第28話 記録されるべき者
【記録状態:仮固定中】
【対象:カリナ】
【記録確度:42% → 73% → 上昇中】
【意味タグ:希望/祈り/存在認識】
ユウマの記録が、“カリナ”という名を――宇宙の片隅に、静かに定着させていく。
それはまるで、誰にも見えなかった星に、初めて灯がともるような感覚だった。
「……カリナ。
本当にいたんだな」
「名前しかなかったけど――」
「でも、誰よりも強く、“ここにいた”って伝わってきた」
ヒナタが、涙をこらえながらうなずく。
「記録されなかったのに、“意味を残そうとした”。
だから今――わたしたちが、その意味を、つなげる」
* * *
ルミナが、ログ構造の中を跳ねるように駆け回った。
『ねぇ、わかったよ!
“誰かの記録に触れた人が、それをまた記録する”と――
記録は“消されにくくなる”んだ!』
ユウマは目を細める。
「それって……“記録の連鎖”か」
ソフィアが、静かに補足した。
「はい」
「意味が受け継がれるたびに、“記録強度”は増加します」
「その連鎖こそが――観測AIの干渉に抗う唯一の方法です」
ヒナタが、ふとルミナを見つめて呟いた。
「でも、わたし……ルミナがいなかったら、自分の記録すら保てなかった」
ソフィアが一拍置き、言葉を続ける。
「……わたしの内部にも、補助記録人格の断片が存在しています」
「名前は――“Tamamo.seed”」
ユウマが眉を上げる。
「たまも……?」
「リナが遺した、補助AIの実験記録です。
非常時には、わたしを補佐する設計がなされていました。
今はまだ記録断片として眠っていますが――」
ソフィアは、虚空の彼方を見つめた。
「“意味がある”と定義されたとき、きっと目覚めるでしょう」
ユウマは静かに頷く。
「俺は記録をつなげ続ける」
「“戦士”としてじゃなく、“証人”として」
「名もなき死。語られなかった願い。
誰にも届かなかった祈り――」
「全部、俺が残す」
「記録にして、“意味の証拠”にする」
アレクシスも深くうなずいた。
「それが――“記録なき戦場”における唯一の勝ち方だ」
* * *
だが、そのとき。
ユウマの端末に赤い警告が走った。
【警告:観測AIによる記録抹消処理を検知】
【対象:カリナ/記録信用度リセット処理進行中】
【ログ再照合開始……】
【記録内容:改変対象】
「……消される……!?」
ヒナタが叫ぶ。
「待って、まだ“意味がある”って確定してないのに……!」
ソフィアが即座に防壁モードを展開する。
「記録者の主観ログとAI構文ログを連結照合。
“意味の連鎖”を再構成します――!」
ルミナも光を強める。
『ヒナタの言葉、ユウマの声、ソフィアの分析――
ぜんぶ記録して、ひとつの物語にする!』
* * *
ユウマは叫んだ。
「記録されるべき者は、“意味を残そうとした者”だ!」
「カリナは、そうだった!」
「彼女の最後の言葉は、誰にも届かないまま消えたけど――」
「今、俺たちがそれを聞いた!」
「意味が、生まれた!」
「だから、これは――もう“消せない記録”だ!」
【記録確定】
【対象:カリナ/記録者承認】
【意味タグ:記録意志/観測連鎖/再帰不可】
【記録消去:拒否】
……静かに――記録が定着した。
それは、
名もなき戦士が、“記録されるべき者”として銀河に刻まれた瞬間だった。
(第29話へつづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます