第15話 燃え上がる

「……ったく。下っ端だからってこんな危なそうな……」


 略奪者はブツクサ言いながら歩いているらしい。

 酒屋は商店街の南入口付近、対して園芸品店は商店街の北側。


 つまり、今店を出たら奴に見つかる。


(鶴美さん……どうします?)


(今すぐにでも叩きのめしたい気分だが……お前に任せる)


 略奪者は単独らしい。

 だが、逃げにくく、見通しの良い商店街。


 接敵を避けるのが難しいなら、いっそこちらから仕掛け……こっちには鶴美さんも居るし。


 だけど、グループに喧嘩を売るのはまずい……。


 まあメンバーはあのゲス男二人を殺しちゃってるけど……それはバレてないはずだし。


 うん。やっぱり隠れておこう。


(鶴美さん。隠れておきましょう)


(……分かった)


「なんだこのクロコゲは……げっ、焼死体かよ……中々おもしれぇ殺し方しやがる」


 ちょうど略奪者は……酔っ払いの死体を見つけたらしい。


「ああ、もしもし? 焼死体を発見しました、新しめっぽいんで、悲鳴はこいつのだと思います。どうぞ」


(あいつ……無線機のようなものを持っている?)


「えっ。帰っちゃだめですか? いや、犯人とかもう逃げてると思い……え、帰ったら新しい女回してくれるんすか! じゃあやります!」


 略奪者は周囲を探索し始める。


 まずい、まずいぞぉ……このままだと見つかる。


(……ここは私が行こう)


(いや待ってください)


 鶴美さんは奴らに顔がバレている。

 だけど、略奪者共はそもそも鶴美さんが生きているか分からない状況のはずだ。


 無線で報告されるとまずい。

 前の2人などの事も含めて、相当な目の敵にされるはずだ。


(僕が行きます)


 僕はフルフェイスメットのお陰で顔が割れにくいし……。


 略奪者は金属バットで武装しているけど、何とか勝とう。

 いや、今の僕なら……。


(本気か?)


(ええ、行ってきます)


 僕は店から飛び出す。


「っても犯人なんてそうそう見つからねぇよなぁ。……なんならサボってもバレ……」


「……」


 僕は釘パイプを持ち、無言で接近する。

 略奪者はこちらに気づいたようだ。

 ……不意打ちなら楽だったけど。


「お、おい……なんだよお前。ずいぶん……物騒じゃねえか?」


 ……この人、怯えてるのか?

 ああ、怯えるのは良くない……まともな判断が出来なくなる。

 いじめられてた僕はその事を良く知ってる。


「なあ……コレもお前がやったのか?」


 僕は答えない。

 首を縦に振ることも出来たが、そうしない。


 もっとも恐ろしいのは、会話が通じない奴だから。


 僕は釘パイプを構えて足を早めた。

 あえて足音が大きく響くように、一歩一歩を強く踏みしめる。


「く、来るな! ヒィィィ!!」


 略奪者は、足を震わせ、背中を向けて逃げていく。

 ……なんだよ、向かえ討つ準備は出来てたのに。


 僕は鶴美さんの方へ戻った。


「やるじゃないか! 戦わずして勝つとはな!」


「……まあ、武器の威圧感とか、ゾンビの血とかが色々上手く噛み合ったんだと思います」


 たぶん鏡で今の僕を見たら、そこにはホラー映画の敵が映っているだろう。


 ……良かったなぁ、えげつない見た目でも釘パイプを作ったかいが有った。


「それに……生かして返しちゃったんで、奴らの仲間も戻って来るでしょうし」


「それはどうだろうか。無線を持っているなら、連絡が途切れた時点で追手は来るだろう……結果は変わらなかったと思うがな」


 確かにそれもそうか。

 ステルスゲーなら暗殺すれば増援も来ないだろうけど……。


「いずれにせよ、早く離れた方が良さそうですね」


「大勢を向かえ討つ……いや、準備が足らないか。奴の発言は気になるが……」


 避難所に囚われている人々。

 ……助けられるなら、そうしたい。


 だけど今突っ込んでも無駄死にさらしてしまう。

 つまり武力が必要で……あ、そうだ。


「そうだ、武内さん。帰る前に酒屋に寄って良いですか?」


「……飲むのか!?」


「そうじゃなくて……! ああ、とりあえず帰ったら説明するんで! 持てるだけ持ち帰らせて貰いましょう。出来るだけ度数の高いやつを集めて……」

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