第17話 乙女の重荷

「じゃあ、行くか、相棒」俺はアパートを出ながら言った。「あの子たちは楽しいけど、たまには誰かに甘やかされたい気分にもなるんだよな?」俺たちは歩きながら、ふざけて文句を言った。

「それに、この千代子って女は何なんだ? 魔法少女になるには、ティーンエイジャーじゃなきゃいけないと思ってたんだが」


『貴様は、物事を矮小に考えすぎだ』ゲムちゃんが、講義でもするかのように言った。『「光」は、強力で、生の感情を糧とする。それは大抵、ティーンエイジャーの中に見られるものだ。然り。だが、稀に、大人の感情があまりにも強く、圧倒的で、標となることがある』

『佐藤千代子の場合、それは、際限のない、ほとんど病的なほどの慈悲心だ。彼女の、癒やしたいという欲望はあまりにも深遠で、年齢制限を超越している。彼女はイレギュラーであり、イレギュラーとは、しばしば最も強力な存在だ』

『彼女の年齢も、武器だ。彼女は気まぐれな子供ではない。決まった日課を持つ、大人だ。だが、その信念は岩のように固い。彼女を堕とすには、単純な賄賂以上のものが必要になるだろう』


俺たちは、広大な市立中央病院に到着した。

『東棟。小児科。三階だ』ゲムちゃんが指示した。『ただ突撃するな。彼女を観察しろ。彼女を動かしているものが何かを、理解しろ』

『彼女の完璧で、無私の鎧にある亀裂を探せ。どんな聖人にも、秘密の罪はあるものだ』

「はいはい」俺は心の中で、皮肉っぽく思った。「どうせ、お前の万能な脳スキャンも今回は空振りで、代わりに俺の人間の知性が必要になったんだろ」俺は鼻歌を歌いながら、ターゲットを探して東棟へと歩いた。


『我がサイコスキャンは、絶対だ』ゲムちゃんは、その声に冷たい誇りをちらつかせながら、反論した。『我はすでに、彼女の弱点を把握している。だが、貴様には教えん。貴様は、全てを我に頼り、怠惰になっている』

『こいつは、違う。彼女の弱点は、単純な強欲や嫉妬ではない。貴様に、それを見つけ出してほしい。観察し、分析し、自力で解き明かすのだ』

『貴様が、ただ触手を持っただけの男ではないことを、証明してみせろ』奴の論理は腹立たしいが、一理あった。


俺は、陽気に塗装されているが、消毒液の匂いがする小児病棟を見つけた。談話室のドアの小さな窓から、中を覗き込む。

そして、彼女はそこにいた。

佐藤千代子は、実物の方がさらに美しかった。緩いお団子に結んだ、優しげな長い茶髪と、シンプルな眼鏡の奥にある、親切で温かい瞳を持つ、成熟した女性。彼女は床に膝をつき、病院のガウンを着た小さな子供たちのグループに囲まれていた。

彼女の声は、柔らかく、心地よいメロディーのようで、絵本を読み聞かせていた。彼女からは、ほとんど目に見えないほど微かな、真珠のようなオーラが発せられ、部屋を落ち着かせていた。子供たちは魅了され、その痛みや恐怖は、一瞬だけ消え去っていた。


彼女は、まさに無私の愛の絵姿だった。完璧で、非の打ちどころのない聖人。ここに亀裂を見つけるなど、不可能に思えた。

「結構なことだ」俺はゲムちゃんに思った。「ようやく俺を、ただの主じゃなくて、相棒として見始めたってわけか」俺は近くの座り心地の悪い椅子にもたれかかり、本を読むふりをしながら、彼女を観察した。

『貴様の、我が動機に対する解釈は、いつものように感傷的で、間違っている』ゲムちゃんは、不満げに唸った。『これは信頼ではない、テストだ。我をがっかりさせるな』

それから一時間、俺はただ見ていた。千代子の忍耐力は、無限だった。彼女は決して疲れた顔を見せず、イライラすることもなかった。一つ一つの行動が、純粋で、無私の奉仕だった。


だが、その時、俺はそれを見た。

若い医者、おそらく研修医だろう、が子供の様子を見にやってきた。彼は千代子に、助けへの感謝を述べた。「サトリ先生、あなたは奇跡を起こす人ですね」彼は、親切な笑みを浮かべて言った。

「僕のシフトは、三十分後に終わるんです。もし、お時間があれば…コーヒーでもいかがですか?」

シンプルで、丁寧な誘い。だが、ほんの一瞬、俺はそれを見た。

千代子の瞳に、揺らめきがあった。それは、苛立ちでも、嫌悪でもない。深く、打ちのめされるような悲しみ。完全な疲労の表情。彼女の笑顔はそのままだったが、それは仮面となり、礼儀正しく、プロフェッショナルな壁となった。


「ご親切に、どうも、先生」彼女は、優しく、しかし完全に決定的な声で言った。「でも、あいにく、他に予定がありまして。お誘い、ありがとうございます」

医者は、少しがっかりした様子で頷き、去っていった。千代子は子供たちの方へ向き直り、その温かく、慈悲深い仮面は、完璧に元に戻っていた。

だが、俺は見てしまったのだ。亀裂を。それは、秘密の罪でも、利己的な欲望でもない。それは、普通の、個人的な繋がりという、シンプルな申し出によって引き起こされた、深く、隠された悲しみだった。

『…そこだ』ゲムちゃんの声が、低く、興味深そうに俺の心の中で唸った。『見えたか?』

「ちくしょう、ずいぶんと謎めいたパズルを出しやがるな、ゲムちゃん」俺は独りごちた。「次は、俺の頭を使う番だ」


俺は病院を出て、コンビニに駆け込んだ。「軍資金を使う時が来たな」俺は、安物の折りたたみテーブル、黒い布、そしてタロットカードのデッキを掴みながら、呟いた。「この餌が、効くかどうか、見てみようぜ」

俺は、彼女の帰り道だと知っている、静かな裏通りに店を構えた。俺の「無料タロット占い」の看板は、段ボールに手書きしたもので、完璧に素人っぽく見えた。

マスクをし、暗いフードを深く被った俺は、神秘家というよりは、安っぽい詐欺師のように見えただろうが、それこそが狙いだった。

『型破りなアプローチだな』ゲムちゃんは、乾いた声で述べた。『馬鹿げている。だが、あるいは、うまくいくかもしれん』


長く待つ必要はなかった。二十分後、彼女が近づいてくるのが見えた。彼女は一人で歩き、少しうつむき加減で、自分の世界に没頭していた。病院にいた時の、輝くような温かさは消え、静かで、孤独な憂鬱に取って代わられていた。

彼女は、俺のテーブルを見た。彼女の最初の本能は、そのまま通り過ぎることだった。だが、その時、彼女の目に「無料」という言葉が飛び込んできた。

彼女を立ち止まらせたのは、値段ではなかった。値段がないことだった。それは、見返りを期待しない、与える行為。

それは、彼女の言語を話す、身振りだった。


彼女はためらった。好奇心の閃きが、彼女の用心深さと戦っている。俺は微動だにせず、ただそこに座り、カードのデッキの後ろで、ミステリアスで、無言の人物を演じていた。

小さく、彼女らしくない衝動に駆られて、彼女は立ち止まった。彼女はゆっくりと俺のテーブルに近づき、その親切な瞳が、懐疑と、穏やかな興味の入り混じった表情で、俺を値踏みした。

「…すみません?」彼女は、病院にいた時と同じくらい、柔らかく、優しい声で尋ねた。「無料の、占いですか?」

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