#3 謎の行進展

 土曜日の午後。

ヒマを持て余した主婦・佐知子は、近所にできたという「謎の行進展」に足を運んでみた。

名前からしてすでに胡散臭い。でも、少しワクワクする。

【第一展示室】

展示室に入ると──そこにはペンギンたちがいた。

隊列を組み、よちよち歩きで前へ進んでいる。

しかし、部屋を一周するとまた同じ場所に戻ってくる。

「……え、これで終わり?」

佐知子は思わず声を漏らす。

【第二展示室】

次の展示は、ゾウガメの行進。

じりじりと遅い速度で進んでいるが、どう見ても壁に向かって歩き続けている。

係員が「この壁は出口です」と説明しているが、どう見ても壁でしかない。

さらに進むと、アヒルの親子の行進。

よちよち並んで歩いているが、前を行く母アヒルはくるくる同じ円を描いている。

ヒナたちも忠実に同じ円を回り続ける。

観客は「かわいい……でも無限ループね」とつぶやいていた。

【第三展示室】

そこでは、スーツ姿の人間たちが一列に並び、

「会議室 → トイレ → 給湯室 → デスク」

とぐるぐる歩き続けていた。

まるで日常の一部を切り取ったようだ。

佐知子は妙に胸がチクリとした。

……もしかして自分も、スーパーと家と保育園をぐるぐるしてるだけ?


展示室を出ると、出口の看板にはこう書かれていた。

「進んでいる気がしても、案外、同じ場所にいるのかもしれません。」

佐知子はふっと笑った。

その足でスーパーへ向かいながら、今日の夕飯は少し変えてみようかと思った。

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