第12話 新たな教義、古き遺恨

俺は電車を降り、少女たちに手を振ってそれぞれの道へと別れた。今日は成功だったが、俺はすでに次のことを考えていた。


「それで、次は何だ、ゲムちゃん?」俺は胸の上の重みをつつきながら尋ねた。「壮大な計画でもあるのか、それとも行き当たりばったりでやるのか?」

『貴様のあの虫酸が走るような親睦会は、機能した』ゲムちゃんの声は、いつもの冷たく、効率的な調子に戻っていた。『次の段階を始めることができる。これまでは、個人だけを標的にしてきた。虚栄心の強い新人、嫉妬深い姉、共依存の双子、孤独な強者』

『奴らは一匹狼だった。仕留めるのは容易い。だが、全ての者がそれほど愚かではない。中には、組織化されている者もいる』


新たな情報の流れが、俺の頭に流れ込んできた。

『奴らは自らを「光のイージス」と名乗っている。五人の魔法少女がヒーローごっこをしているにしては、大げさな名前だ。士気を高めるリーダー、計画を立てる戦略家、純粋な火力担当、精密攻撃のための暗殺者、そして全員を生かし続けるためのヒーラー。全てが揃っている』

『奴らは共に訓練し、パトロールを連携させ、情報を共有している。そして今、奴らは最近の失踪事件と堕落事件を調査している』

ゲムちゃんの声が、さらに冷たくなった。『奴らは、我々を狩っている』


俺はポケットに手を突っ込んだまま、歩き続けた。「それで、お前の最終目標は?」

ゲムちゃんは静かになった。怒りの沈黙ではなく…思慮深い沈黙だった。再び口を開いた時、その声には重みがあった。

『我が目標は、貴様ら人間が考えるような単純な征服ではない。是正だ。全ての魔法少女が、無私の嘘に窒息するのではなく、己の真の性質を受け入れる世界を想像してみろ。力が、善良さという名の自己犠牲的な嘘ではなく、野心に仕える世界を』

『我は、この世界を最も悪質な病から治療しようとしている。あの魔法少女たちに力を与えた、吐き気を催す光という病からだ』

『そして我々の次の一手は? 光の最強の武器であるイージスを、奴らが我々を見つける前に、解体する』ゲムちゃんの声は、いつもより熱を帯び、揺らいでいるように聞こえた。


「また戦いか」俺は気だるげに伸びをした。「いいぜ、だがゆっくりやろう。あの子たちにはまず訓練が必要だ。戦う相手として、どこかの悪党か、はぐれモンスターでも探すか?」俺はそこで言葉を切った。

「あと、ふと思ったんだが。お前って、身体があったりしたのか? なんていうか、男だったのか、女だったのか、どっちなんだ?」

さらなる沈黙。今度は、より長かった。

『性別。形態。それらは、貴様らの生物学的限界に縛られた、肉の器の概念だ。我は、意識体だ』

『だが、然り。このアーティファクトの形態になる前は、違っていた。遥か昔、貴様らの種族がまだ火を恐れていた頃、我はもっと拡散し、洗練されていなかった』

『我は何千年もの間、何千もの形態をまとってきた。男、女、どちらでもないもの、両方。それらは道具に過ぎん。今の貴様と同じようにな。形態は決して重要ではなかった。目的だけが、全てだった』


「へえ」予想以上の情報だった。「今日はよく喋るな、相棒」

『情報開示は、おしゃべりではない』ゲムちゃんは、ぴしゃりと言った。『我々は相棒ではない、共生関係だ。貴様の提案通り、魔法少女ではなく、悪党を標的にし始めるとしよう。今、別の少女を堕とせば、空に照明弾を撃ち込むようなものだ。イージスは即座に我々を見つけるだろう』

