第16話
「それじゃあ話をまとめるぞ。まず佐藤はいつも行く公園で大空さんに出会った。それで仲良くなって大空さんの友達の最上さんとも出会った。今回オフで会うのに怖さがあったから付き添いとして来た。でいいよな?」
「それで合っているよ。一ノ瀬は同じ理由で妹さんの付き添いで来たわけね」
「あのー、妹さんじゃなくて菜月って呼んでください。なっちゃんでも良いですよ」
「それで妹さんは俺のことを知っていたのは?」
「兄がたまに佐藤さんの写真を家で見せてくれてまして。兄は昔から友達が少なかったので同年代の男性の写真を見せてくれるなんて印象に残ってまして。酔っぱらっているときの写真が多いですけれど。それでなっちゃん呼びは?」
「待て、色々と情報量が多い。まず妹さん呼びからいこうか。変に親密な呼び方すると後でこわーいお兄さんが面倒くさそうだからね」
俺と一ノ瀬妹が話すと般若の顔になっているのが1名。まあ、一ノ瀬なわけだけれど。俺と一ノ瀬妹が話す時に直線距離上に身体を入れてブロックしてくる徹底っぶり、そんなことしなくても何もするわけないだろ。
それで、俺が酔っ払っている時の写真ってどれだよ。これでそんな恥ずかしい写真はないと言い切れないのが悔しい。多分一ノ瀬のスマホのフォルダには幾らでもある。酔っ払ってゲロ吐いている時の写真や、ぶっ倒れている時の写真のあれこれが多分ある。そんなもん家族と共有するなよ。
それと友達が少ないのは初めて知った。薄々は察してはいたけれどやっぱりそうなのかと。だって顔の良いやつはそれだけで妬みの対象になるからな。俺も一ノ瀬のこと嫌いだし。本人にも散々っぱら告げてはいる。
「兄はですね。昔から狙っていた子を取られたとかなんとか、色々と友達だと思ってた人に陰口叩かれてたんです。だからこそ真正面からムカつくとか嫌いとか言ってくれる佐藤さんには感謝しているみたいですよ。居酒屋とかにもよく一緒に行ってくれてるみたいですし」
「妹さんがそう言っているけれど。そうなの、一ノ瀬クン?」
「菜月ちゃん、変なことは話さなくていいからね。それに佐藤とは会社の同期であって友達じゃないから」
「そんなことお兄さんも言ってましたね」
そう口を挟むのは榛名ちゃん。今日の主役のはずなのにいまいち輪に入りきれていない。ごめんよ、俺もこんなイレギュラー想像もしていなかった。まだ怖いおっさん達が後ろからぞろぞろと出てくる方が想定の範囲内だった。
それと呼び方がお兄さんに戻ったのか。素性もバレているし、今更兄妹の振りする必要もないもんな。少しだけ残念。俺には弟も妹もいないからもう少しだけ兄でいたかった。
「そこら辺の線引の仕方は男の人特有でわからないですよ。仲の良い同期でプライベートでも遊びに行くなら友達で良いと思うのに。大学の同級生となにが変わらないんですか?」
「それはな、難しい問題なんだよ。仮に一ノ瀬と飲みに行くとするだろう。酒も進んできて、話題も概ね出尽くした後に結局俺等を結ぶ共通の話題は仕事の話なんだ。なんか友達っぽくないだろう?」
一ノ瀬を見ると頷いている。そうだろうな、地元の友達より会う頻度も勿論多いし、飲みに行く数だって多い。それでもなんか友達って表現は似合わないんだよな。
「男の人ってそういうところ本当に面倒くさいですよね。じゃあやっぱり兄は未だに友達がいないんですか。話は変わりますが、ちょっと関係はしているけれど。佐藤さんは私にドキドキとかしませんか?」
「うーん、なにをぶっこんでくるんだこの子は。どっちに答えても殴られそうな未来が見える」
だって一ノ瀬が臨戦態勢だもん。拳を構えている。イェスと答えてもノーと答えても良くなさそうな雰囲気を感じる。まあ、やられたらやり返すけれども。俺も自ずと反撃の構えを取る。
「そんな陰険な雰囲気にならないでくださいよ。単純な話ですよ。私も異性の友達が少ないんですよ。周りには来るけれど、やっぱり下心とか多くて」
「そうなのか菜月ちゃん?!」顔が青ざめているのが一ノ瀬。
「わー、私もそんな風に言ってみたい!」「あなたに下心持つような輩は私が近づけてないのよ」そんな無邪気な感想と物騒な返答をしているのが榛名ちゃんと千咲ちゃん。というか千咲ちゃんは優秀と言うべきか、過保護と言うべきか。想像していたとおりでもある。
「正直に言おう。こわーいお兄さんがいるとか関係なく。最初は綺麗な子だと思ったけれど、既視感の正体が一ノ瀬だと気がついてからはそういう目では絶対に見れない⋯⋯」
「あら、あらあら。ふふ、振られちゃいましたねー」
何故か上機嫌に笑う一ノ瀬妹。いや、振ったまでの覚えはないが。そういうこと言うとさー⋯⋯。
「あ゛あ゛ん゛?」
ほら、面倒くさい奴が怒っちゃったじゃん。お前のそんな声初めて聞いたわ。最早ヤカラじゃんか。ホストみたいな格好しているから似合わないでもない。
「まあまあ、お兄ちゃん。怒らないで。私は嬉しいんですよ。初めて下心のない異性の友達が出来そうなんですから。お兄ちゃんが友達じゃないのなら先に友達になるのは私ですねー。なっちゃんって呼んでいいですよ。というか呼んでください」
一ノ瀬兄妹とも苦労しているんだなーと思いつつも、顔が良いからだざまぁみろと言う気分にもなってくる不思議。だって俺は生まれてこの方そんな気苦労を重ねた覚えはないからな。
「なぁ、佐藤。俺はどんな顔をすれば良いと思う?」
「知らん、俺に振るな。それに同期の妹は友達って目でも見れない」
「えぇー⋯⋯、そんなぁ⋯⋯」
「じゃあ私もお兄さんと友達になります」
「こら、榛名。話が余計ややこしくなるでしょ」
どんどん混沌が深まってくる場。俺の癒しは千咲ちゃんだけだよ。どうだい、俺と友達にならないか。なんて言ったら修羅場待ったナシだな。流石に今回は俺もツッコミ役に回らせてもらうわ。
「ほら、本来の趣旨を忘れてんぞ。今日は榛名ちゃんとなっちゃんの撮影だろ? 公園に行くぞ」
問題は後回し。これぞ社会人の生きる術である。なーんにも解決してはいないけれど、面倒くさいからしゃーない。
偶像になりたい君、俺の日常 池峰奏 @AAM_GGA_206
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