青春トリップ!with未来人

3角4ヵ区

第1話 はじめまして、多分未来人

 2025年、7月。

私は相浦あいうら みら。高校2年生。


 未来の栄華のために好き勝手やった過去の人類のせいで、現在の人類は過去の罪と未来の存続の両方を考えなければいけなくなった。

 例えばそう……地球温暖化。

 いやなんだよ最高気温40℃って。暑すぎるわ。馬鹿。


 私は心の中で悪態をつき、昼休みの教室の中でひとり大あくびをした。ああ、動く度に熱気が私の体を回る。最悪ですほんと。

 夏の暑さに負けまいとハンディファンとにらめっこしていると、後ろの席から、女子二人組がなにやら会話が聞こえてきた。

 「ねえ、今のみらさん…」

 あ、あぁー聞こえない。聞こえないですよそれーっ。何を言っているかは知らないが慌てて聞き耳をシャットダウンする。

 聞こえないと思っている愛すべき青春野郎共が羨ましい。


 私は「陽」か「隠」かと言われれば、絶対に「隠」に該当する者だ。

 別に隠とか陽とか区別する必要ないって思ってるそこのお前。昼休みの教室、ひとりぼっちでボーッとしながらハンディファン見つめてるやつがいたらどう思うか、自分の心の中で30字以内で簡潔にまとめてみなよ。

 というか、こうやって長々と自分語りしている時点で碌な人間じゃないだろ。いわゆる「突自ど」というやつだ。

 ああこの言葉の意味がわからないピュアな方々は調べない方がいいです。調べないでください。ナマいうてすんませんでした。はい……。


  ガラッ


 と、ここへ担任の下川しもかわ先生登場。誰も何も悪いことをしていないのに昼休みの教室に戦慄が走る。

 なにやら机の数などを確認している様子。少し急いでいるようにも見えるけど…これってもしかして。


「せんせ〜。昼休みに教室来て、何してるんですか〜?」

 あ!先生に気軽に話しかけられる関係性とコミュ力をもつ系の青春エンジョイ女子!ナイスだ!!

 下川先生がケロッとした様子で答える。


 「ああ。明日から転校生が来るんだ。その準備」


 え。

 て、転校生……!?


 その瞬間から教室は転校生の話でもちきりになった。男女関係なく盛り上がりを見せる会話。質問攻めを受ける下川先生…。

 ………

 いやいやいや〜。転校生が来る、ただそれだけでしょう?

 私の心の中のちびミラがやれやれというポーズをしている。

 私はみんなの代わりに、可哀想な地球くんに思いをよせつつ、ハンディファンと見つめ合うとするかな…。


 このときの私は知らなかった。転校生の彼女との出会いが、私を青春エンジョイ女子高生へ変えてしまう出来事に繋がるなんて……



そしてむかえた次の日の朝。


 カッ、カッ…


 黒板に軽やかな音で文字が書かれる。


瀬崎せざき 明里あかりです!これから皆と仲良くしていきたいと思います!よろしくお願いします!」


 瀬崎さんは明るくハキハキと喋った。来たね。青春エンジョイ女子高生の代表例。

 どんな理由で転校したのかは知らないけど、私なんかとは釣り合わないね。高く結われた小さなポニーテールに、日光に当たって少し茶色めいた髪、とても可愛らしくて愛嬌がある顔立ち。なにもかも完璧だ。

 せいぜいこのクラスで、できる限りの青春を楽しんで…


「ねえねえ!瀬崎さんはどこから来たの?」

「えっと、にせんひゃ…2025年です!!」


 ん?なんだ今の答え方。

 と、教室にどっと笑いが起こる。少し照れた様子の瀬崎さんと気まずい様子の質問したクラスメイト。クラスメイトは気を取り直し、軽く笑って瀬崎さんに改めて話しかける。


「あ…ごめん瀬崎さん。出身高校ききたかっただけなんだけど…。っていうか2025年は今だよ?」

「そうですよねっ。ごめんなさい!1年生のときは、近くのルミ学に通ってました!」


 ルミ学?なにそれ。少なくともここらへんの地域にはそんな正式名称がオシャレそうな高校は存在しないけど…?

 教室の中でも「ルミ学…?」とざわめきがあがる。そりゃそうだ。

 というか、もしかして瀬崎さんって…


未来人?


 いやその前に。隠のJK相浦みらはこのざわざわした雰囲気に耐えられません。私は席を立って彼女に質問する。


「あの〜瀬崎さん。もう一回高校の名前言ってみてくれる?なんか聞いたことない感じがして…」

「はっ!!すみませんすみません!私が1年生のときいた高校は、『私立花岡高校』ですっ!この高校ならありますよね!?」


 あ〜あんまり「ありますよね」とか聞かない方がいいよ〜。っていうか名前さっきと全然違うじゃんね…。

「あ、あるある。聞いたことあったわ〜。ありがとうね」

 私はみんなの注目を浴びすぎないように、言葉を言い切らないうちに席に座った。


 その途端、教室に安堵するような、不思議がるようなざわめきが広がる。さっきよりは軽い気持ちでざわざわを聞いてられます。愛してるよ、我がクラスメイト。

 一方の瀬崎さんは、私が誤魔化してくれたと思気づいたのか、神様を見るような目で私を見つめている。

 やめて〜。みつめないで〜。これ以上めだちたくないから〜。私の中のちびミラが頭を抱えている。

 私は一生懸命彼女から目を逸らすが、そのピュアな視線は消えずに痛いほど突き刺さる。

「じゃあ、瀬崎さん。君の席はあっちの奥のところだから。わからないことがあったらクラスメイトに色々聞いてみてくれ」

「はい!ありがとうございます!」

「みんなも、瀬崎さんが困ってたら助けてあげること。いいなー」

 は〜い、といつもの気の抜けた返事が教室に響いたところで、朝のHR終わりのチャイムが鳴った。


 ふむ…瀬崎さんが席についたところで、我が2年2組は3タイプに分断されるだろう。

①瀬崎さんに近づいて話を聞きたがる者

②彼女に興味なさそうにしながらもチラチラ見る者

③彼女を気にかけず、いつもの友達と話しながら廊下へ出る者

 ちなみに私は③の者。瀬崎さんは普通の高校生では無さそうだが、今気にする必要は無い。…③の彼らとの相違点は友達がいないこと。

 彼女がクラスメイトの雰囲気に流されてなんかをしそうなのは少し心配になるけどね。


 さて、下川先生は教室を出た。これからどうなるかな…っておい待て瀬崎さん。

 なぜ私が座っている席の道を通る?

 貴女の席はこちらではない。もしかして目が良くないのだろうか?いや違うことはわかっています。

 まっててば。そんなキラキラした目で私に近づかないで。許してっ…


 「相浦みらさん!」

 「あっ、ふぁい!!」


 今私、絶対変な声でたな。クラスメイトは一直線に私のところに来た瀬崎さん、それと私……に視線を向ける。

 瀬崎さんは明らかに変な顔をしているであろう私を知ってか知らずか、私の両手をとって、決意をこめた目でキッパリと喋った。


「今日の放課後っ、私と一緒に帰ってくれるかな?」

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