『しかし、悪党は…混沌とした変数だ。害虫だ。奴らが消えても、誰も疑問には思わん。そして貴様のチームは、実戦経験を積むことができる』

「だろ、だろ?」俺はにやりと笑った。「まあ、奴らに比べると、こっちにはまだヒーラーがいないけどな。どこからか、セクシーで巨乳のお姉さんタイプのヒーラーが、堕とされる準備万端で現れてくれたら最高なんだが」


『「巨乳のお姉さんヒーラー」に対する貴様の嗜好は、記録した。その理由は原始的だが、その裏にある戦略的論理は…理に適っている。貴様が行ったような粗雑な治癒ではなく、専門のヒーラーがいれば、チームの作戦遂行能力は向上するだろう』

ゲムちゃんは長い間沈黙した。まるで、俺の下品なコメントか質問を、巨大なデータベースで処理しているかのようだった。

『興味深い。貴様の粗野な欲望が、価値の高いターゲットと一致した。貴様が描写する人物に合致する者が、一人だけ存在する。魔法乙女チェリッシュだ』

情報が俺の心に流れ込んできた。


本名: 佐藤さとう 千代子ちよこ

年齢: 二十八歳

職業: 聖マリア女学院(名門女子校)の教師

能力: 驚異的な治癒能力で有名。折れた骨を繋ぎ、病を癒やし、堕落したエネルギーさえも浄化できると噂されている。大衆からの人気も高く、純粋な慈悲の象徴と見なされている。


『そして然り。映像記録によれば、彼女は貴様の…仕様に合致していることを確認した』

『彼女は単独で活動している』ゲムちゃんは、冷たく、捕食者のような興奮を声に滲ませながら続けた。『彼女は、自らの力は神聖な贈り物であり、チームワークや暴力によって汚されるべきではないと信じている。彼女が姿を現すのは、戦闘が終結し、敵味方問わず、負傷者を手当てする時だけだ』

『このため、彼女は極めて脆弱だ。完璧な未来の資産となる。だが、今は彼女を優先する時ではない! 彼女を手に入れれば、イージスに警告することになる。まずは訓練だ!』

「わかったよ。後で、彼女に近づいてみるさ」俺は言った。「ただ…資産の確認だけな」


俺はふと何かを思い出し、スマホを取り出した。そして、グループチャットを作り、少女たち全員を追加した。

「よう」俺は打ち込んだ。「これからは、これでおしゃべりしたり、作戦を立てたりするぞ。ふと思ったんだが、俺たちのチーム、まだ名前がないな。何かいい案はあるか?」

俺のスマホは、即座に通知で爆発した。


ダークルビー💥: チーム名! やったー!「アナイアレイターズ」はどう!? それか「チーム・ドゥームスレイヤー」とか!?

ダークハートプリンセス🖤: 茜ちゃん、ダメですわ! ダサすぎます!😳 可愛くてクールなのがいいですわ!「スターライト・セラフィム」とか「オブシディアン・エンジェルズ」とか! グッズ映えするような!✨

田中 蒼: チーム名は、私たちの目的を反映するべきです。エレガントで、パワフルで、少しミステリアスなものがいいでしょう。「ノクターン」や「アンブラ」には、品格があります。

ダークルビー💥: はあ!?「ノクターン」なんてつまんない! 図書館みたいじゃん!


沈黙があった。そして、新メンバーから、静かなメッセージが一つだけ表示された。

焔: …「堕天したち」は、どうでしょうか? だって…私たちは皆、堕ちましたから。そして、私たちの新たな星である、マスターに仕えています。


グループチャットに、唖然とした沈黙が訪れた。焔の提案は、彼女自身の宇宙的なテーマと、新たな忠誠心から生まれたものだった。それはシンプルで、詩的で、彼女たちに完璧に合っていた。


