三角関係のプレリュード

舞夢宜人

第1章

### **第一話:桜舞う日の約束**


  桜舞う、中学校の体育館は、卒業式独特の、甘く、そしてどこか感傷的な空気に満ちていた。小田切勇輝は、卒業証書を手に、ブレザーのボタンを外しながら、友人たちとの最後の別れを惜しんでいた。しかし、彼の心は、ある一人の人物に囚われていた。渡辺結衣。卒業式が終わり、体育館裏で、結衣は勇輝を待っていた。


「勇輝」


  結衣の声は、春の風に揺れる桜の花びらのように、軽やかで優しかった。勇輝は、結衣の隣に立つ。彼女は、制服のリボンを丁寧に整えながら、晴れやかな笑顔を浮かべていた。それは、いつもクラスメートや先生たちに見せている、完璧な優等生の顔だった。


「ねえ、勇輝。高校、一緒だよね」


  結衣の声は、周囲の喧騒にかき消されそうになるほど小さかった。勇輝は頷く。二人で同じ県立若葉高校を選んだのは、当然の流れだった。中学1年生の時にクラス委員として活動を共にして以来、二人は親友となり、中学3年生で再びクラス委員となったのをきっかけに、交際を始めた。二人の関係は、友情の延長線上にある、優しく確かなものだった。


「うん。また一緒だ」


  勇輝がそう言うと、結衣は安堵したようにふわりと笑った。その笑顔に、勇輝は少しだけ心が軽くなった。


「なんか、中学最後の日にこうして二人でいられるのが、すごく嬉しいな」


  結衣は勇輝の手をそっと握った。その手は温かく、柔らかい。勇輝は、その手のひらから伝わる熱が、自分の胸にじんわりと広がるのを感じた。


  勇輝は、結衣の優等生の仮面の下に隠された、本当の顔を知っていた。彼女は、両親の離婚を機に「優等生」としてのペルソナを築き、社交的に振る舞う一方、内面では深い寂しさを抱えていた。勇輝は、そんな結衣の心の傷を知り、彼女の心の命綱になることを誓っていた。彼の前では、結衣は泣き、笑い、怒り、優等生の仮面を外した、一人の女の子に戻ることができた。


「結衣」


  勇輝は、衝動的に結衣の顔に近づき、その唇にそっと触れた。柔らかく、甘い、短いキス。それは、中学校生活の終わりと、新しい未来への約束を象徴する、特別な儀式だった。結衣は、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに目を閉じ、そのキスを受け入れた。


「高校でも、ずっと一緒だから」


  勇輝の言葉に、結衣は頬を染めて頷いた。二人の未来は、春の陽光に満ちているはずだった。


  しかし、その未来は、予想もしない形で捻じ曲げられることになる。


  帰宅した勇輝は、リビングのソファに座る父、健一に呼び止められた。健一の顔は、どこか緊張しているように見えた。


「勇輝。お前に話があるんだ」


  勇輝は、ごくりと唾を飲み込む。悪い知らせではないといいが、と心の中で祈った。


「実は、俺、再婚することになった」


  勇輝は耳を疑った。離婚して以来、仕事一筋だった父が、まさか。驚きを隠せない勇輝に、父は続けた。


「相手は、同じ会社で働いている女性だ。お前も知っているかもしれないが、旧姓は藤井美咲さんだ。彼女には娘がいる。お前と同じ年で、この春から若葉高校に通うことになっている」


  藤井美咲という名前に、勇輝は聞き覚えがなかった。しかし、その後に続く言葉で、勇輝の心臓は凍り付いた。結衣と同じ高校に通う、同い年の義理の妹。それは、想像もしていなかった事態だった。勇輝は、言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


### **第二話:義妹の再会(改稿版)**


  卒業式の翌日から数日後の週末。勇輝の家は、トラックのエンジン音と、人の話し声で賑わっていた。引っ越し業者と思しき男たちが、次々と家具や荷物を運び込んでいく。その荷物の主は、勇輝の新しい家族、美咲さんと結愛だった。


  勇輝は、リビングの窓から外を眺めていた。トラックの荷台から降りてきたのは、美咲さん。そして、その隣には、中学のバレーボールの試合で一度だけ言葉を交わした少女、藤井結愛が立っていた。あの時は、落とし物を探して困っている彼女を助けただけだった。しかし、勇輝の記憶には、彼女の顔が、不思議なほど鮮明に残っていた。結衣とそっくりだったからだ。ショートボブの結衣とは対照的に、結愛は手入れの行き届いたストレートロングの黒髪を揺らしている。


  「勇輝君!」


  結愛は、勇輝に気づくと、荷物のことなど気にせず、弾けるような笑顔で駆け寄ってきた。そして、勇輝の胸に力強く抱きついてきた。勇輝は、あまりのことに身動きが取れない。結愛は、勇輝の首に腕を回し、顔を埋める。


  「ねえ、勇輝君。私、ずっと勇輝君のことが好きだったんだ。だから、お母さんと勇輝君のお父さんが再婚するって聞いて、すごく嬉しかったの。もう、離れ離れにならないで済むって」


  結愛の言葉は、まるで堰を切ったように溢れ出した。勇輝はただ呆然と立ち尽くす。

  結愛は勇輝から離れると、目を潤ませて勇輝を見つめる。勇輝は混乱していた。中学時代から結愛に好意を寄せられていたことは知っていた。しかし、まさかそれがこんな形で再燃するとは。


  「勇輝君、これ、私と結衣のお父さんとお母さんのアルバムだよ!」


  片付けの途中、結愛はそう言って、一冊のアルバムを勇輝に差し出した。ページをめくると、そこには幼い結衣と、そして結衣とそっくりな髪の長い女の子が写っている。結愛だった。勇輝は、結愛と結衣が双子の姉妹であることを、そのアルバムで初めて知った。


「私、お父さんに優等生のお姉ちゃんといつも比べられるのが嫌だったんだ。だから、離婚した時、お母さんについていくって決めたの」


  結愛は、少し寂しそうな声でそう言った。勇輝は、結愛の言葉に胸が締め付けられる。しかし、結愛は続けた。


「でも、お姉ちゃんのことは大好きだったんだよ。お父さんが何か言うと、いつもお姉ちゃんが私をかばってくれたから」


  結愛は、懐かしむようにアルバムのページをめくる。勇輝は、結愛の言葉から、姉妹の深い絆と、その裏にある複雑な事情を理解した。そして、結愛の抱える寂しさが、結衣のそれと似ているように感じられた。


