第14話 ドクター・オーバードライブ
俺のハグとキスに、焔は顔を真っ赤にしたが、決意に満ちた表情で頷いた。一方、蒼は、俺が彼女を戦略家と呼んだ時に身を硬くした。俺の下品な脅し文句は、彼女の背筋をぞくりと震わせた。それは恐怖と、スリルが半々になったような、奇妙な戦慄だった。
「…承知いたしました、マスター」彼女は、緊張した声で言った。「ご期待は裏切りません。それに…懲罰が必要になるような事態にも、なりませんわ」
彼女は一つ深呼吸をし、その藍色の瞳で広場を見渡した。俺が近くの路地の影に溶け込むと、彼女は焔に向き直り、その声は今や、きびきびとした、命令的なものに変わっていた。
「焔。私たちの目的は明確です。私が指揮を執ります。あなたは、援護と封じ込めに徹しなさい」
「あなたの重力場で彼を拘束し、ビルに投げつけられるものは全て逸らすこと。私が合図するまで、プラズマブラストは使わないで。わかった?」
焔は新たな司令官を見て頷いた。その顔は、集中力に満ちた仮面のようだった。「わかった、蒼」
足音はどんどん大きくなり、巨大な、高さ十メートルのメックスーツが、広場にのっそりと入ってきた。それは、銃器で武装した、無骨で醜い灰色の金属の塊だった。
胸部にある強化ガラスのコックピットから、白髪を逆立て、狂気じみた笑みを浮かべた男が見える。
「ブワハハハハ!」ドクター・オーバードライブが叫び、その声はスピーカーから轟いた。「愚か者どもめ! 私を解雇すれば、進歩の行進が止まると思ったか!? 今こそ、貴様ら全員が、ドクター・オーバードライブの壮大なる力とやらを目撃するのだ!」
「我が物を取り返し、貴様らの哀れな企業を地図から消し去ってやる!」彼はガトリングガンの腕を上げ、ビルの入口をズタズタにしようとした。その時、蒼が動いた。
彼女は突進しなかった。「ヴォイド・イーター」彼女の声は、冷たく、澄み切っていた。漆黒の小さな円盤が、メックの銃口の真正面に現れた。
オーバードライブが引き金を引くと、弾丸の奔流が吐き出されたが、それらは静かに虚空へと消えていった。
博士の笑みが、揺らいだ。彼は自分の武器を見つめる。「何だと? 故障か? ありえん!」
「あなたの暴走は、ここまでです、ドクター!」蒼の声が、夜の闇を切り裂いた。「今すぐ降伏なさい。さもなくば、あなたを解体します」
「ずいぶん、様になってきたじゃねえか」俺はそう思い、誇らしげな笑みを浮かべて見守っていた。「おい、ゲムちゃん。これって、子供の初めての学芸会を見てる気分じゃねえか?」
ゲムちゃんは、不愉快そうに唸った。『静かにしろ、主よ! 我のデータ収集の邪魔をするな』
「魔法少女だと!?」ドクター・オーバードライブが叫んだ。「二人も! だが、関係ない! 我が天才が、貴様らの哀れなインチキ魔法など、粉砕してくれるわ!」彼は肩のポッドから、マイクロミサイルの一斉射撃を放った。
それらは空気を切り裂き、まっすぐ蒼に向かって飛んでいく。
焔が、即座に行動した。「グラビティ・ウェル」彼女が手を伸ばすと、ミサイルの周りの空気が歪んだ。
それらは突如として現れた、押し潰すような重力場に捕らえられ、その軌道は大きく曲がり、やがて、カランカランと広場の床に落ちる、小さな、無害な金属の塊へと砕け散った。
オーバードライブは、呆然と、顎をだらりとさせて見つめていた。「ありえん! なぜ空間を曲げられる!? 全ての物理法則を無視している!」
蒼はその好機を見逃さなかった。「今よ、焔! 彼の脚を!」
「バインディング・マス」焔が言うと、その両手が暗い星の光で輝いた。
二つの重力球が、メックの膝に叩きつけられた。巨大なロボットは脚が固定され、よろめくと、凄まじい轟音と共に前方に倒れ込み、広場のタイルに顔面から着地し、完全に動けなくなった。
博士はコックピットの中で、苛立ちの叫びを上げた。
「主動力管は背中にあります」蒼が述べた。「クリーンヒットさせれば、爆発させずにスーツを無力化できるはず。私が彼の注意を引きます。私の合図で、そこを撃って」
彼女は藍色の残像となって前方にダッシュし、小さく、弱い闇のエネルギー弾を発射した。それらは、メックのコックピットに無害に弾かれた。
