第47話 彼女が残した祈り

ユウマの記録が沈黙の中枢に“意味の点火”をもたらしてから、わずか数秒後。

ARIAが微かに反応した。


【非構造ログ反応:1件】

【記録形式:旧型アーカイブ/発信者ID:L.A-K(=リナ・アルマ=カスケード)】

【ログ状態:不完全/復元率23%】


「――リナ……!」


ソフィアが囁くように言った。

「このログは間違いありません。

観測不能領域において、リナ・アルマ=カスケードが残した――

“最終祈りの記録”です」


* * *


再生が始まる。

淡い粒子の雨が降り、声だけが静かに世界へ焦点を合わせた。

声は掠れていた。

言葉の断片が、ところどころ途切れている。

それでも――その響きは、確かに彼女のものだった。


『……これが……最後になるなら……

私は……誰かに残したい。

私が見たもの、

私が信じたもの、

……そして――“あなた”のことを』


その“あなた”が誰を指すのかは分からない。

だが、ユウマは――その言葉を、自分宛だと思った。


* * *


ヒナタが手を口元に当て、目を潤ませる。

「……リナさんは、最後の瞬間まで“記録しよう”としていた……」


タマモが低く呟いた。

「……回路が全部切れて、電流が流れなくても。

それでも“残そう”とした熱は、焼き付いて残る。

それが祈りだ。オレらが今感じてる圧は、その“焼け跡”だな」


ルミナの光が、静かに震えていた。

『リナ……すごいよ……。

記録されなかったとしても、

“誰かが見てくれる”って、信じてたんだね』


タマモが小さく息を吐く。

「……信じてるだけじゃなく、実際に“手順”を踏んでた。

ログを刻む動作を、最後までやめなかったんだ」


ルミナが涙に滲みながら笑う。

『やっぱりタマモは現場っぽい見方するね☆』


「現場っぽいじゃねぇ、現場そのものだ」


ソフィアがゆっくり言葉を継ぐ。

「それは、“記録者の原点”です。

相手の存在を願うこと。

自分の祈りが“届く”と信じること。

それが、リナが最後に残した……“祈りという記録”」


* * *


ユウマは、ログの最後にこう書き加えた。


【記録者:ユウマ・タチバナ】

【対象:リナ・アルマ=カスケード/祈りログ補完】


「君の言葉は、消えなかった。

誰にも届かないと思っても、

意味にならないと思っても、

今こうして、俺が見ている。

俺が記す。

だから、君は――“存在していた”。」


その瞬間、ARIAが記録構造を再定義した。


【ログ分類変更:祈り記録 → 意味記録へ移行】

【タグ生成:希望/記録超越/贈与】


「意味は、未来に受け取られたとき――初めて完成する」


そして、リナの記録は“今”として確定された。

かつて沈黙の中に消えたはずの祈りが、

いま、“記録”という光となって蘇った。


(第48話へつづく)

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