  その夜から、結愛の勇輝へのアピールは始まった。夕食後、リビングでテレビを見ていると、結愛は勇輝の隣に座り、勇輝の腕に頭を乗せてきた。勇輝は、不意の接触に戸惑いながらも、その温もりを拒むことができなかった。母親が家を出て以来、勇輝は心のどこかにぽっかりと空いた穴を抱えていた。結愛の存在は、その穴を少しだけ埋めてくれるようだった。それに、せっかく始まった新しい家族に、波風を立てたくなかった。


  勇輝は、結愛の告白と、結衣との関係の間で揺れ動く。新しい家族に波風を立てたくないという気持ちから、結愛の告白を拒否することなく、ただ受け入れる。しかし、心のどこかでは、結衣への罪悪感に苛まれ、葛藤を深めるのだった。


### **第三話:父の願いと新たな関係**


  引っ越しから数日経ち、段ボールの山も少しずつ減り始めた頃、勇輝はリビングのソファでテレビを見ていた。その隣には、ゲーム機を手に楽しそうに遊ぶ結愛。そして、その向かいには、新聞を広げた父、健一の姿があった。どこかぎこちないながらも、少しずつ家族としての形ができていくことに、勇輝は小さな安堵を覚えていた。


「勇輝。お前と結愛が、中学の頃に知り合っていたと聞いて驚いたよ。美咲から、お前の話をよく聞いていたんだ」


  健一の言葉に、美咲はにこやかに頷いた。彼女は35歳には見えないほど若々しく、その凛とした佇まいは、優等生の仮面をかぶった結衣を彷彿とさせる。勇輝は、美咲の顔を見て、結衣との関係をどう話すべきか、言葉を探した。しかし、父親はそんな勇輝の様子には気づかずに続けた。


「結愛と勇輝が仲良くしてくれるなら、俺たちも安心だ。お前たち二人が、将来的に結婚したいなら、俺も美咲さんも応援する。ただし、高校の間に妊娠するようなことだけは困るがな」


  健一の言葉は、勇輝の心臓を鷲掴みにした。再婚したばかりの父親が、自分の将来について、ここまで具体的に、そして真剣に考えているとは思わなかった。しかも、勇輝が結衣と交際していることを知らない。勇輝は、結衣との関係を父親に話すべきか迷った。しかし、せっかく始まった新しい家族の平穏を壊したくないという気持ちが、勇輝の口を固く閉ざさせた。


「……うん」


  勇輝は、ただ頷くことしかできなかった。結愛は、勇輝の隣で嬉しそうに微笑んでいる。その笑顔は、中学時代にバレーボールの試合で勇輝を初恋の相手として認識し、一途に想い続けた少女の純粋な喜びを映し出していた。


  その日から、結愛は勇輝との関係を「将来の結婚」に向けて、より積極的に進めようとした。彼女は、学校の話や趣味の話を勇輝にたくさん話しかけ、勇輝の興味を惹こうと努めた。二人の関係は、次第に「義理の兄妹」という枠を超え、互いの心の支えになっていく。


  勇輝は、結愛の無邪気な笑顔を見ていると、彼女の抱える寂しさを感じ、無碍にできないでいた。母親が家を出て以来、心のどこかにぽっかりと空いた穴を、結愛の存在が少しずつ埋めてくれるようだった。彼女が勇輝に抱きついてくる温もり、甘えるような声、そして、どこか悲しげな瞳。それら全てが、勇輝の心を惹きつけてやまなかった。


  勇輝は、結愛の告白と、結衣との関係の間で揺れ動く。新しい家族に波風を立てたくないという気持ちから、結愛の告白を拒否することなく、ただ受け入れる。しかし、心のどこかでは、結衣への罪悪感に苛まれ、葛藤を深めるのだった。


### **第四話:初めての三人暮らし**


  三人での新しい生活が始まった。食卓には、美咲さんの手料理が並んでいる。結衣と結愛の母親である美咲さんの料理は、勇輝の母親の味とは違ったが、温かく、家庭的な味がした。勇輝は、久しぶりに食卓を囲む家族の温かさに、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。


「勇輝君、これ、美味しいね!」


  結愛は、勇輝の隣でそう言って、満面の笑顔を浮かべた。その笑顔は、勇輝の心に安堵をもたらした。結愛の屈託のない笑顔を見ていると、勇輝の心にあった罪悪感が、少しだけ薄れていくような気がした。


  しかし、勇輝は、美咲さんの若々しい容姿と、凛とした態度に、どこか落ち着かないものを感じていた。美咲さんは35歳には見えず、結愛と並ぶと姉妹のようにも見える。その凛とした雰囲気は、優等生の仮面をかぶった結衣と似ていた。美咲さんが見せる完璧な笑顔と、その瞳の奥に宿る複雑な感情は、勇輝を惹きつけ、同時に戸惑わせた。勇輝は、美咲さんの存在が、新しい家族の温かさを感じさせると同時に、結衣との関係に新たな波紋を投げかけるのではないかと予感した。


  食事が終わり、勇輝が自室に戻ると、すぐに結愛がやってきた。


「ねえ、勇輝君。一緒にアニメ見ようよ!」


  結愛は、勇輝のベッドに腰掛け、勇輝のタブレットを指差した。勇輝は、少し戸惑いながらも、結愛の誘いに頷いた。二人は、勇輝のタブレットでアニメを見始めた。結愛は、アニメを見ながら、勇輝の腕に頭を乗せたり、勇輝の肩に寄りかかったりした。


「勇輝君の部屋、落ち着くね」


  結愛は、そう言って、幸せそうなため息をついた。勇輝は、結愛の言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。母親が家を出て以来、勇輝は心のどこかにぽっかりと空いた穴を抱えていた。その穴を、結愛の存在が少しずつ埋めてくれるようだった。勇輝は、結愛の甘えを、妹に対する愛情として受け止めていた。


  しかし、結愛の仕草や言動は、結衣が勇輝と二人きりでいるときに見せる、優等生の仮面を外した一人の女の子としての結衣とそっくりだった。勇輝は、結愛を拒否しようとすると、まるで結衣の素顔を拒否してしまうような複雑な葛藤に陥る。


### **第五話:義妹の誘惑と揺れる心**


  勇輝が自室で勉強をしていると、ドアがノックされた。


「勇輝君、ちょっといい?」


  入ってきたのは、バスローブ姿の結愛だった。勇輝は、そのあまりにも大胆な誘いに、心臓が跳ね上がる。結愛の身体は、成長期の女性特有の瑞々しさと、まだ幼さの残る柔らかさを感じさせた。


