百合色テレパス
穂志上ケイ
第1話
私、
でも、今までそういった容姿を特に気にしたことはない。
いや、気にするほどのことが無かっただけかも。
相手に良く見られたい。他の子よりも綺麗になりたい。という闘争心がないだけ。
だって面倒くさくない? なんで他の女子と可愛さ比べをしないといけないのか、中学生の時は疑問で仕方なかった。
だけど、今は違う。
恋をした。それも先生に。
だから、少しずつだけど見た目にも気を付けて少しでも可愛いって思ってもらえるように仕草とかも色々と勉強もした。
先生はよく私を見てくれる。きっと私に気があるんだと思う。
これって両思いだよね。付き合ったら何をしよう。どんな所へ行こう。
そんな思いが募るばかりだ。
だけど……。
◆◆◆
「
「……」
「詩帆ちゃん!」
何度も呼びかけるが、相手は反応しない。
それどころか少女を無視して、他の子たちとの会話を楽しんでいる。
「
教卓に群がる他の生徒たちも掻き分け、話しかける。
「どうかしましたか? 早瀬さん」
先生という言葉に反応し、少女の方へ向く。
「何で無視するの!」
「無視はしていません。ただ私は教師で、あなたは生徒です。その関係を優先してるだけですよ」
つまり、先生として接してなかったから無視されたと。
この人は藤峰詩帆先生。年は私と7つ違いの25歳。整った顔立ちに少し童顔の愛らしさを持ち、親しみやすい雰囲気を漂わせている。
その所為でもあるのか、私みたいに友達の様に話す子も多い。
あと、身長が同じくらいで長い髪をヘアアレンジしてないから生徒と思われているのかも。
だけど、その優しく親しみやすい見た目とは裏腹に教師としての情熱と責任感は本物だ。生徒1人ひとりに寄り添い、丁寧に指導する姿は多くの生徒から信頼されている。
温かく穏やかな笑顔でクラスを包み込みながら、時には厳しく導く。まさに理想の教師と言えるだろう。
でも……。
別に休み時間なんだし、それくらい……。
「休み時間だからこそですよ。先生は友達ではありません」
「何も言ってないんだけど!」
「顔に書いてありますよ」
顔をペタペタと触り、鏡を見るが特に何か書いているわけではない。
高校3年生が始まって早2ヶ月。先生とはよく話すが、こういった場面が何度かある。まるで心が読まれてるみたい。でも、そんな先生が私は……。
すると授業開始1分前の予鈴が鳴る。
「さあ、席に戻って授業の準備をしてください」
教卓前に集まっていた子たちは、自分の席に戻り始める。
私も出口に近い一番前の席に座る。
そして授業開始のチャイムが鳴り、委員長の挨拶で授業が開始された。
「それでは今日は、受験対策の問題をします」
すると『受験』というワードに反応し、みんなは不満の声を漏らす。
自称進学校からすれば、これは当たり前なのかもしれないが。
いきなりやる気になる子は少ないだろう。
「早めに自分の弱点は知っておくべきです。好きなことやできることは何度も自分の意思で出来ます」
確かに。ゲームとかでも強い敵に挑まずに、何度も何度も弱い敵ばかり倒したり。好きな曲だけプレーしたり。言っていることは正しい。
「逆に苦手なことなどは自分からやりにくいです。どれだけ時間があっても。だからこそ授業でやります。いいですか?」
その言葉を聞いて不満を漏らす生徒はいなくなった。
はぁ〜。好き!
無表情のまま先生を見つめる。だけど心の中は思いで溢れていた。
(さっきもだけど、ああやってちゃんと言ってくれる所も、みんなに優しい所も全部好き)
好き、しゅき! まじで人生の推し!
そんな授業そっちのけで先生のことを考えていると、あっという間に50分が経ち授業が終了していた。
「早瀬さん」
「はっ、はい!」
授業を終え、教室を後にしようとする先生に呼び掛けられる。
「後で職員室に来なさい。以上」
「え?」
そう言い残し、先生はその場を離れていった。
もしかして、告白!?
