第4話 特級魔導士と司書!!


「いらっしゃいませ! お食事ですか? クエストですか?」


 木造りの扉を開けると、ウェイトレスの赤髪お姉さんが料理と酒を運びながら快活な声を上げた。


「えーと」


 とりあえず室内を見まわす。なるほど。ギルドは酒場も兼ねているのか。

 そこかしこで騒ぐ豪快な男たちは冒険者兼客ってわけだな。見るからに強そうな寡黙グループもいるな。


「クエストって言うか、冒険者になりたいんですけど……」



「はい! 冒険者登録ですね! でしたらあちらの受付にどーぞ!」


 お姉さんはにこやかに手に持っている皿を向けて受付の場所を教えてくれた。

 お辞儀をして、そちらへ向かう。


 ……なんだか、周りの視線が気になる。


 おそらく「冒険者登録」という言葉を聞き逃さなかったのだろう。


 あの剣士から聞いた情報によると、冒険者ってのは特殊な職業で人格も様々だという。無論、あんなくさったやつまで冒険者をやっている(らしいので、ビックリした)のだから嘘ではないだろう。


 だから、見られているのだ。


 ――――――――誰かからは「仲間」として。


 ――――――――誰かからは「カモ」として。


 ――――――――誰かからは「敵」として。



 俺は周りから品定めされている。その視線が四方八方から刺さった。


「気まずいなぁ……こういう既に形成されている輪に入るの苦手なんだよな」


 俺は誰とも視線を合わせないようにして、うつむき加減に歩を進めた。


 とにかく、さっさと済ませてしまおう。

 登録さえ済んだら、あとはクエストを幾度かこなして何となく周りから認められれば俺の立ち位置も確立されるに違いない。認知されるまでの辛抱だ。



「すいませーん。冒険者登録に来たんですけど……」


 受付は店奥のカウンターにあった。

 カウンターを半分に仕切って、受付にしてあるらしい。

 これまた可愛い金髪のグラマーなお姉さんが1人で担当していた。



「はーい。あ、良かったですねぇ! ちょうどさっき1枠空きが出たんですよ!」



 お姉さんはにこやかに俺の幸運を告げる。が、しかし……





 知ってます。



 なぜならさっきのクソ剣士に冒険者資格を返上させたのは俺だからな!



 どうやら冒険者システムと言うのは各地域で「定員制」をとっており、そのほとんどが定員いっぱいまで登録が埋まっている状況らしい。なので、なりたくてもなれない奴が結構いるとか。

 危険も伴うが、腕に自信のあるやつが多い世の中なんだろう。

 実際、他の役職と比べて身入りも良いみたいだし。うらやましい限りだよ。

 

 司書は薄給なんだぞ!!



 と、言うわけでここのギルドでは定員いっぱいだというのでクソ剣士にはその枠を譲っていただき、彼にはどこか別の地域で冒険者登録をするように助言した。


 あくまでアドヴァイス!! 司書からのね!!


 ちなみに冒険者が死んでも空きが出るから、志望者に殺される冒険者も居るとか居ないとか。

 志望者が死亡者を生み、そして冒険者になるって……ラップじゃねーんだから。


「あ。少々、お待ちくださいね! もろもろ手続きの用紙等をきらしてました。用意します!」


 すみませーん! とお姉さんはそのたわわな胸を揺らしながら、奥へと引っ込んでいった。


 そりゃ定員いっぱいまで登録されてんだから冒険者登録に来る奴もしばらく居なかっただろうしな。

 って事はあのお姉さん今日まで何してたんだ? まさかここでニコニコ笑って座ってただけ?


 それが楽なのか否か。


 そんな下らないことを考えてた時だった――――――――。




「あーーー!!! どいてどいてどいてぇーーーーーー!」




「え?」


 突然、ギルドの門が破壊され、声と共に何かがこちらへ猛スピードで向かってきた。


 まずい! ナレッジを! いや、間に合わなっ!!



 咄嗟にガードを固めて目をつむる。



 その瞬間!!





 ドォーーーーーーーーン!!!!!!!!








