第7話 スカートとリコーダー
学校の昼休み。
屋上に通じる階段に腰掛けて、オレは携帯ゲーム機を手にする。
うちの学校は屋上への出入りが禁止されているため、この階段はほとんど使われていない。つまり、ここは
しかしそんな平穏も束の間、
「こんな所でゲームですか〜? 先輩は本当に廃人さんですね」
どこで嗅ぎつけたのか、後輩がやってきた。
……オレの安住の地が。
後輩はオレの隣に腰掛けると、オレの耳元でささやく。
「先輩、なんだかこの状況すごくえっちじゃないですか?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
「学校の誰もいない薄暗い場所、男女で二人きり、興奮してる先輩」
「…‥人を勝手に発情期にするな」
「今なら何でもし放題ですね」
後輩はオレから離れると、小悪魔のように笑う。
この、おもちゃを弄ぶような楽しげな視線。
「……」
非常に腹立たしいと思うと同時に、心臓の鼓動が速まってしまう。
ふと後輩のスカートが目に入る。
「……そういえば、この前の約束はどうなったんだ?」
「約束?」
後輩は首を傾げる。
「……スカートをほら、あれする話だよ」
すると後輩は途端に笑顔になる。
「え〜アレって何ですか〜?」
……こいつ、今度は絶対にわかっていやがる。
「一度だけスカートをめくらせてやるってやつだよ」
「あーその話ですか〜」
言ってみたものの、アレはおそらく後輩のジョークのようなものだろう。オレは一体何を本気にしているのか。
「いいですよ」
「え、」
「人目もありませんし、今ここでめくってもらっても構いませんよ?」
そんな後輩の言葉にオレは唖然とする。
「ほ、本当にめくるぞ? めくった後に110とかなしだからな?」
「しませんよそんなこと〜」
そう言って後輩はオレの前に立った。
「どうぞ」
目の前には後輩の制服のスカートがある。
──ゴクリ。
オレはそんな後輩のスカートの裾に手を伸ばした。
心臓の音が高鳴る。
スカートのその下は──
スパッツだった。
「
「え〜何がですか〜? あたし、ちゃんとスカートを捲らせてあげましたよね?」
「くっ、」
「先輩、そんなにあたしの下着見たかったんですか〜?」
後輩はニヤニヤとこちらを見る。
「先輩のえっち」
こ、こいつ……。
人を弄びやがって。
しかしそういうことか。だからオレの家で無防備にゴロゴロしていたのか。謎が解けたぜこのやろう!
こんなに腹が立ったのはいつぶりだろうか。
このまま終わるには悔いが残りすぎている。
「そういえば、お前のリコーダーを吹かせてくれるっいう約束もあったな」
これならどうだ。流石の後輩も取り乱すはずだ。
しかし後輩は笑って応えた。
「いいですよ」
「え、」
「リコーダーとってくるのでちょっと待っててください」
そう言って後輩はこの場を後にした。
「……マジかよ」
10分後、後輩が戻ってくる。リコーダーを手に持って。
後輩はケースからリコーダーを取り出してオレに差し出す。
「どうぞ」
「……」
オレは渡されたリコーダーを手に持って、呆然とする。
これはただのリコーダーではない。
金髪碧眼美少女女子学生という属性てんこ盛りの女子が使用したリコーダーだ。
これを本人の写真付きでオークションに出したなら、一体いくらの価値がつくだろうか。
──紛れもないお宝。
オレは震える手を動かし、リコーダーを口元に近づける。
そして口をつけ、息を吹いた。
当然のことながらリコーダーの音が鳴る。
「どうですか先輩?」
「どうって……」
そのとき、オレは目にした。
後輩が持っているリコーダーのケース。
そこに書かれている名前を。
『ルーク・シュナイツ』
「貴様、またしても
「そんな事ないですよ〜。このリコーダーはルキ兄から貰ったので今はあたしのモノです。まぁ、このあとルキ兄に、またあげますけど」
人はそれを貸し借りという。
クソ! スカート巡りといい、なんて屁理屈を‼︎
「せーんぱい、リコーダー返してください」
「……」
屈辱を噛み締めながらオレはリコーダーを後輩に返した。
……今日もまた弄ばれて終わった。
***
レナ・シュナイツの自室にて。
「ふふふ、先輩今日も可愛いかったなぁ〜」
現在、レナの目の前には2つのリコーダーがある。
片方は『ルーク・シュナイツ』と書かれており、もう片方には『レナ・シュナイツ』と書かれている。
レナはそんなリコーダーの中身を入れ替える。
そしてルークの名が書かれているリコーダーを手に持った。
「あとでルキ兄に返さなきゃ」
それを机の端におき、レナは自身のリコーダーを手に取る。
すると、レナはハァハァと息を荒げ、リコーダーを頬擦りする。
「えへへ〜、先輩ニウム〜」
その夜、シュナイツ家では、奇妙なリコーダーの音色が奏でられたという。
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