ヒトはヒマをムダだと考える
古 散太
ヒトはヒマをムダだと考える
「そんなヒマがあるなら…」というセリフは、誰しも一度ぐらい言われたことがあるだろう。
果たして、本人にとってその時間は本当にヒマなのだろうか。
時間はそもそも地球の公転と自転によって生み出されている。宇宙の真ん中で時計を持っていなければがなければ時間など分かるはずもない。つまり人類は、時計というシステムによってのみ、地球の公転と自転を知ること、つまり時間を知ることが出来ているのだ。
そうなると、この世に確実な時間というものは存在しないということになる。現に今でも地球の自転速度がすこしずつ早まっているという話もある。アナログの時計の人はどこかで針の調整をしなければならないわけだ。
暦や時計というシステムのおかげで、ヒトはかなり確実な約束ができるようになった。午後六時に待ち合わせ、といったことは、時計がなければできない。また来月の一五日に出掛ける、といった約束もわかりようがない。
それだけ現代のヒトが生きる社会にとって時間は、重要なピースのひとつであり、なくてはならない存在になっている。
しかし、それは存在しないかも知れない、と考えた。
夢中になればあっという間に時間が過ぎ、まったくやる気のない作業などをしていれば、なかなか時間が経たないという体験をしたことがあるヒトは多いのではないだろうか。
外的要因、つまり客観的な第三者視点としての時間は、誰の身の上にも平等に流れている。が、そのヒトの人生という視点、つまり内的要因としての時間は、早くもなれば遅くもなる。場合によっては止まっていることもあるかもしれない。
読書をしていてその内容に引き込まれる、また大好きなドラマなどを見始めると、あっという間に数時間ほど経っている。こういったときの内的時間は、夢中になっているあいだだけ止まっている。ふと我に返ったときに時計を見て、「こんなに時間が過ぎてた」と驚く。これはスタート時点で時間が止まり、我に返ったときに一気に外的要因の時間に戻るためだ。
そして外的要因の時間は、地球の公転と自転がなければ計測できない。あくまでも人類の共通項としての約束事、ひとつの概念として存在しているにすぎないのだ。
そうは言っても、ヒトは時間の経過とともに衰えていく。そもそも内的要因だけでこの世を生きていけるわけでもない。それは時間の存在を証明しているかのように思われる。
しかし太古の時代、ヒトには時間の概念がなく、明るいと暗い、暑いと寒いと過ごしやすい、ぐらいの感覚で生きていたのではないだろうか。それは時間の概念がない状態だ。それでもヒトは生きていた。だからこそ現代までヒトという種族は存在している。時間に追われることがなくても、ヒトは生きていた。また種が滅びることもなかったのだ。
たしかに時間の無駄遣いと呼ばれることもあるだろう。しかし、太古の人々がそうであったように、そういった無駄も含めたすべての時間があってこそ、現代に繋がっているのではないのか、とも思える。
ひとりの人間の人生を考えてみても、すべてが有意義で必要なことしかしてこなかったかというと、おそらくほとんどの人がそうではないだろう。
生きている、その時間のすべてがあって今があるはずだ。人生の中の時間が一分だけ欠けたとしても、今の自分にならないのは間違いない。すべての時間、すべての体験があって、今の自分が存在しているのだ。
第三者から見れば「そんなヒマ」に見えることも、その人にとって、あるいはその人の未来にとっては重要な「ヒマ」なのかもしれない。
ヒマの行きつく先が良かれ悪かれ、今生きている時間はすべて自分の未来への投資になっている、ということだ。
また、第三者からはヒマに見えたとしても、そのヒトはそのヒマに見える時間を努力して作ったかのかもしれない。そう考えれば、「ヒマ」という一言で片づけられる話ではない。その人にとっては大切な至福の時間かもしれないのだ。
あぁ時間がない。そう呟きながら腕時計を見た。アナログの秒針が今も一歩ずつ前進していた。
ぼくは有意義な「ヒマ」を楽しむために、今を全力で駆け抜ける決意をした。この事態が無事に終わったのなら、そのあとは腕時計を外し、スマホの電源を落として、ぼくは全力で「ヒマ」を生きようと思う。
ぼくの「ヒマ」にはそれだけの価値があると信じている。
ヒトはヒマをムダだと考える 古 散太 @santafull
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