「……あ、あれ?」


 頭を庇うようにクロスした腕の隙間からうっすらと目を開ける。

 轟音は俺の真横で響き、その結果としてカウンターに顔をめりこませた少女の尻が俺の目に入った。


 黒いミニワンピースがめくれあがり、白い腿があらわになっている。

 それを目で追うと、薄ピンクのパンツに面積の半分を奪われた瑞々しく弾けるような肌の尻があった。



「んー! んーー!!」


 カウンターをつかんでジタバタと足を動かす少女。おかげでワンピの裾はどんどんめくれ上がっていく。


「んーーーー!!!」


 それに気づいたのか、少女はさらに足をバタつかせるが、逆効果だ。


 気づけば俺の周りを取り囲むように冒険者の面々が並んだ居た。

 皆一様に鼻の下を伸ばして頬を赤らめている。このスケベ!!


「しょーがねーなぁ」


 ため息とともに俺はナレッジを出し、物質軟化魔法を唱えた。

 そして、少女を抱きかかえて周りを押し広げたらスポッと体ごと引っぱり抜いてやる。


「ぷはっーーー!」


 いや、絶対息は出来てただろ。とは言わず、俺は固まった。



 え、可愛いんだけど……。



 白い肌に金髪ロングの赤目。小柄で華奢だが、出るとこはそれなりに出てるギリロリ体系。

 プルンと吸い付きたくなるような桜色の唇は魔性の釣り針だ。ついつい、口を持っていきたくなる。


 その桜色の唇の両端が持ちあがった。


「ごっめんごめん! 速度超過魔法の調整ミスっちゃってさ! ケガ無かった?」


 俺に抱きかかえられたまま、少女は手刀を切る。俺が首をふると「よかった!」と手から離れ、床に足をつけてワンピースの裾を直した。俺はそれが終わるのを待ってから恐る恐る尋ねる。


「あ、あのー……」


「あ、あぁ! 私の名前はエミル!! こう見えて特級魔導士よ!」


 エミルは腰に手を当てて「えっへん!」と胸を張る。

 

「あ、あぁどうも。俺はケイタです」


「そ。ケイタさっきはありがとね! ただ、なんか私でも見た事ない魔法使わなかった?」


「ん? いや、どうだろう?」


 なんとなくはぐらかす。

 特級魔導士って確か魔法使いの最上位だったはずだ。そんな人が知らない魔法を使ったとなると変に名前が知られかねない。冒険者が殺されるご時世にそんな狙われるような事は避けたい。


「んー? なんかあやしーなぁ?」


 エミルは訝し気な顔で俺の顔を覗き込む。まずい、完全に怪しまれている。

 ここは話をはぐらかさないと。


「あ、それ。その杖。なんか珍しいっていうか可愛いね。ちっちゃくて!!」


 エミルの手に持たれた小さなステッキを俺は指さす。


「あぁ、これ? これは私特製のショートステッキ! この星がかわいいでしょ?」


 両手でかかげながら小首をかしげてほほ笑んだエミルは天使のようだった。

 全体がピンク色にそまった棒の先に金色に光る星が一つついていて、その両側から小さい天使の羽のような装飾が飛び出している。なんだか日曜朝にやっている魔法少女の持っているステッキみたいだ。



「まー、このショートステッキを使ってる魔法使いは私以外にいないでしょーね? なんたって神に愛された少女ですから!」


 自慢げに言うが、こちらは神に選ばれた男である。

 でも、それを言ったら彼女が落ち込みそうだからやめておいた。


「っと、いけない。ここ直さなきゃ!」


 エミルはあわててステッキを自分が破壊したカウンターに向けた。


「エクストラヒール!」


 ステッキの先が光り、それがカウンターに伸びて包み込むとまるで時間をさかのぼるようにエミルが顔を突っ込んだ部分が元に戻っていった。



「へー。ヒールで物を直せるのかぁ」


 俺が感心すると、エミルはフンと鼻で笑い「これくらい当然よ!」と腰に手を当てた。


「なんたって神に愛された少女、特級魔導士のエミル・シュタインハルトですからね!」


 ……うーん。なんかキャラがめんどくさそうな気がしてきたな。

 こういう自信家はあんまり好きじゃないんだよなぁ。


「んで、そのエミルはここへ何しに来たの?」


「何しにって。そりゃアンタ、ここへ来る理由なんて一つしかないじゃない?」


「え? って事はまさか!?」



「そう! 私は冒険者登録に来たのです!!!!」



 まさかの目的被り。っつーか、枠一つしか空いてねーんだけど!!


 かたや特級魔導士でかたや身元不明の男。まさか、忖度とかねーよな?

 だって、俺の方が早く来たんだもんな! こいつが後回しだよな?




 ですよね!? おねーさん!!



 早く戻ってきてー!!!!!


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