その花よ、淡く舞い散れ

@remon__

ただの紙、一枚

じっと紙を見下ろす。紙に穴が開くんじゃないかと思うほど、じっと。頬杖をつきながら、羅列された文字を読むわけでもなく、見知ったその名前を見続けた

「……チッ、」

自然と零れた舌打ちは、何かを誤魔化すように何かを反芻するかのように。まるで風邪を引いた時のように喉元に菌がへばり付いているかのようなイガイガした気持ち悪い感覚を無くすため、傍にあった水に手を伸ばした

たかが、1枚の紙だ。破って捨ててしまえばいい、たかが1枚の紙。見て見ぬふりをしてしまえばいい。

「…ふざけんじゃねーよ」

「おーい。口、悪くなってんぞー」

「…………」

「ま。これもまた運命だと思えよ」

「思えるわけないだろ」

「小指と小指が赤い糸で結ばれて、もう離れねーってやつ?」

「ぶん殴るぞ」

「じょーだんだって」

ケラケラと楽しそうに笑いながら両手を上げ、降参のポーズを取った友人に溜め息が溢れる。

何が運命だ。何が赤い糸だ。そんなもんあってたまるか。そんなもんがあったら。

「ま。再会したとしても案外気にしたりすんのお前だけだったりしてな」

「うるせーよ。俺だって気にしねーし」

「ハハッ。どうだか。じゃ、俺は帰るわ。また明日」

そう言って俺の肩を数回叩いた友人の背中を睨み付けながら、「じゃーな」と一応返す。見下ろしていた紙をそのまま見えないように裏返して、今度はわざと舌打ちを零した

運命?赤い糸?そんなもんがあったら、【別れ】なんてクソくだらねーもん、ないだろ。

つか、そもそもそんなもん俺は信じてないし。ピュアじゃねーし。

「…………」

脳裏で声が響く。鈴が鳴るように明るくて柔らかい声。忘れたはずのその声は、ただの紙1枚を見るだけで思い出されたらしい。



【お互い、何もかも忘れた方がいい】



忘れるって。何をだよ。


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