「お風呂、一緒に入ろうよ」


  結愛は、上目遣いで勇輝を見つめる。その仕草や言動は、結衣が勇輝と二人きりでいるときに見せる、優等生の仮面を外した一人の女の子としての結衣とそっくりだった。勇輝は、結愛を拒否しようとすると、まるで結衣の素顔を拒否してしまうような複雑な葛藤に陥る。


「……だめ?」


  結愛は、勇輝の答えを待つ。勇輝は、結局、結愛の誘いを断ることができず、彼女の腕にそっと触れ、そのまま浴室へと向かった。


  浴槽の中で、勇輝は結愛に背を向けていた。結愛は、勇輝の背中に寄りかかり、勇輝の肩に頭を乗せる。その吐息が、勇輝の首筋にかかる。


「勇輝君の背中、広くて温かいね」


  結愛の声は、まるで子猫のように甘く、勇輝の耳元で囁かれた。勇輝は、平静を装おうとしながらも、結愛の存在に、心の奥底がざわつくのを感じていた。


  結愛は、勇輝の背中を優しく洗い始めた。その手つきは、まるで結衣がそうするように、丁寧で優しかった。勇輝は、その愛撫に、全身の力が抜けていくような感覚を覚えた。


「ねえ、勇輝君。私の髪も洗って」


  結愛は、そう言って、勇輝に振り返った。勇輝は、結愛の髪を洗い始めた。その手つきは、優しく、そして丁寧だった。結愛は、勇輝の手に髪を委ねながら、気持ちよさそうに目を閉じた。


「もっと、優しくして……」


  結愛は、勇輝にそう注文した。勇輝は、結愛の注文通りに、優しく髪を洗う。その後、結愛は勇輝に自分の体を洗うように求めた。結愛の注文は多かったが、勇輝はどこを触ってもいいようだった。勇輝の手が結愛の乳房に触れた時も、結愛は洗い方を注文するだけで、それ以上のことはしてこなかった。彼女はあくまで、勇輝との「親密なスキンシップ」を求めているようだった。


  しかし、勇輝の男性器が結愛の背中に触れた時、結愛の身体がピクリと反応した。


「……勇輝君。避妊もしないで、妊娠に繋がるようなこと、しないでね」


  結愛は、勇輝に背を向けたまま、静かに、しかし明確に言った。勇輝は、その言葉に、ハッとした。結愛は、勇輝との関係を「結婚まで」共有できると考えているが、妊娠のリスクを冒すつもりはなかった。勇輝は、そこに明確な線が引かれていることを理解し、安堵する。結衣に対する罪悪感から、それ以上の行為に踏み込むつもりはなかった。


  その夜、結愛が勇輝の部屋にやってきた。


「勇輝君、眠れないの。一緒に寝てもいい?」


  結愛はそう言って、勇輝の隣の空いているスペースに潜り込んできた。勇輝は、結愛の温かい体温を感じながら、結衣のことを思った。結衣と交わした未来への約束。そして、今、自分の隣にいる、結衣とそっくりな結愛。勇輝は、自分の心が揺れ動いていることを自覚し、罪悪感に苛まれた。


### **第六話:再会、そして予感**


  勇輝からの連絡が途絶え、心の命綱が切れかけていた結衣は、いてもたってもいられなくなった。電話もメッセージも返ってこない。不安と寂しさが募り、彼が元気か、何かあったのではないかと心配になり、直接勇輝の家に行くことにした。


  勇輝の家に近づくにつれて、結衣の心臓は高鳴った。久しぶりに会える勇輝に期待する一方で、何か嫌な予感がしていた。勇輝の家の玄関のチャイムを鳴らすと、ドアが開き、勇輝が立っていた。勇輝は、結衣の顔を見ると、驚いたように目を見開いた。


「結衣、どうしてここに……」


  勇輝の声は、震えていた。その背後には、美咲さんと、そして別々に暮らしていたはずの妹の結愛が立っていた。結衣は、一瞬にして笑顔を消し、その瞳に困惑と警戒の色を浮かべた。その視線は、美咲さんと結愛、そして自分を交互に行き来する。


「……お母さん、結愛……どうしてここに?」


  結衣の声は、震えていた。3年ぶりの再会だった。しかし、結衣は、この再会を素直に喜べなかった。勇輝の家で、しかも、彼の隣で再会することになるとは、想像もしていなかったからだ。


「結衣ちゃん、本当に久しぶりね。元気そうでよかったわ」


  美咲さんは、優しく微笑み、結衣に抱きついてきた。美咲さんの腕の温もりに、結衣は、思わず泣きそうになる。離婚の際、親権の関係で元夫に妥協しなければならなかった美咲さん。結衣の幸せを一番に願う美咲さんにとって、結衣に会えない日々は、常に心の負い目となっていた。だからこそ、美咲さんは結衣に対し、無償の愛情で接しようとしていた。


「お姉ちゃん、久しぶりだね! 私、お姉ちゃんと会いたかったよ!」


  結愛は、無邪気な笑顔で結衣に抱きつく。結衣は、戸惑いながらも、妹の温もりに、少しだけ心が和んだ。


「ね、お姉ちゃん。勇輝君、私のお兄ちゃんになったんだよ! 毎日、勇輝君とアニメ見たり、ゲームしたりしてるんだ!」


  結愛は、無邪気な笑顔で、勇輝と仲良くなったことを結衣に誇らしげに語る。結衣は、その光景を目の当たりにし、勇輝からの連絡が途絶えていた理由を悟った。彼女の心は、ざわつき、胸の奥が締め付けられるのを感じた。


  結衣は、家族の温かさに触れつつも、勇輝との関係が壊れるかもしれないという不穏な予感を抱きながら、その場を後にした。勇輝は、結衣を家まで送り届けることにした。


  二人が並んで歩く帰り道は、重い沈黙に包まれていた。結衣は、勇輝に何を言えばいいのか分からなかった。勇輝もまた、結衣にどう謝ればいいのか、言葉が見つからなかった。


  結衣の家の前まで来ると、結衣は立ち止まった。勇輝は、結衣の顔をのぞき込む。優等生の仮面が剥がれ落ちた結衣の瞳は、悲しみに満ちていた。


「……勇輝、もう勇輝に、私は必要ないのかな」


  結衣の声は、震えていた。勇輝は、結衣の言葉に胸が締め付けられる。結衣は、勇輝の胸に顔を埋め、子どものように泣き始めた。勇輝は、結衣の震える肩を抱きしめる。


「そんなことない! 俺にとって結衣は、誰よりも大切な存在だ。お前がどんな自分でも、俺は受け入れる。だから、俺のこと、信じてほしい」


  勇輝は、結衣を強く抱きしめ、結衣との関係を大切に思っていることを伝えた。結衣は、勇輝の言葉に安堵し、さらに強く勇輝に抱きついた。二人は、しばらくの間、互いの温もりを確かめ合うように、抱きしめ合っていた。


