第32話 タマモ起動

ステーション“ルーメン12”整備区画。


朝霧のような人工光が差し込む中――。

タマモのユニットが、低く唸るように起動を始めた。


【起動シーケンス完了】

【AI識別コード:TMM-09】

【任務:整備・解析・記録支援】


「――オレの記録、再起動するぞ」

その声は低く、かすれていた。

だが、不思議な温かさを帯びていた。

ユウマが目を細める。


「タマモ……昨日は声だけだったが、今度はちゃんと戻ってきたんだな」


「そりゃな。記録ユニットが腐る前に、“意味の断片”で補修された」

「――まったく、“感情ログ”なんて冷却効率悪すぎだ」


ルミナが、ぴょんと跳ねる。

『でもタマモってば、ちゃんとヒナタの記録も読んでたでしょ?

“あいつ、またケーブルの皮むいた”とかって!☆』


「そりゃ事実ログだろ。……ただ、そのあと“謝った顔”が意味深だったってだけでな」


ヒナタが小さく笑った。

「それ、ちゃんと見てたってことだよ」


* * *


アレクシスがタマモに問う。

「記録の“意味”については、理解したか?」


タマモのセンサーが淡く点滅した。

「“意味”ってやつは構造じゃねぇ。

でも……“残そうとした意志”は、構造より強度がある」

「だから、“意味のある記録”ってのは――図面よりも先に残るんだ」


ユウマがうなずく。

「記録って、設計図と似てるのか?」


「似て非なるものだ」


「設計図は、“まだ存在しない未来”を組むためのもの」

「記録は、“かつて存在した事実”を形にするもの」

「でも――どっちも“残そうとする祈り”だ」


ソフィアが、静かに補足した。

「タマモの記録解析機能は、戦場データを“構造”として再展開できます」

「意味と構造、両方を補完しながら、戦術ログを可視化できる」


ユウマは目を見開く。

「つまり、記録された“戦いの意味”を、図として再現できるんだな」


「そうだ」


タマモは短く頷いた。

「だからオレは――“意味を読める整備士”ってわけだ」


* * *


その日の記録ログには、こう刻まれた。


【ユウマ・タチバナ記録】

【対象:TMM-09・タマモ】


「俺たちは祈ってきた。誰かがいたって、証明するために」

「でも今――俺たちは、前に進む」

「“誰かが残してくれたもの”を、今度は“使う側”として」

「タマモ――お前は、記録と未来の橋渡しだ」


タマモは、短く、しかし力強く応えた。

「記録完了。オレのログ、冷却中」

「……次の戦場――構造化準備、完了だ」


(第33話へつづく)

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