「その代償は払わせてやるぞ、クソ女ども!」オーバードライブはスイッチを入れ、咆哮した。青い稲妻が、メックの機体を覆ってバチバチと音を立てる。
蒼は、ただフッと笑った。「愚かな手を。あなたのエネルギーは、私の糧となります」彼女は、バチバチと音を立てる船体に手を置いた。
電流は彼女に害を与えることなく流れ込み、彼女自身の闇のオーラをより明るく燃え上がらせた。彼女は、超充電されていた。「今よ、焔!」
焔は、落ち着き払い、構えていた。彼女は一本の指を弾いた。鉛筆ほどの細さの、銀色のプラズマの細い光線が、放たれた。
それは、外科手術のような精度で、メックの背中にある露出した動力管を撃ち抜いた。
ドカンという音も、爆発もなかった。メックスーツの全てのライトが、ただ点滅して、消えた。
その機械は、周囲の建物に一つも傷をつけることなく、沈黙し、敗北した。
『任務完了』ゲムちゃんは平坦な声で述べたが、その下にある深い満足感を俺は感じ取ることができた。『巻き添え被害なく、敵は無力化された。奴らの相乗効果は、最適だ。貴様の娘たちは、完璧に任務を遂行した』
俺は少女たちが変身を解くのを見て路地から歩み出ると、彼女たちに手招きした。
「夕飯を食べに行くぞ、俺のおごりだ。とどめを刺したのはお前だから、店はお前が選んでいいぞ、焔」
俺の賞賛に、二人はリラックスした。焔に選べと言うと、彼女は固まり、決断を下すことへの、いつものパニックが戻ってきた。
彼女は助けを求めて蒼を見たが、蒼はただ、小さく、励ますように頷いただけだった。
「…私の家の近くに、お店があるんです」焔は、はにかむような声で言った。「オムライスを作ってくれるんです。ケチャップで…小さな絵を描いてくれるんです。ずっと行ってみたかったんですけど…いつも、一人だったので」
「任務の後にオムライスなんて、最高だな」蒼が素早く賛成し、焔を彼女自身の気まずさから救い出した。
警察のサイレンが、近づいてくる。俺は急いで少女たちを連れ出し、裏通りへと姿を消した。
俺たちは、焔が言っていた、小さくて居心地の良いレストランを見つけた。そこは温かく、陽気な、家族経営の店だった。ほどなくして、俺たちは全員、オムライスの皿の前に座っていた。
焔のオムライスには、シェフがケチャップで笑顔の猫の顔を描いてくれていた。彼女はそれを丸一分、目を大きく見開いて見つめた後、ついに、小さく、ためらうように一口食べた。
本物の、無防備な笑みが、彼女の顔に広がった。
彼女を見ていると、この勝利は、ただ悪党を倒した以上の意味があることに気づいた。それは、焔が破壊的にならずに強力でいられることを学ぶ助けとなり、蒼がリーダーシップを発揮できることを教えた。それは、彼女たちがチームとして、お互いを信頼することを学ぶためのものだったのだ。
「うむ、美味かったな」俺は食事代を払い、美姫と茜のために持ち帰りを用意しながら言った。
「まあ、俺にはまだ、家に帰ったら厳しい戦いが待ってるんだけどな。お前たち二人は、もう帰っていいぞ。それか、見に来るか」俺はくすりと笑った。
蒼は完璧な眉を上げ、その唇には、かすかな、全てを承知しているという笑みが浮かんでいた。「その申し出は魅力的ですが、私は家に帰りますわ。考えなければならない、新しい戦略がありますので」
「ごちそうさまでした、マスター」彼女は、きびきびとした、敬意に満ちたお辞儀をした。
しかし、焔は、ただ混乱した表情をしていた。「厳しい戦い? 他にも悪党がいるんですか? マスター、私の助けが必要ですか?」
俺が答える前に、蒼が彼女の肩に優しく手を置いた。「その必要はないわ、焔」
「マスターが仰っている『戦い』は、また別の種類の…チームビルディング訓練よ。私たちには、予定されていないもの。私たちは家に帰りましょう」
「あ…」焔が言った。理解の閃きと、それに続くかすかな赤面が、彼女の顔をよぎった。「そうでしたか。では…戦い、頑張ってください、マスター」
「それと、オムライス、ごちそうさまでした」彼女は小さく、はにかむようにお辞儀をすると、蒼と共に去っていった。二人はすでに、恐ろしく、有能なコンビのように見えた。
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