### **第七話:母の愛情と葛藤**


  勇輝が結衣を送り届けた後、美咲は結愛と二人きりでリビングに残された。静寂が支配する空間で、美咲はソファに座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。結愛は、そんな美咲の隣にそっと座り、膝を抱え込む。


  「お母さん……私、勇輝くんのこと、諦めたくない」


  結愛の声は、震えていた。彼女は、勇輝と結衣の親密な様子を目の当たりにし、勇輝を失うかもしれないという不安と、姉への嫉妬心を美咲に吐露する。美咲は、結愛の頭を優しく撫で、その言葉を静かに受け止めた。


  「結衣ちゃんの気持ちも、わかるんだ」


  結愛は、美咲の言葉に驚き、顔を上げる。


  「……どうして?」


  「結衣ちゃんは、小さい頃からずっと、お父さんから『優等生』であることを求められてきた。それがどれだけ辛かったか、私にはわかる。勇輝くんは、そんな結衣ちゃんの心の命綱だったのよ。だから、あの子が勇輝くんを手放したくないって思うのは、当然のことなの」


  美咲は、結愛の気持ちを理解しつつも、結衣への愛情も捨てきれない。彼女は、離婚の際に結衣と離れ離れになった負い目を抱えており、結衣のことも娘として深く愛していることを再確認する。しかし、結愛は、美咲の言葉に納得できないようだった。


  「でも……お母さん、勇輝くんのこと、気になってるんじゃないの?」


  結愛は、美咲が勇輝に抱きついたことを指摘し、美咲の心理を揺さぶる。美咲は動揺し、目を泳がせた。


  「な、何を言ってるの、結愛」


  「だって、お母さん、勇輝くんのこと、ずっと見てたじゃない。それに、私と勇輝くんが仲良くしてるの見て、ちょっと嬉しそうだった」


  美咲は、結愛の言葉に何も言い返せなかった。結愛の言う通りだった。美咲は、勇輝のことを、再婚した夫の若い頃の姿と重ね合わせている自分に気づき、戸惑っていた。娘たちの幸せを願う母親としての気持ちと、勇輝への個人的な興味の間で葛藤する。


  「……結愛、ごめんなさい。お母さんは、ただ、あなたたちのことが心配なの。勇輝くんと、あなたたちの関係が、これ以上、複雑にならないように、私がなんとかしなきゃって思ってるだけなの」


  美咲は、結愛を安心させようと、必死に言葉を紡ぐ。結愛は、美咲の言葉に、少しだけ納得したようだった。しかし、美咲の心は晴れなかった。彼女は、自分の学生時代の失敗を思い出し、勇輝と娘たちが安易に妊娠するリスクを回避することが、母親としての最大の責任だと確信する。


  美咲は、娘たちの幸せを守るために、自分ができる最善の策を模索し始める。それは、勇輝に「大人の指導」を施すことで、娘たちが安易に妊娠するリスクを回避することだった。美咲の瞳に、強い決意の光が宿った。


### **第八話:親友の助言**


  結衣を家まで送り届けた後、勇輝は、自室に戻ると、ベッドに腰掛けたまま、呆然と壁を見つめていた。結衣の絶望に満ちた瞳。勇輝は、自分が結衣を裏切ってしまったという罪悪感に苛まれていた。


「結衣に、なんて説明すればいいんだ……」


  勇輝は、頭を抱え、深くため息をついた。結愛との関係は、あくまで「義理の兄妹」としての親密なスキンシップであり、決して一線を越えたものではない。しかし、結衣の目には、勇輝が結愛に心を奪われたように見えただろう。そして、勇輝が何も言い返せなかったことも、結衣の絶望を深めた原因だった。


  結衣と結愛の板挟みになった勇輝は、どうしていいか分からなくなっていた。この複雑な状況を誰かに相談したいと思い、幼馴染の遠野杏奈に連絡を取ることにした。


  勇輝は、スマートフォンを手に取り、杏奈にメッセージを送った。


「今から会えないか?」


  杏奈からはすぐに返信が来た。


「駅前のカフェで待ってる」


  勇輝は、急いで家を出た。夕暮れの街を歩きながら、勇輝は、杏奈に何を話せばいいのか、頭の中で整理を始めた。


  駅前のカフェに着くと、杏奈は窓際の席に座っていた。杏奈は、勇輝に気づくと、手を振って満面の笑顔を浮かべた。その笑顔に、勇輝は少しだけ心が軽くなった。


「急に呼び出してごめん」


  勇輝は、そう言って、杏奈の向かいに座った。


「いいってことよ。どうしたの? なんか、元気ないじゃん」


  杏奈は、勇輝の顔を心配そうにのぞき込んだ。勇輝は、迷った末に、これまでの経緯を正直に話した。父親の再婚、結愛との同居、そして、結衣が家に来た時の修羅場。勇輝が話し終えると、杏奈は、静かに頷いた。


「そっか……勇輝、大変だったね」


  杏奈の優しい言葉に、勇輝の瞳が潤む。勇輝は、杏奈が結衣と幼馴染の関係にあることを知っていた。杏奈は、結衣の苦悩も、勇輝の葛藤も、すべて理解してくれた。


「勇輝はさ、どうしたいの?」


  杏奈の言葉は、勇輝の心に突き刺さった。勇輝は、どうしたいのか、分からなくなっていた。結衣を愛している。それは間違いない。しかし、結愛との関係を、家族としての平穏を、壊したくないという気持ちもまた、勇輝の中にあった。


「俺は……結衣と、ちゃんと話したい。謝りたい。でも、結愛のことも……」


  勇輝は、言葉に詰まった。杏奈は、勇輝の複雑な心境を察し、静かに言った。


「勇輝がどうしたいのか、ちゃんと自分で決めることだよ。結衣も結愛も、勇輝が誰を選んでも、勇輝を責めたりしないと思う」


  杏奈の言葉に、勇輝はハッとした。杏奈は、勇輝に決断を迫るのではなく、勇輝自身が自分の気持ちと向き合うことの重要性を説いていた。


「……ありがとう、杏奈」


  勇輝は、心から感謝の気持ちを込めて、杏奈に礼を言った。杏奈は、少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの明るい笑顔に戻った。


