努力の才能
かんたろう
いじめ
俺はイラストレーターになりたい。
いつからだろう。
覚えていないがもうずいぶんと前からだった。
僕は小説が好きだった。
だから、好きな小説が書籍化された時はとても嬉しかった。
想像上にしかいない、キャラクターをイラストに描き起こし、見る人達に小説を読む意欲を与えるイラストレーターの仕事は、当時まだ小さいながらも憧れる程、魅力的だったのだ。
その時からずっと僕は絵の練習を続けている。
◆ ◆ ◆ ◆
イラストレーターを志してから数年。
俺は今、高校生になっていた。
絵の練習を初めてすぐに分かった。
自分の才能が乏しいということに。
しかし、前を向いて努力している。
空き時間があったら絵の練習をするようにしている。
いつか絵が上手になる事を信じて────
そして、学校の休み時間を絵の練習に使っていると──────
──ガタンッ
机を蹴り飛ばされた。
「なんてヘッタクソな絵描いてんだぁ?」
「ハハハハハ、おいおい。やり過ぎじゃね?センコー来ちまうぞ?」
最近は毎日こんな調子だ。
高校に入学後、クラスの派手な連中──いじめっ子に目を付けられてしまっていた。
確かに、顔や体はお世辞にも整っているとは言い難い。
しかし、ここで──こんな奴らに構っている時間なんてない。
完全にいじめっ子のことをを無視して、直ぐに机を元に戻し、絵の練習を再び始めた。
僕が何も反応を示さなかったからだろうか、いじめっ子が数人こっちを睨んできた。
◆ ◆ ◆ ◆
帰りのホームルー厶が終わり、帰る時間となった。
僕はいつもどおり、机の中の教科書と筆箱、絵の練習用のノートを鞄に入れようと机の中に手をいれると────なかった。
今まで頑張ってきた努力の結晶たるノートがなくなっていた。
僕は頭が真っ白になった。
何も考えれない。
何も考えたくない。
今まで僕が一体どれだけ頑張ってきたか、その証拠であるノートが……
代わりに会ったのは机に入れた覚えのない紙切れ。
その紙切れには
『ノートを返して欲しけれりゃ、校舎裏に来い』
という文だけ。
それを見た瞬間僕の足は迷うことなく、校舎裏に向けて全力疾走していた。
校舎裏にいたのはさっき僕の机を蹴り飛ばして笑っていたいじめっ子達だった。
手に僕のノートを持ってニヤニヤと僕を見て笑みを浮かべている。
「おい。デブ!ちょっと最近、調子乗ってるよなぁ?」
彼が言葉を発し終わってから、いじめっ子達が一斉に笑い始めた。
くっ…屈辱だあ…
いじめっ子の一人がノートの中に目を通した。
「うわッ!下手くそ過ぎるだろ?よくこんな絵描けるな?俺でももっと上手く描けるぞ!」
また、いじめっ子達の間で笑いが起こった。
僕はここで意を決した。
「お願いします。ノートを返して───」
「え?もう燃やしちゃってるよ」
僕は地面に当てて懇願していた頭を上げると前には───ライターで炙られているノートが見えた。
「はっ!あああ!?ああああああああー!?……やめて。お願いします。本当に……お願い…」
皆が遊んでいる時間も寝ている時間も全て僕は絵の練習につぎ込んだ。その…努力の結晶のノートを………そんなに簡単になくなっていい物じゃ……
しかし、僕のお願いは聞き届けられなかった。
もう真っ黒な炭になっていたのだ。
「あ…あ…あ…!あアああアあアー」
僕は無謀にもいじめっ子達に突っ込んでいった。
ただでさえ運動は苦手だというのに。
しかし、ここで何もせずに引き下がるわけにはいかなかった。これまで頑張ってきた僕の努力の結晶が、いじめっ子達の笑いものにされ、これまでの僕の頑張りが否定される。それは僕には許容し難い出来事だったのだ。
僕は一瞬でいじめっ子達に伸された。何も僕の思い通りにいかない……
人生なんてそんなものかもしれないがあまりにも酷い。
「ざっこ!デブだし、ブスだし、才能もない、絵なんて辞めちまえ。俺でももっとマシなの描けるぞ!」
そう言い残しいじめっ子達は去っていった。
悔しい。僕はどれだけ絵の練習を積んできたか、どれ程、自分の才能がなくても頑張っきたか、全てが今否定された…
うッ……うッ………ううう。
高校生だというのに年甲斐もなく泣いてしまった。しかし、数年間頑張ってきたのだからこれくらいは許してほしい。
────あぁ、そろそろ潮時だったのかな?
自分の身の丈に合わない大きい夢を持つことは間違っていたのかな?────
もう辞めよう。僕には才能がない、だから夢を諦めなくてはならない。
自分の心が負の感情に塗りつぶされた。
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