食い違う、歯。
深見雨
第1話◆プロローグ(導入)
人は、死んだら何を持ってその人だと証明できるのか。そのとき「誰だったのか」を証明するものは、何が必要だろうか。その人である“確かさ”は、死の状況によって揺らぐ。腐敗が進み、焼け、白骨化し、損傷が激しければ──生前の顔も、身なりも、声も、失われてしまう。
照合の鍵は、「歯」である。
現在、日本における身元不明遺体の照合には、
以下の手段が用いられる。
• 歯型照合(歯科治療痕・レントゲン記録との一致)
• DNA鑑定(家族が見つかった場合のみ)
• 指紋照合(犯罪歴・住民票・入管記録等がある場合)
なかでも、最も信頼されているのが歯型照合だ。歯は人体の中でもっとも硬く、火災や腐敗にも耐える。また、詰め物やインプラント、独特の噛み合わせなど、個人を特定する情報が集中している。
警察や監察医務院は、遺体の歯をスキャンし、
過去の歯科記録と照合する。
全国の歯科医院には、治療記録やレントゲンの保存が義務づけられている。
だが、すべての人間に歯科記録があるわけではない。
身寄りのない高齢者、未治療のまま亡くなった若者、名を変えて生きてきた者たち──
「誰の歯か」がわからない死体は、
身元不明者として扱われる。
それでも、多くの照合は成功する。
なぜなら、「歯」は嘘をつかないからだ。
少なくとも──
今までは、そう思われていた。
野村彰彦 手記より。
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