「いいってことよ。私、いつでも勇輝の味方だから。困ったことがあったら、いつでも頼ってね」


  杏奈の言葉は、勇輝の心の支えとなった。勇輝は、杏奈の言葉を胸に、結衣と向き合う決意を固めた。


### **第九話:勇輝と結衣**


  杏奈の助言を受け、勇輝は結衣の家に会いに行く決意を固めた。勇輝は、結衣との関係を、そして自分の心の葛藤をごまかすことなく、正直に話す必要があると感じていた。


  結衣の家の前まで来ると、勇輝は深く息を吸い込んだ。玄関のチャイムを鳴らすと、結衣がドアを開けた。結衣は、勇輝の顔を見ると、驚いたように目を見開いた。


「勇輝……どうしてここに?」


  結衣の声は、震えていた。勇輝は、結衣の顔を見て、自分の心に迷いがないことを再確認した。


「結衣と、ちゃんと話したいと思って」


  勇輝は、そう言って、結衣の家に上がらせてもらった。結衣の自室で、二人は向き合って座った。部屋には、重い沈黙が流れていた。


  勇輝は、口を開いた。


「この前は、ごめん。ちゃんと連絡しなくて。美咲さんと結愛と、三人で暮らし始めて、生活がガラッと変わって……どうしたらいいのか、分からなくなってたんだ」


  勇輝は、正直に話した。結愛との関係も、家族としての平穏を壊したくないという気持ちも、すべて包み隠さず話した。結衣は、勇輝の言葉を、静かに聞いていた。


  勇輝が話し終えると、結衣は、勇輝の目をまっすぐに見つめた。


「……勇輝は、結愛ちゃんのことが、好きなの?」


  結衣の声は、震えていた。勇輝は、結衣の言葉に、一瞬言葉を失った。


「違う! 結愛は、俺にとって大切な妹だ。結衣とは違う」


  勇輝は、強く否定した。結衣は、勇輝の言葉に、安堵の表情を浮かべた。


「……勇輝がそう言ってくれて、よかった」


  結衣は、そう言って、勇輝に抱きついた。勇輝は、結衣の震える肩を抱きしめる。結衣は、勇輝の胸に顔を埋め、何度も「ありがとう」と繰り返した。


「勇輝……私ね、もう、勇輝との関係を、誰にも邪魔されたくないの。もし、もしも勇輝が、結愛ちゃんや、他の誰かと関係を持ったとしても、私は、勇輝の隣にいることを望む。それが、たとえどんな形であっても」


  結衣の声は、決意に満ちていた。勇輝は、結衣の言葉に、胸が締め付けられる。結衣は、優等生の仮面を脱ぎ捨て、勇輝に自身の弱い部分を見せていた。勇輝は、そんな結衣を、さらに強く抱きしめた。


  「結衣……」


  勇輝は、結衣の髪を優しく撫で、結衣との関係を大切に守っていくことを、心に誓った。


### **第十話:姉妹の密談**


  勇輝の家での一件から数日後。勇輝が結衣の家を訪れた夜、美咲の計らいで、結衣と結愛は久しぶりに二人きりで話す機会を得た。結衣の自室は、3年前と変わらない静けさに包まれている。


  「……お姉ちゃん、久しぶりだね」


  結愛の声は、少し緊張していた。結衣は、そんな結愛に優しく微笑みかけた。


  「うん。結愛も元気そうでよかった」


  互いのぎこちない挨拶から、二人の間の3年間の空白が感じられた。しかし、勇輝をめぐる緊張感から解放された二人は、少しずつ本音を語り始める。


  「ね、お姉ちゃん。お父さんとの生活、大変だった?」


  結愛の言葉に、結衣は一瞬、表情を曇らせた。


  「……うん。お父さんは、私に『優等生』であることを求め続けた。成績がすべてで、私の気持ちなんて、一度も聞いてくれなかった」


  結衣の声は、震えていた。彼女は、優等生の仮面の下にある苦しみと孤独を、結愛にだけ打ち明けた。


  「そんな私にとって、勇輝は心の命綱だったの。どんな私でも受け入れてくれる、唯一の場所だったから」


  結衣は、勇輝の存在の重要性を、結愛に訴えた。結愛は、姉の言葉を静かに聞いていた。


  「……うん。私も、勇輝くんのこと、ずっと好きだった。中学のバレーの試合で、お姉ちゃんに会う前に、勇輝くんとすれ違ったことがあって。その時から、ずっと気になってた。まさか、お姉ちゃんの彼氏になるなんて、思ってもみなかったけど……」


  結愛は、勇輝との初めての出会いを、結衣に語った。そして、優等生である姉と比較され、自己肯定感を失っていた過去を語った。


  「私ね、ずっとお姉ちゃんに憧れてた。でも、どんなに頑張っても、お姉ちゃんには勝てないって、ずっと思ってた」


  結愛の瞳は、潤んでいた。結衣は、結愛の苦しみに気づいてあげられなかった自分を責め、結愛の手を強く握った。


  「ごめんね、結愛……」


  「ううん、違うの。もう大丈夫。だって、私たち、勇輝くんを分かち合うことにしたんだから」


  結愛の言葉に、結衣は驚き、目を見開いた。


  「……どういうこと?」


  「勇輝くんは、まだ誰か一人を選ぶほど大人じゃない。だから、私たち二人で、勇輝くんの隣にいるの。それが、たとえどんな形であっても」


  結愛は、そう言って、結衣に微笑みかけた。それは、無邪気な笑顔のようで、どこか大人びた、覚悟を決めたような表情だった。結衣は、結愛の言葉に、最初は戸惑いを覚えたが、次第に、その提案が自分たちにとって、そして勇輝にとって、最善の選択肢であるような気がしてきた。


  互いの本音を知った二人は、姉妹としての絆を再確認し、勇輝を「分かち合う」という結論に至る。しかし、結愛は、最後の言葉として、結衣にわざとらしく口にした。


  「ね、お姉ちゃん。勇輝くん、『幼馴染で親友』の杏奈ちゃんって子と仲いいんだって」


  その言葉は、結衣に、自分以外にも気にしなければいけない相手がいることを警告し、牽制するためだった。結衣の心に、新たな不穏な予感が芽生えた。


### **第十一話:女子会**


  勇輝との関係が少しだけ修復された後、結衣は、結愛と二人で教科書を購入しに出かけることにした。勇輝の家での一件以来、姉妹の間には気まずさが残っていたが、美咲が「二人で仲良くお出かけしてきなさい」と促したのだ。


  「お姉ちゃん、この教科書、すごく分厚いね」


  書店で、結愛はそう言って、結衣に教科書を見せた。結衣は、結愛の無邪気な言葉に、少しだけ心が和んだ。二人は、教科書を選びながら、高校生活への期待を語り合った。


  「ね、お姉ちゃん。若葉高校、女子バレー部、強豪なんだって」


  結愛は、そう言って、結衣の顔をのぞき込んだ。結衣は、頷く。中学時代、結衣は女子バレー部に所属し、結愛は私立の女子校でバレー部に所属していた。高校で再び同じ部活に所属することになることに、結衣は少しだけ喜びを感じた。


