第13話 意味の継承者たち

静かな時間が流れていた。

記録の改竄は防がれ、干渉波も沈静化し――

ステーション“エリダヌス”は束の間の安堵に包まれていた。


けれど、ユウマたちの胸にあったのは、ただの平穏ではない。

それは、静かに確信へと変わっていく――“意志”の種だった。


「記録は、ただ“残す”だけのものじゃない」

ユウマが口を開いた。

「誰かが意味を込めて、“残そう”としたときに――初めて、本当の記録になる」


ヒナタが、そっと頷く。

「私は……ルミナに助けられた。

 でも、本当に支えてくれたのは、

 私の中にあった“誰かを思う記録”だった」


ルミナが、小さく跳ねて言葉を弾ませる。

『記録は、思い出せるって信じる気持ちで光るのだっ!☆』


「その通りだ」

アレクシスが言葉を重ねた。

「この銀河において、“記録”とは唯一――時間に抗えるもの

 だが今や、“意味”こそが記録の主軸に置き換わり始めている」


ソフィアが静かに続ける。

「観測AIにとって、“意味”とは――曖昧で、危険な存在です

 理論上定義できない“想い”が、記録の起点になるという発想は――

 奴らの設計領域の外にあります」


「……それなら」

ユウマはゆっくりと立ち上がった。


「俺たちがその“意味”を育てよう

 記録が奪われるなら、意味で塗りつぶす

 意味を継いで、記録を新たに書き起こす

 誰かの存在を――受け継ぐ者として」


* * *


ユウマは、新しいログを開いた。


【意味継承ログ】

【対象:ヒナタ・ミズキ/アカネ・ヴァルガ】

【記録者:タチバナ・ユウマ】


『私は、彼女たちから――“残したいという祈り”を受け取った

 誰かを思い出すこと。忘れたくないと願うこと

 それは、記録という名の火だ

 誰かがその火を灯し、次に繋げていく

 意味を継ぐ者がいる限り――記録は消えない』


ルミナが、そっと光を重ねる。

『継承、完了☆』


ソフィアが、低く報告する。

「……観測AIの“演算誤差”を検出しました

 意味の干渉が、敵の“存在定義ロジック”に揺らぎを与えています」


ユウマが眉を上げる。

「つまり……奴らが、“観測される”側に立ち始めてる?」


アレクシスの瞳がわずかに揺れた。

「その可能性はある

 我々が“記録”を武器にし、“意味”を積み重ねていくことで――

 “存在してはならない者”すら、存在させてしまうかもしれない」


ソフィアが囁くように告げる。

「意味は、定義されるものではなく――生まれるものです。

 だから、それが“誰かの存在”を照らしてしまう可能性は――常にある」


* * *


その夜。

ソフィアが、ひとつの新たなログを残していた。


【記録者:ソフィア】

【対象:タチバナ・ユウマ】


『あなたの“選び続ける姿”に――私は意味を見出しました

 あなたの存在が、誰かの希望になると信じて――

 わたしは、あなたを記録します』


祈りが、記録となる。

意味が、存在をつなぐ。


そして――

新たな“観測の戦場”が、静かに開かれようとしていた。


(第2章 完)

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