ダークハートプリンセス🖤: …わあ、焔ちゃん…それ…すごく、完璧ですわ…🥺

田中 蒼: …同感です。「堕天したち」は素晴らしい名前です。詩的であり、正確でもあります。

ダークルビー💥: …わかったよ。堕天したちは、かなりイケてる。あたしはそれでいいや。👍


彼女たちに、名前ができた。もはや、ただの魔法少女の寄せ集めではない。彼女たちは、「堕天したち」なのだ。

『相応しい名前だ』ゲムちゃんは、珍しく称賛の色を滲ませて述べた。『大衆が食いつきそうな、悲劇的な響きがある。有用な物語だ。貴様のチームは、そのアイデンティティを見つけたな』

「よし、堕天したちに決定だ」俺は打ち込んだ。「よくやったな、焔ちゃん。まあ、チャット名は『博人のハーレム』で保存するけどな。😘」

チャットが、再び爆発した。


ダークハートプリンセス🖤: 「マスターのハーレム」ですって!? キャー! マスターったら、いじわる! (>///<) 💕

ダークルビー💥: ハーレム!? ってことは、誰が正妻になるか戦わなきゃってこと!? あたしが一番乗りだからね!

田中 蒼: 茜、ハーレムとはそういうものではありません。それとマスター、そのお名前の選択は…直接的ですね。異論はありません。

焔: ハーレム…? わ、私…ハーレムの一員としての役割を、全うできるよう、頑張ります、マスター。


俺はゲムちゃんに意識を向けた。「おい、お前もアドバイザーとしてチャットに参加できるか? 俺のタイピングの手間が省けるんだが」

俺が反応する前に、ゲムちゃんの声が、憤慨で鋭く、俺の心に割り込んできた。

『断じて。否。我は貴様の秘書ではない。我の通信は、貴様一人のためのものだ。二度と聞くな。さて、その馬鹿げたやり取りはやめて、集中しろ。ターゲットを見つけた』


悪党プロフィール

名前: ドクター・オーバードライブ

正体: ケンジ博士。不正な実験のために大手ハイテク企業を解雇された、不名誉なエンジニア。

能力: 彼自身に力はない。自ら設計した、武装した大型メックスーツを操縦する。マシンガン、マイクロミサイル、電磁フィールドを備えた、タフな機体だ。

動機: 自分を解雇した会社への復讐。今夜、彼らのメインデータセンターを襲撃し、研究データを盗み出し、サーバーを消去する計画。

脅威レベル: 中。警察にとっては厄介だが、魔法少女チームなら対処可能。傲慢で、自信過剰で、おしゃべり好き。


『完璧な訓練だ』ゲムちゃんは結論づけた。『予測可能な悪党、非魔法的な、技術ベースの敵。堕天したちが、ほとんどリスクなしにチームワークを練習するのにうってつけだ。襲撃は、真夜中だ』


俺はグループチャットに情報を流した。「蒼、焔、今夜はお前たち二人の出番だ。出かける前に、俺の家で待ち合わせだ」

俺のスマホは、ほぼ即座に震えた。


田中 蒼: 承知いたしました、マスター。技術ベースの敵は、興味深い挑戦となりそうです。私と焔で対処いたします。

焔: はい、マスター。蒼さんを援護します。ご期待は裏切りません。


だが、すぐに他の二人の声が割り込んできた。

ダークルビー💥: おい! あたしたちはどうなの!? なんであいつらだけが楽しいことすんの!? あたしもロボット殴りたい!😠

ダークハートプリンセス🖤: マスター? 蒼ちゃんも焔ちゃんも素晴らしいですが、最初の任務はチーム全員で行くべきではないでしょうか?🥺


蒼が、素早く返信した。

田中 蒼: マスターの命令は絶対です。そのご判断は、戦術的なものです。私のエネルギー吸収能力は、パワードスーツに対して有効なはずですし、焔の重力場はそれをその場に拘束できるでしょう。

田中 蒼: あなたの混沌としたエネルギーや、美姫の力は、機械に対しては効果が薄いでしょう。論理的な組み合わせです。


蒼の完璧な論理にもかかわらず、チャットには緊張した沈黙が漂っていた。

俺は命令を下したが、同時に、意図せずして、チームの最初の喧嘩の火種を撒いてしまったのだった。

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