第39話 真夏の戦い その1


 

 争い。


 こうしている間にも、人はあらゆるところで争いを繰り広げている。

 それは戦場で、法廷で、ネットの中で。

 そして、一見平和に思える旅行中の電車の中でも、小さな争いは起こるものである。


「先輩、たけのこですよ〜」

「お兄さん、きのこです。美味しいですよ?」


 後輩と紗世ちゃん。

 2人に挟まれて、オレは判断を迫られる。


 オレは手を伸ばす。


「じゃあ、たけのこを──」

「お兄さんはたけのこがお好きなんですね」

「──っ」


 紗世ちゃんを見ると、恐ろしさを感じる笑顔でこちらを見ていた。


「い、いや、きのこも好きだぞ?」


 今度はきのこに手を伸ばそうとすると、


「あ、きのこもらってもいい?」


 後輩がきのこの入った箱を取って、残り全てを自分の口にの中に入れてしまった。

 食べ終わると、後輩は紗世ちゃんに笑顔を向けた。


「きのこも美味しいね!」

「……」


 紗世ちゃんも後輩に笑顔を向ける


「そうですか。それはよかったです!


 しかし2人の間には火花のようなものを感じる。


 ──争い。


 時代が変わろうと、文明が変わろうと、太古の時から人はその行為を続けてきた。

 もしかすると、争うことは人の本能なのかもしれない。


 ***


 遡ること一週間前。


『夜、海行かないかい?』


 友人のルークからそんな電話がかかってきた。


「海、か。そうだな。せっかくの夏休みだし行くか」

「そうこなくっちゃ。来週の金曜朝8時に駅に集合でいいかい?」

「あぁ」

「じゃ、そういうことで──」

「あ、ちょっと待て」

「ん?」

「そ、その、後輩もくるのか?」


 そう聞くと、笑い声が返ってきた。

 ……こいつ。


「もちろん」

「……そうか」

「それとミナと紗世ちゃんと朝ちゃんもくるよ」

「待て、なんだそのメンツは……」

「成り行きでね」


 ……どんな成り行きだよ。というかいつの間に紗世ちゃんと朝と仲良くなってたんだ。この女たらしが。


「というか朝がよく了承したな……何したんだ?」

「さぁ? 紗世ちゃんが誘ってくれたから僕は分からないや」

「そ、そうか」


 あのインドアで、オレのことが極端に嫌いな妹がこのイベントに来るのはとても意外なことだ。……紗世ちゃんは一体どんな方法で誘ったんだ?


 ……まぁいい。

 それより面倒な事がある。


「……それとミナちゃんはいいのか? 前にあんな事があったのに」

「だからこそだよ」

「?」


 どういうことだ?


「僕はね。ミナと夜には仲良くして欲しいと思ってるんだ」

「……」

「だからね。この旅行中に仲直り……っていうのは違うもしれないけど、仲良くなって欲しい。だから夜。夜の方からミナに歩み寄ってくれないかい?」

「……」


 正直、意識的に人と仲良くするは苦手だ。

 まるで演技で仲良くしているような気がするから。

 だがいい機会かもしれない。


「──分かった」


 引き伸ばしにしていたミナちゃんとの問題をこの旅行で解決してしまおう。


 ……こんな事、少し前の自分なら決して思わなかっただろう。

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