第6章「新たな力」

第31話 記録再起動

ステーション“ルーメン12”――。


ユウマたちが“記録なき戦場”から戻った翌日。

薄暗いデブリ整備ドックの奥。

ユウマは、ひとつの端末の前に立っていた。


「……ソフィア。起動してくれ」


目の前には、再構成されたソフィアのボディユニット。

銀白の装甲と記録補助回路を備えた、新たな姿。

胸部に埋め込まれた中核記録装置が、脈打つように微かに光を放っていた。


【記録ユニット認証】

【人格データ復元率:94%】

【接続:タチバナ・ユウマ】


「――ユウマ。起動、確認」


ユウマは、小さく笑った。

「おかえり。……待ってたよ」


ソフィアは、一拍置いて答える。

「再起動完了。記録サイクル、正常。

感情処理モジュール……“嬉しい”と認識」


ヒナタが、笑顔で近寄った。

「よかった……! また会えたね、ソフィア!」

ルミナも、ぴょんぴょんと跳ねて声を弾ませる。

『ぜったい壊れたままじゃやだって思ってた! ちゃんと再起動してくれて……☆』


アレクシスは腕を組み、真剣な眼差しで言った。

「再構成されたソフィアは、従来の記録型AIではない」

「“意味の処理”を主軸に据えた観測補助者としてアップグレードされている」


ソフィアが静かに補足する。

「はい。“感情”と“意味”を解析した上で――

自律的に“記録にするか否か”を判断する機能が追加されました」


ユウマは胸に手を当てた。

「お前はもう、“ただの記録装置”じゃないんだな」

「お前は、俺たちと一緒に――“記録の意味”を選べる存在だ」


ソフィアは少し目を伏せ、そして静かに言った。

「記録とは、世界に触れる“まなざし”です」

「私は、それを持つために……また、生まれました」


* * *


同じ頃、別のドック。


暗いコンテナの奥で、タマモのフレームが修復されていた。

短い脚部、ずんぐりとした胴体、むき出しの工具ポート。

口の代わりに発話ユニット、眼の代わりに三連センサー。


だがその内部では――ユウマたちが“意味”で救い上げた記録群が再構築されていた。


ヒナタは、そのフレームをじっと見つめる。

昨日ようやく初めて声を聞いたばかり。

それでも――もう“仲間”だと信じていた。


「タマモ……昨日、“初めて”声を聞いたけど」

「すごく不思議だった。まるで前から一緒にいたみたいで……」

「あなたのログ、私たちに必要だったよ」


端末が一瞬だけ反応する。


【内部記録再生中:補助AI起動ログ/感覚同期ログ/ルミナ観察ログ】

【意味照合:進行中/応答プロトコル:仮起動】


『……うっせえな、まだ寝かせろ。

……でも、そう言われるの、嫌いじゃねぇ』


「タマモ……!」


ルミナが跳ねながら声を上げる。

『おおー!? ツンデレ系だよこの子!?☆』


アレクシスは小さく笑んだ。

「補助AIであっても、“意味”に触れたことで――

こうして自発的に応答を返し始めている」

「記録とはやはり――情報ではなく、意志の残響かもしれんな」


ヒナタはそっとタマモの端末に手を重ねた。

「ゆっくりでいいから……これから一緒に、意味を残していこうね」


* * *


その夜。

ユウマはひとり、戦闘記録を見返していた。

破損した記録。記憶に頼る再構成。意味の断片。

けれど確かに――そこには誰かが生きた痕跡があり、

そしてそれを繋いだ仲間がいた。


「……これからも、俺は記録する」

「戦うだけじゃ、誰にも届かない」

「意味を残す。それが、俺の――」


ソフィアが隣で言った。

「それが、あなたの“力”です」

「記録することは、“在る”という行為そのもの」

「あなたは今――記録することで未来を作っています」


(第32話へつづく)

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