色に酔う
魔不可
「赤」
僕の世界はいつも、モノクロだった。
黒と白の、つまらない世界。
普通の人からしたら「平和で平凡な毎日」っていう幸せな欠片なのかもしれない。
でも、僕に幸せはない。
毎日のように起こる、学校でのいじめ、家での虐待のようなもの。
言葉、表情、行動のひとつひとつに怯える毎日。
ある日。
いつもの「日常」が始まろうとしていたが、少しの「バグ」が起きた。
いつも僕をいじめてくる「あいつ」にトイレに呼び出された。
あまり使われてないトイレなので、少し臭く、じめじめしてる。
いつものように殴ってくる。
いつものように「いじめ」をする。
いつものように「あいつ」の耳障りな音が響く。
ここまでは、「いつも」通りに進んでた。
気味悪く蛍光灯がチカチカとしている、
その蛍光灯の近くにはハエが飛んでいて、角にはたくさんの虫の死骸がある。
いつもの景色のはずが、気持ち悪さに鳥肌が止まらない。
今日は、少し「あいつ」に抵抗してみようと思った。
馬鹿にしているよに見下してくる両目を、人差し指と中指で突いてみた。
「ぐわぁっ」って声を上げて目を押さえた。
僕が反撃すると思っていなかったみたいで、驚いた顔をしていた。
近くにあったモップを持つ。
なぜか、モップは汚れていて、柄はぬるぬるして、生臭い匂いがする。
その匂いに吐き気が止まらなかったが、我慢して「あいつ」の口に突っ込んでみる。
苦しそうによだれを垂らし、涙を流す。
口からモップを出して、もう一回勢いをつけて押し込んでみる。
「あいつ」のよだれが頬にかかる。
汚い。
腹が立ったからそのまま、右肩を強く押す。
「あいつ」は大きくよろけて、角に頭をぶつける。
たらぁっと赤黒い液体が流れる。
僕のモノクロの世界に「赤」が加わった。
横たわる「あいつ」を見る。
呼吸は浅く、嫌な鉄のような匂いがする。
「あいつ」は死んでしまうかもしれない。
ああ、やってしまった。
そんなつもりはなかったのに。
自分の体が鉛のように重くなる。
「罪悪感」というものが重くまとわりつく。
誰かにバレるかも知れない。
親に確実に怒られる。いや、殺されるかもしれない。
また、「あいつ」の親には恨まれ、またまた殺されるかも知れない。
僕は、死ぬかも知れない。
なのに、どうしてだろう。
体中がバチバチと弾ける。
バチバチと弾けるたびにゾクゾクして、キラキラする。
胸の奥がざわざわする。
新たに加わった色はキラキラと輝き始める。
この感覚は、なんだろう……?
こんな物語を、僕は何度も何度も考えている。
「あいつ」の苦しむ表情を考えるだけで、十分だ。
別に、あんな行動は起こさない。
でも、こういう想像をすると、気持ちが落ち着くんだ。
「別に、あんな行動は起こさない」
僕は、そう言っていた、はずだった。
色に酔う 魔不可 @216mafuka
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