみたいに混乱しているあいだに、きれいな赤髪おとこはアホみたいに口走った。


「なるほど! 何か、こう……闇っぽいオーラがかえって神々しい感じする!!」


 …………、……なに、このひと、アホの子? 

 笑い顔が、アホだが。


 っと、詰まったわたしに代わって何者かが突っ込む。


「いえ、紫月殿下しづきでんか。じっくり、ご検討を。そんなに綿飴みたいにフワッと判断なさって、そうではなかったならどうする所存なのです? 全身全霊、ご検討を」


 またぞろ、イケメン。ローブをまとった弱り顔をしているイケメン。


「おい。何を、言うのだ。俺は、ただしい」

 反論する、アホの子。

 弱り顔も、引かない。

「では、あちらは……?」


 左手へと、目を遣る。釣られる、アホの子。

 わたしも、釣られた。


 そこには――女性。

 キラキラ光る奇妙きわまる床にしゃがむ女性。心配顔の金の髪のおとこに寄り添われている。こっちも、イケメン。


 何だ、何だ、大いなるイケメン祭りでも開催しているのか? 


 というか、ここ、どこ? 

 あんたら、なにさん……?


 一方、赤髪おとこはやっぱりアホみたいに返答した。

「んっ? んー……。要らない。捨て置け」

「紫月殿下! ちょっと――」

 弱り顔が、叫ぶ。色々、叫ぶ。


 だが、赤髪おとこはどういう文言にも対応しないで、すこぶるニコニコしながらわたしに振り向く。


「さあ、聖女。こちらへ」


 招かれた。

 凡そ何がなにやらそれこそさっぱりだったが、歓迎しているのは赤髪だけだとわかったので、用心しながらしたがうしかないわたしだった。


 にしても……チラッと、振り向く。

 何だろう、この、既視感は。


 何か、あたまの奥の奥に何事かが引っ掛かっている。


 特に、あの光景……奇妙きわまるキラキラ光る床にしゃがむ女性。あの、キラキラ……どこかの文字みたいな紋様走り回るキラキラ。丸い、キラキラ。

 そう、円い。円く光る、キラキラ……ああ。

 

 魔法陣だ――


「……あっ」

 ようやく、気付いた。


 これ――アニメで、見た。見たやつ!


 何だっけ? 

 転生……聖女もの? 


 詳しくは、知らない。

 深更、転生とかなんとかよくあるアニメが放映していて、寝ぼけるまま適当ながらもぼんやり見てしまった。連続放映していたため結末まで視聴してしまった。気付くと、朝だった……。


 とはいえ、それだけ。ただ、それだけ。

 興奮しながら積極的に視聴したわけではなかった。

 そうして、転生うんぬんいうならわたしはそれこそとっくに……。


 そう。わたしは……いのちを、落とした。

 

 いわゆる、熱中症で。

 夏が、暑すぎて。いのちを、焼かれた――

 

 何という、こと。何という、結末。


 いや、別に、そういう人生だったらしょうがないことだったし、生還など恋い焦がれるのはあまりに反則だったし、けっしてどうにもならないならどうにもなるまい。 

 ただ、熱中症だ。いわゆる腐乱死体だったら一体どうしてくれよう。


 そこだけ、心配……。


 というか、変なかたちで人生つづいてしまった感じだったし、どうやらからだも年齢ふくめてそのままだったし、絶命したおのれを哀しいと思うほど実感なかった。そのうち心痛くらって泣いたり悔いたりするのか、どうだか……。


 ――っで、今である。


 イケメン赤髪おとこに先導してもらっているこのいま。まばゆい回廊を前進しながらさっきの光景を反芻する。


 しゃがむ、女性。あれ、


 深いことかんがえなくてもあっちが正解だと思われる。


 神聖なる、本物だと。


 さながら、ひかりだ。

 ふんわりフワフワ茶髪からきれいにかがやく指先まで、見た目でいうならいかにも理想的な聖女さまじゃない。しつこく確認した弱り顔のおとこも気持ちもわかろう。弱り顔はあっちが正解だとうったえまくっていたのだ。


 となると。このひと……節穴? この、アホの子。


 背を、見つめた。赤い髪が、まぶしい。

 どういうわけだかわたしをただしい聖女だと確信して、みんなを無視して飛び出てしまった残念きわまるひと――


「あの……」何だっけ? ああ、「……紫月殿下?」


 おとこが、振り向く。足も、止まった。

「ああ、違う。いまのは、呼び名だ。ほら……ひとみが、紫だろう?」

 ちょっと、寄られた。近づいた、双眸。


 どれどれ?


「ああ……本当、紫ですね。……いいなあ、きれいで」

 無意識に、見入った。

 そしたら……ドンっと、押された。喚かれる。


「おまえな、近い! 不用心だ……!」


 えぇ……。

 なんなん、このひと。ひとみがどうこう接近したのはおまえだろう。なぜ、この反応? 一体全体どういう仕組みの神経しているのか。

 怖い!


「……もう、いいです。呼び名で、呼びます」

「待て、よくない。名乗ろう」

 おい。


「俺は、フェイス。フェイス・フォッフフュップ! 王太子だ!」


 ドヤっと、名乗った。

 フが、多くない? 名字、変じゃね?


 わたしは、半笑いだ。

「…………、……はん」


 王太子か。

 となると、さっきの金髪さんって第二王子とかそのへん? 

 あの、しゃがむ本物の聖女を心配していたイケメン。絶対、ああいうところにいるのはそういうやつらだ。


 じゃ、ダメだな……これ、やらかしまくって追放展開きちゃうやつだな。ハズレのわたしもついでに巻き込まれるやつ。おたがい、詰んだな。


 そう。アニメで、見たもの……!


 くそ、どうする。

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