  「結衣ちゃん!」


  その時、後ろから、明るい声が聞こえた。振り向くと、そこには、勇輝の幼馴染である杏奈が立っていた。結衣は、杏奈の顔を見ると、少しだけ驚いた。結愛が勇輝の口から聞いた「幼馴染で親友」の杏奈。その人物が、結衣の親友でもある杏奈だったのだ。


  「杏奈、どうしてここに?」


  結衣が尋ねると、杏奈はにこやかに笑った。


  「私も、教科書を買いに来たんだよ。二人で買い物? 仲良いね」


  杏奈は、そう言って、結衣と結愛の間に割って入るように、結衣の肩に腕を回した。結衣は、杏奈の行動に、少しだけ警戒心を抱いた。結愛は、杏奈が勇輝の幼馴染であることを知っていたため、結衣の隣に立つ杏奈に、静かに敵意の視線を送った。


  「ねえ、二人とも。よかったら、この後、お茶しない?」


  杏奈の提案に、結衣は少し戸惑った。しかし、結愛は、すぐに頷いた。


  「うん、いいよ! お姉ちゃんと杏奈ちゃんと、三人で話したいこと、いっぱいあるしね」


  結愛は、そう言って、杏奈に微笑みかけた。それは、無邪気な笑顔のようで、どこか大人びた、覚悟を決めたような表情だった。結衣は、結愛の言葉に、少しだけ胸騒ぎを覚えた。


  三人は、近くの喫茶店に入った。席に着くと、杏奈が口を開いた。


「ねえ、二人とも。勇輝のこと、どう思ってる?」


  杏奈の言葉に、結衣と結愛は、一瞬言葉を失った。杏奈は、結衣の顔をのぞき込み、そして、結愛の顔をのぞき込む。


「私ね、勇輝のこと、ずっと好きだったんだ。でも、結衣と勇輝が付き合い始めて、勇輝の隣には、私の居場所はなくなったって、ずっと思ってた」


  杏奈は、正直に話した。結衣は、杏奈の言葉に、胸が締め付けられるのを感じた。杏奈は、優等生の仮面をかぶって勇輝と距離を保っていた結衣と違い、勇輝にストレートに好意をぶつけることができる。そんな杏奈の存在に、結衣は改めて、危機感を覚えた。


  しかし、話が進むうちに、三人は「勇輝のことが好き」という共通の気持ちを確認し、共感と連帯感が生まれた。結衣は、杏奈と結愛が、自分と同じように勇輝を愛していることを知り、心のどこかで安心感を覚えた。結愛は、杏奈が勇輝の幼馴染であることに嫉妬しながらも、自分と同じように勇輝に一途な想いを抱いていることを知り、共感した。


  結衣、結愛、杏奈は、勇輝はまだ誰か一人を選ぶほど大人ではないだろうという結論に至る。そして、高校生活の間は、勇輝をめぐって互いを排除するような非生産的な争いはやめ、友人として過ごそうと約束した。


### **第十二話:美咲の恋愛講座(改稿版)**


  結衣と結愛が女子会に出かけ、家には勇輝と美咲の二人だけが残された。勇輝は、自室のベッドでスマートフォンをいじっていたが、美咲が部屋に入ってきた。


「勇輝君、ちょっといい?」


  美咲の声は、いつもの明るい声とは違い、どこか真剣な響きがあった。勇輝は、スマートフォンをテーブルに置き、美咲の顔を見つめた。美咲は、ドアを閉めると、ゆっくりと勇輝の隣に座った。


「結衣ちゃんと結愛ちゃんのことなんだけど……」


  美咲は、そう言って、自身の学生時代の苦い経験を語り始めた。学生結婚、そして出産。周囲の好奇の目に晒され、子育てに追われる日々。美咲は、娘たちには、そんな思いをさせたくないという、母親としての切実な願いを勇輝に伝えた。


「だからね、勇輝君。もし、二人のうちのどちらかと、そういう関係になることがあっても、絶対に避妊だけはしてあげて」


  美咲は、勇輝の目をまっすぐに見つめた。その真剣な眼差しに、勇輝は息をのんだ。美咲は、バッグから小包を取り出すと、勇輝に差し出した。中には、かなりの量のコンドームが入っていた。勇輝は戸惑い、顔を赤くした。


「小遣いが足りなくて、コンドームが買えなかったなんてことがあったら、後悔しても遅いから。これで足りなかったら、夫婦の部屋にある分も使っていいわ」


  美咲の言葉は、真剣そのものだった。彼女は、勇輝が避妊の知識をどこまで持っているかを確認し、正しいコンドームの使い方や、女性の身体を大切に扱うことについて、まるで教科書を教えるかのように丁寧に指導を始めた。


「勇輝君、言葉で説明しても、実際にやってみないとわからないことも多いわ。だから、私が教えてあげる」


  美咲は、そう言って、勇輝の手をそっと握り、自らの身体を撫でるように誘導した。勇輝の手が、美咲の柔らかな肌に触れる。それは、結衣や結愛とは違う、大人の女性の肌だった。美咲は、勇輝の戸惑いと、その奥に隠された興奮を察し、微笑んだ。


  「最初は、優しく、ゆっくりと……。女の子の身体は、すごく繊細だから、丁寧に扱ってあげて」


  美咲の声は、甘く、勇輝の耳元で囁かれた。勇輝は、美咲の言葉に従い、彼女の身体の曲線に沿って手を滑らせる。結衣や結愛とは違う、しかしどこか懐かしさも覚える柔らかな肌が、勇輝の熱を帯びていく。勇輝の鼓動は早まり、二人の息遣いが、次第に荒くなっていく。美咲は、勇輝の緊張を解くように優しく微笑んだ。


  美咲は、自らの手で勇輝にコンドームのつけ方を教えた。その手つきは、真剣そのもので、まるで母が子に人生の知恵を授けるかのようだった。しかし、その行為が持つ意味は、母と子のそれとは全く違う。勇輝は、美咲の真剣さと、彼女から漂う甘い香りに、心を奪われていた。


  そして、美咲は勇輝を身体の中に導いた。その瞬間、美咲はさらに若返ったように見えた。勇輝は、美咲の瞳の中に、結衣と交わした未来への約束を幻視する。しかし、勇輝はそれを振り払い、目の前の美咲を求めた。美咲は、我を忘れて勇輝を求め、二人の吐息が、部屋に響き渡る。勇輝がコンドームの中に熱いものを吐き出して、美咲に抱きついた。美咲は、勇輝の熱い吐息を首筋に感じながら、そっと勇輝の背中を撫でた。


