異常域で僕らは壊れていく
渡世 雨夜
プロローグ
20XX年。急速な科学技術の進歩により、人類が長年夢を見てきたことが、ついに現実になった。
多くの科学者が試行錯誤を重ね、人間と動物の特徴を掛け合わせるという遺伝子実験・異種混合計画「ハイブリッド・プロジェクト」が行われてきた。
その果てに『異種混合族』が誕生したのである。
人々は大いに喜んだ。
「病に打ち勝つ体が持てる!」
「高い身体能力を持つことで多種多様な環境で生きることができる!」
「知能の高いペットを飼える!」
と。
だがそれは、悲劇の始まりだった。
一見成功したように見えたこの実験。
被検体をいざ野放しにしてみると、やはり知能には個体差があり、そのまま野生に帰ってしまうもの、町に出て人を食い殺してしまうものなどが出てくるようになった。
この実態に国は頭を抱えていた。
そこで、防衛省や厚生労働省が確かな実力と名を持つ医者や科学者に協力を求めた。
そうして出来た組織が『H.A.R.M −異種ハイブリッド規則機構』であった。
H.A.R.Mは『異種混合族治療施設』と名付けた研究所を設け、一般市民と異種混合族が共存できる世の中を目指すため、異種混合族の多種多様な性質を調べ、日々治療薬の開発に力を入れている。
日本全国に研究員を派遣し、異種混合族を捕らえ、治療施設に運び込む。
そうして数え切れないほどの異種混合族が、各地の治療施設に収容されてきた。
何年も何年も研究が続けられているが進展は全くと言っていいほどないのである。
以下はその施設での、とある被検体の研究記録である。
【研究記録・抜粋】
20XX年 ◯月△日(水曜日)
対象:被検体 No.053
特性:不明。狼のような見た目をしており、年頃は17歳(カルテに書いてある通り)。大人しく、人と話せるほど知能が高いらしい。
行動:ほとんどの時間、丸くなって眠っている。が、定期的に暴走の兆候を示す。
それと同時に、要求をする際、単語を話すようになった。
結論:回復の余地あり。治療薬の実験投与を続けていくのが良い。
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