第6話 建国宣言

 司令室に戻った俺たちは、フィルター交換を終え、まずはつかの間の休息を取った。

 だが、誰もが分かっていた。このままではいけない、と。


 翌日、天道はクラス全員を司令室に招集した。


 天道は全員の前に立ち、これまでの危機を振り返った。

「襲撃、生命維持装置の停止、そして昨日の探索での混乱……。俺たちは、その場しのぎでなんとか生き延びてきた。だが、それも限界だ。俺たちには、もっと強固なルールと、それぞれの役割を定める『組織』が必要だ」


 彼の真剣な訴えに、クラスの誰もが頷く。だが、「じゃあ具体的にどうする?」という段階になると、途端に意見が割れ始めた。


「リーダーは天道でいいけど……」

「危険な仕事の分担はどうするの?」

「食料の配分で揉めたくないんだけど……」


 議論が紛糾しかけたその時、天道が俺の名を呼んだ。

「相川、お前の意見を聞かせてくれ。以前、お前が言っていた、『ゲームみたいな国家運営』の話を、もう一度全員にしてやってくれ」


 クラス全員の視線が、一斉に俺に突き刺さる。

 以前のような嘲笑や無関心は、どこにもなかった。

 俺は一度深呼吸をすると、おそるおそる前に出た。


「……俺がやってるシミュレーションゲームだと、こういう時はまず、しっかりとした体制を作るんだ」

 俺はタブレットを操作し、簡単な組織図をメインスクリーンに映し出した。


「まず、ルールを作るための『議会』。これは、俺たち全員が参加して、多数決で物事を決める。次に、それを実行するための『政府』。リーダーを一人決めて、その下に各分野を担当する専門チーム……省庁みたいなものを置くんだ。防衛担当の『国防省』、技術担当の『科学技術省』、食料担当の『農林水産省』みたいに」


 俺は言葉を続ける。

「ここはもう、ただのクラスじゃない。生き延びるための、俺たち35人の……小さな『国家』になるんだと思う」


 俺の提案に、水を打ったように静まり返っていた司令室が、やがて「なるほど」「合理的だ」という賛同の声に変わっていった。


 もちろん、「大げさすぎる」という声も少しはあった。

 だが、数々の危機を乗り越えてきた俺たちにとって、その「大げさなこと」こそが、今一番必要なものだった。


 その日のうちに、俺たちは初の選挙を行った。

 そして、暫定政府の主要メンバーが決まった。


 大統領には、満場一致で天道樹。

 技術面と冷静な判断力を買われ、副大統領 兼 科学技術長官に神崎玲奈。

 防衛隊のリーダーとして、国防長官に轟剛。


 そして、俺、相川湊は……。


「首席補佐官 兼 情報戦略局長官として、俺の右腕になってくれ」

 大統領に就任した天道から、クラス全員の前で、そう指名された。

 断る理由も、資格も、もう俺にはなかった。


 暫定政府のメンバーとして、俺たちはクラス全員の前に並び立つ。

 天道が、力強く宣言した。


「これより、我々は一つの独立した共同体、『アストライア』として、我々の未来を我々の手で切り拓くことを宣言する!」


 それは、青臭くて、壮大な、俺たちの建国宣言だった。

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