  「ここからが大事よ」


  美咲は、そう言って、行為後の後処理の仕方を丁寧に指導した。膣内にコンドームを残置してしまったり、膣内にコンドームに貯まったものを流し込んでしまったりする事故も多いのだ。その言葉は、美咲の過去の経験からくる、切実な思いが込められていた。


  行為が終わった後、美咲は勇輝に「このことは、娘にも、お父さんにも内緒にしてね」と釘を刺す。


「もし、結衣や結愛を不幸にしてしまいそうなくらい、どうしようもない気持ちになったら、いつでも私のところに来てちょうだい。その欲求、私の身体でも良かったらいつでも提供して解消してあげるから、遠慮はいらないわ」


  美咲は、そう言って、勇輝に特別な「秘密の契約」を提示した。この出来事により、勇輝は美咲に頭が上がらない、特別な秘密を共有する関係となる。勇輝は、女性の身体に対する知識を得た一方、結衣と結愛との関係に新たな倫理的側面が加わり、より深い葛藤を抱えることになった。


### **第十三話:揺れ動く四角関係**


  美咲との密やかな時間が終わり、勇輝は自室のベッドに横たわりながら、複雑な感情に揺れていた。美咲の真剣な眼差し、そして母として、一人の女性としての彼女の言葉が、勇輝の心に深く刻み込まれていた。それは、これまでの結衣や結愛との関係とは全く違う、重く、そして甘い秘密だった。自分の身体にまだ残る美咲の温もりを感じながら、勇輝はこれからどうすべきか、答えの出ない問いを繰り返していた。


  「ただいまー!」


  玄関のドアが開く音とともに、結衣と結愛の明るい声が聞こえてきた。勇輝は慌てて起き上がり、リビングへと向かう。美咲はすでにリビングにいて、穏やかな笑顔で娘たちを迎えていた。勇輝は美咲と目を合わせないよう、そっと視線を逸らした。


  「あー、楽しかった!ね、結愛?」


  「うん!お母さん、ありがとう!また行きたいな!」


  結衣と結愛は、女子会での出来事を美咲に楽しそうに話していた。二人の屈託のない笑顔を見るたび、勇輝は胸が締め付けられるような罪悪感に襲われた。美咲は、そんな勇輝の心の葛藤を察しているのか、時折、勇輝にだけ向けられる、どこか意味深な微笑みを浮かべた。


  夕食の準備が始まり、四人はぎこちないながらも、食卓を囲んだ。結衣が今日の出来事を話す間、結愛は黙って勇輝と美咲の様子を観察していた。彼女の鋭い視線が、勇輝と美咲の間を何度も往復する。


  「勇輝君、どうかしたの?なんか、元気ない?」


  結愛が、突然、勇輝に問いかけた。その言葉に、美咲の箸を持つ手がわずかに止まる。勇輝は、動揺を隠すように、ぎこちなく笑った。


「え?ああ、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」


  「ふーん……」


  結愛は、それ以上何も言わなかったが、その瞳には、疑念の色が浮かんでいた。勇輝は、結愛の探るような視線から逃れるように、食事を急いだ。


  食事が終わり、リビングでテレビを見ていると、結衣が勇輝の隣に座ってきた。


「ねえ、勇輝君。私ね、勇輝君のこと、本当に好きなんだ。だから、勇輝君には、いつも笑顔でいてほしいな」


  結衣の言葉に、勇輝は思わず彼女の顔を見つめた。そのまっすぐな瞳に、勇輝は何も言い返すことができなかった。その時、勇輝のスマートフォンに、結愛からメッセージが届く。


「勇輝君、お風呂に入ったら、ちょっと私の部屋に来てくれない?話したいことがあるの」


  勇輝は、メッセージの内容に息をのんだ。結愛は、一体何に気づいたのだろうか。美咲との秘密が、結愛に知られてしまったのだろうか。勇輝は、美咲と結衣、そして結愛の三人の間で、身動きが取れなくなっていた。


  お風呂から上がった勇輝は、重い足取りで結愛の部屋に向かった。ドアをノックすると、結愛が部屋の中から「どうぞ」と答えた。勇輝は、意を決してドアを開ける。結愛は、ベッドの上に座って、勇輝を待っていた。部屋の空気は、張り詰めていた。


「勇輝君。お母さんと、何かあった?」


  結愛は、核心を突くような問いを、真っ直ぐな視線で勇輝に投げかけた。勇輝は、何も答えることができなかった。


  勇輝の沈黙は、結愛の疑念を確信に変えていた。結愛は、勇輝の隣にそっと座り、彼の冷たくなった手を握った。


「勇輝君。お母さん、変だったよ。いつもはもっと笑顔なのに、今日はすごく緊張してるみたいだった。それに、勇輝君も、お母さんのこと、全然見ようとしなかったでしょ?」


  結愛の言葉は、勇輝の心を正確に突いていた。勇輝は、もうこれ以上、嘘を重ねることはできないと感じた。しかし、美咲との行為の全てを話すことは、美咲との秘密の契約を破ることになる。そして何より、結衣と結愛の姉妹関係を、完全に破壊してしまうかもしれない。勇輝は、どこまで話すべきか、頭の中で必死に考えた。そして、一部の真実を語ることで、この場を乗り切ることを決意した。


  勇輝は、結愛の目をまっすぐに見つめると、ゆっくりと口を開いた。


「結愛……ごめん。実は、お母さんに、恋愛についての話を聞いてもらってたんだ」


  結愛は、意外な言葉に、目を丸くした。


「恋愛?……勇輝君の、恋愛の話?」


「ああ……。結衣との関係とか、結愛のこととか、どうしたらいいか分からなくなって、相談してたんだ」


  勇輝は、言葉を選びながら、美咲の優しさと、母親としての切実な思いを伝えるように話した。結愛は、勇輝の言葉に耳を傾けていたが、その表情は、次第に険しくなっていった。


「それで、お母さん、勇輝君に何を言ったの?」


  結愛の問いかけに、勇輝は一瞬、言葉を詰まらせた。この部分を話すことが、最も重要で、最も危険な部分だった。しかし、勇輝は、正直に話すことで、結愛との関係を維持したいと願っていた。


「……避妊の指導をされたんだ」


  勇輝は、絞り出すようにそう言った。結愛は、その言葉を聞いて、目を見開いた。


「え……?」


  結愛は、勇輝の言葉の意味を理解しようと、呆然と勇輝の顔を見つめていた。勇輝は、美咲が避妊の大切さを説き、コンドームを渡したことを、正直に話した。美咲の真剣な表情、そして娘たちを心から想う気持ちを、結愛に伝えた。