そんなウキウキした気持ちのため、午前中の残り授業は全くもって頭に入らなかった。
昼休みを告げるチャイムが鳴り、私は教室を後にし、職員室へと歩き出した。
「失礼しまーす。藤峰先生はいますか?」
入り口に私が見えると、小さくため息をつきこちらへと向かってくる。
「早瀬さん、少し場所を変えましょう」
先生は少し頭を抑え、校舎の方へ移動し始める。
「ぜひ!」
こんな所で告白は嫌だし。
◆◆◆
ここ、
「授業以外で旧校舎に入るのって何か不思議」
旧校舎とは対照的に校舎の外はお昼ご飯を食べている生徒の声が聞こえる。
そんな騒がしくも静かな時間が数秒続く。
「早瀬さん」
「ひゃ、はい」
「……補習です」
「ゑ?」
「当たり前です。最近の授業態度といい、提出物といい。何も出来ていません。ですので今日の放課後から補習です」
「い、いきなりすぎですよ! 詩帆ちゃん」
「はい?」
「な、何でもないです」
ひぃー、圧がすごい。でも補習ってことは。
「藤峰先生が見てくれるんですか?」
「いえ、私は別の仕事があるので、他の先生です」
終わった……。先生じゃないならやる気出ないよ。
小さくため息をつき、私を呼ぶ先生。
「いいですか。補習は今日から3日間です。それをしっかりと終わることができたらご褒美をあげます」
ご褒美?
私はすかさず先生の胸へ飛び込むことに。
不意の行動だったのか、避けるといった行動はせず私を受け止めてくれた。
こんな些細な行動だけど優しさを感じるよね。
「ちょ、ちょっと早瀬さん!?」
「約束ですよ! 絶対ちゃんと終わらせますから」
とびっきりの笑顔を先生に向け、決意表明をする。
ああ、私は今どんな顔で笑ってるんだろ。変な顔は嫌だな〜。
せっかくなら可愛い顔を先生には見てほしい。
そう思いながら、数秒彼女に抱きつく。
「……だったら最初から真面目にしてください。それと早く離れてください」
少し名残惜しさはあるが、怒られたくないのですっと身を離した。
「はーい。次から頑張ります。でも何で旧校舎でその話を?」
「それは教室の案内も含まれているからです。放課後は予定があるので」
もしかしてデート? いやでも先生に彼氏がいたら私きっと……。
「出張ですよ。進路先の大学へ挨拶に行くんです」
また、顔に触れ、確認をする。
私、そんなに顔に出てるのかな?
その後、補習教室案内をしてもらい、私は昼食を食べる為クラスの方へ戻った。
だけど、頭はもうご褒美のことでいっぱいで昼食に何を食べたのか。授業でどんな内容をしたかなんて覚えていない。
どんなご褒美を貰おうかな〜。
放課後になると、私は急いで荷物を持ち補習の教室へ向かった。
凄くやる気があった訳じゃないけれど、早く終わらせてご褒美を貰おうという気持ちがより強く出ていたのかもしれない。
そして、本来3時間ほどかかる課題も2時間ちょっとで終わらせることができ私はルンルンと教室を後にする。
「それじゃあ、さよならー」
そそくさと校舎を出て、駅へと向かう。
電車通学と一見不便に見えるが、私の学力では、葉芽高校が通える最低ラインだったため、不便とは言ってられない。
それに藤峰先生も電車通勤って聞いてるし、もしかしたら会えるかも。
そんな淡い期待を胸に改札を抜け、電車を待つ。
今日はいないか〜。まあ出張って言ってたし会えるわけないか。
『まもなく電車が到着いたします。黄色い点字ブロックまでお下がりください』
「え?」
少女は反対側のホームを見る。
そこには先生の姿があった。
「あっ! しほ……」
だが、その隣には、仲良く話す男性の姿が。
「せん、せい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます