第7話 救助
俺たちの建国宣言から一ヶ月が過ぎた。
大統領になった天道のもと、各省庁は少しずつ、だが着実に機能し始めていた。
科学技術省では神崎と佐藤が中心となって要塞の機能回復を進め、国防省では轟が戦闘シミュレーターを使ったドローン部隊の基礎訓練を開始。
そして俺は、首席補佐官 兼 情報戦略局長官として、司令室で要塞周辺の監視と情報収集を続ける、地味だが落ち着いた日々を送っていた。
その平穏は、一本の微弱な信号によって破られた。
「局長、長距離センサーにノイズ混じりの発信信号をキャッチ」
情報戦略局のオペレーター役になったクラスメイト、橘の声に、俺はコンソールから顔を上げた。
ノイズ除去と解析を重ねると、それが国際救難信号であることが判明する。
「発信源は、セクター・デルタの小惑星帯」
スクリーンに表示されたのは、エンジン部分を損傷し、危険なデブリ帯を為すすべもなく漂流する一隻の小型輸送船の姿だった。
いつ小惑星に衝突してもおかしくない状況だ。
この救難信号をどう扱うか、俺たちの国家『アストライア』は、初めての議会を開くことになった。
「罠かもしれない!この前のジャンク屋の仲間だったらどうするんだ!」
「でも、見捨てるなんてできないよ!」
案の定、議会では慎重論と人道論がぶつかり、紛糾した。
だが、以前の俺たちとは違った。
大統領として議長席に座る天道は、冷静に各長官の意見を求めた。
国防長官の轟が言う。
「救助に向かうなら、訓練中のドローン部隊を護衛につけるべきだ。万が一に備える」
科学技術長官の神崎が続く。
「うちの作業艇なら、デブリ帯でも航行可能よ。簡単な応急修理もできるわ」
そして、天道は俺に視線を向けた。
「相川補佐官、君の意見は?」
「はい」
俺は立ち上がって、手元のデータを全員に見せた。
「信号パターンを分析した結果、軍用コードではなく、民間の輸送組合が使うものである可能性が92%。また、船の規模とスキャン反応から、こちらに脅威を与えるほどの武装はないと推測できます。罠である可能性は低いかと」
全ての意見を聞き届けた上で、天道は決断を下した。
「危険はゼロじゃない。だが、見過ごせる命でもない。万全の警戒態勢を敷いた上で、我々は彼らを救助する!」
それは、俺たちの国家が初めて下す対外政策だった。
救助作戦は、各省庁の見事な連携で進められた。
俺が司令室からリアルタイムで安全な航路をナビゲートし、轟が指揮するドローン部隊が周囲のデブリを破壊してルートを確保する。
そして、神崎と佐藤が乗り込んだ作業艇が、慎重に輸送船へと接近していった。
通信回線が開かれると、輸送船のモニターに映し出された老船長は、救助に来たのが俺たちのような若者であることにひどく驚いていた。
が、神崎たちの手際の良い応急修理で、輸送船はなんとか航行能力を取り戻した。
『……本当に、ありがとう。このご恩は決して忘れない』
船長は、通信越しに深々と頭を下げた。
『我々は「フロンティア中立同盟」に所属する輸送組合の者だ。必ず、このお礼はさせてもらう』
彼は、俺たちがどこの勢力にも所属していないことを見て取ると、こう続けた。
『もしよろしければ、近いうちに、我々の同盟から正式な使者を立てて、改めてご挨拶に伺いたい。よろしいかな?』
天道は、大統領として、その申し出を快く受け入れた。
輸送船が遠ざかっていくのを見届けながら、司令室は初めて人助けができたことへの安堵と、少しの誇りに満ちていた。
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