第4話 48時間
司令室は静寂に包まれていた。
先程までの怒号と爆発音が嘘のように、今はインカムから漏れ聞こえる、負傷した仲間の名前を呼ぶ声だけが重く響いている。
俺の隣で、佐藤は椅子に崩れ落ちるように座り込み、ぜえぜえと肩で息をしていた。
極度の集中が途切れ、全身から力が抜けていくのがわかる。
俺も同じだった。
立っているのがやっとで、コンソールに手をついて体重を支える。
「……助かったわ」
静寂を破ったのは、神崎の声だった。
彼女は複雑な表情で俺たちを見ていた。
そこには素直な感謝と、自分ではどうにもできなかった悔しさと、そして何より、クラスの隅にいたはずの俺たちを完全に見直したという驚きが混じっていた。
やがて、轟たちが司令室に戻ってきた。
ヘルメットを脱いだ彼らの顔には、汗と、そして仲間を救えなかった無力感が張り付いていた。
「……すまねえ。俺たちが不甲斐ないばかりに……重傷が3人だ……」
轟の言葉に、天道が静かに首を振る。
「お前たちのせいじゃない。全員、よく戦ってくれた」
気丈に振る舞う天道が、被害状況の確認と負傷者の救護を矢継ぎ早に指示していく。その姿は、やはり俺たちのリーダーだった。
だが、本当の絶望はその後にやってきた。
被害状況の報告をまとめていた神崎が、血の気の引いた顔で振り返った。
「……まずいわ。戦闘のダメージで、生命維持装置の基幹部に被弾してる。メインフィルターが破損して、予備電源でなんとか動いてるけど……」
彼女は一度言葉を切り、そして、宣告するように言った。
「このままだと、空気循環がもつのは、あと……48時間もないわ」
外敵を退けた安堵感は、一瞬で氷のように冷たい恐怖に変わった。
48時間後、この要塞はクラス全員の巨大な棺桶になる。
「そんな……」
「嘘だろ……」
あちこちから、絶望の声が漏れる。天道も有効な手を打てず、唇を固く噛み締めていた。
その沈黙を破ったのは、またしても俺の声だった。
「……一つだけ、可能性がある」
俺は震える足で立ち上がり、コンソールを操作して、戦闘前に調べていたデータをメインスクリーンに映し出す。
それは、この要塞の設計図の一部だった。
「戦闘前に調べていた建造記録に、計画マップから削除された区画のデータがありました。そこにもし、計画通り予備パーツ倉庫が作られていれば……」
俺は、スクリーン上の一点を指さした。
「予備のフィルターが、手つかずで残っているかもしれない」
司令室にいた全員の視線が、俺の指さす一点に集中する。
その視線には、以前のような侮りや無関心はなかった。
先ほどの戦闘で、俺の情報がただのゲーム知識ではないことを、誰もが理解していたからだ。
「……本当か、相川!」
天道が、俺の肩を掴んだ。その手は、強く震えていた。
俺が静かに頷くと、彼は叫んだ。
「よし!すぐに探索隊を再編成する!俺たちで、希望を掴みに行くぞ!」
天道の声が、再びクラスに活気を取り戻させた。
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