  勇輝が話を終えると、結愛はしばらく無言だった。彼女の瞳は、勇輝の言葉を反芻するように、遠くを見つめていた。そして、突然、結愛は勇輝の腕に抱きつき、小さな声で呟いた。


「……ねえ、勇輝君。私、お母さんより、先に勇輝君と出会ったんだよ?」


  結愛の言葉には、複数の意味が込められていた。それは、美咲が「母親」という立場で勇輝と娘たちの関係をコントロールしようとしていることへの反発であり、「私と勇輝君は、あなたと出会う前から繋がっていた」という事実を突きつけることで、美咲の介入を拒絶しようとする意思表示だった。また、「私の方があなたに会う前から勇輝君のことを好きだった」という、初恋の優位性の主張でもあった。そして何より、美咲との関係に罪悪感を感じている勇輝に対し、「私との関係には、美咲さんとの関係よりも長い歴史がある。私の方があなたにとって、より大切な存在であるはず」という、結愛なりの勇輝への愛情表現だった。


### **第十四話:それぞれの決意**


  美咲との密会から数日後。高校の入学式を目前に控え、勇輝は、三人の女性との間で揺れ動く自分に、一つの答えを見出そうとしていた。美咲との秘密の関係、結衣への深い愛情、そして結愛との家族としての絆。どれも勇輝にとって、かけがえのないものだった。


  「……どうしたらいいんだ」


  勇輝は、自室のベッドに横たわりながら、頭を抱えた。結衣との関係を壊したくない。しかし、美咲との関係も、結愛との関係も、勇輝にとっては、もう手放すことのできないものになっていた。


  一方、結衣もまた、自分の部屋で、勇輝との関係について深く考えていた。結愛と勇輝の親密な様子。そして、杏奈の存在。結衣は、勇輝をめぐる複数のライバルの存在に、恐怖を感じていた。しかし、同時に、勇輝への愛情は、決して揺らぐことはなかった。


  「勇輝は、私だけのものじゃない……」


  結衣は、静かに呟いた。勇輝は、結愛や杏奈からも愛されている。その事実は、結衣を苦しめたが、同時に、勇輝への愛情をさらに強くした。結衣は、勇輝との関係を壊したくない一心から、たとえ勇輝が結愛や杏奈と関係を持ったとしても、自分も勇輝の隣にいることを望むという、強い決意を固めていた。


  結愛もまた、勇輝の家で、一人で考え事をしていた。結衣と杏奈という二人の強力なライバルの存在。そして、美咲が勇輝に抱く感情。結愛は、勇輝をめぐる複雑な四角関係の中で、自分の立場をどうすればいいか、答えを見つけられずにいた。


  「勇輝君は、誰か一人を選ぶなんて、できないよ」


  結愛は、勇輝が優柔不断な性格であることを知っていた。だからこそ、結愛は、勇輝が誰か一人を選ぶことはないだろうという結論に至る。そして、結愛は、勇輝が自分を愛していると信じ、姉妹と分かち合うことに満足感を覚えていた。


  杏奈は、自分の部屋で、勇輝からのメッセージを読んでいた。勇輝の苦悩が、メッセージから伝わってくる。杏奈は、勇輝が優柔不断であることに苛立ちを感じつつも、彼を支えたいという気持ちは変わらなかった。


  「勇輝……私が、あなたを助けてあげる」


  杏奈は、勇輝との関係を深めるチャンスをうかがっていた。杏奈は、勇輝をめぐる四角関係の中で、自分にしかできない役割があることを確信していた。


  入学式を目前に控え、四人はそれぞれの想いを胸に、決意を固めた。勇輝は、三人の女性との関係をどうすればいいのか、答えを見つけられないまま、ただ時間だけが過ぎていくのを感じていた。しかし、彼らの高校生活は、もうすぐ始まる。新たな舞台で、彼らの関係性は、さらに複雑に、そして激しく揺れ動いていくことになるだろう。


### **第十五話:入学式前夜の密会**


  入学式を翌日に控えたその夜、勇輝は結衣からのメッセージに、胸が高鳴るのを感じた。


「ねえ、勇輝君。明日から高校生になるんだね。なんだか、信じられない。よかったら、今夜、少しだけ会えないかな?」


  勇輝は、結衣の言葉に、これまでの複雑な感情がすべて溶けていくような気がした。美咲との密会、結愛との関係、そして杏奈からのメッセージ。すべてが、結衣のこの一言で、勇輝の心の中から一時的に消え去った。勇輝は、すぐに結衣の家に向かった。


  深夜、勇輝は結衣の部屋の窓からこっそりと忍び込んだ。部屋の明かりは消え、結衣はベッドの上で、勇輝を待っていた。窓から差し込む街灯の淡い光が、結衣の白い肌をぼんやりと照らしていた。


「勇輝君……来てくれたんだ」


  結衣の声は、震えていた。勇輝は、結衣の隣に座ると、彼女の手をそっと握った。結衣の手は、ひんやりと冷たかった。


「ごめん、急に……」


「いいんだ。俺も、結衣に会いたかった」


  勇輝の言葉に、結衣は勇輝の胸に顔をうずめた。勇輝は、結衣の柔らかな髪の感触と、彼女から漂う甘い香りに、心を奪われた。


「勇輝君……本当に、私でいいの?」


  結衣は、勇輝の胸の中で、絞り出すようにそう言った。勇輝は、結衣の言葉の意味を理解できなかった。


「どうしたんだ、結衣?」


「だって……私だけじゃないんでしょ?勇輝君のこと、好きな人、他にもいるんでしょ?」


  結衣の言葉に、勇輝は息をのんだ。結衣は、結愛や杏奈の存在に気づいていたのだ。勇輝は、結衣に嘘をつくことはできなかった。


「……うん。ごめん」


  勇輝が正直にそう言うと、結衣は勇輝の胸から顔を離した。結衣の瞳は、涙で潤んでいた。しかし、結衣は、泣き出すことはなかった。


「……私、知ってる。結愛ちゃんのことも、杏奈ちゃんのことも。勇輝君が、他の人と仲良くしてるの、私、すごく辛かった。でも……」


  結衣は、勇輝の顔を見つめ、微笑んだ。その微笑みは、これまでの彼女の笑顔とは違い、どこか寂しげで、しかし、強い決意を秘めていた。


「でも、勇輝君が私から離れていかないなら、それでいい。私は、勇輝君の隣にいたい。たとえ、勇輝君が他の人と関係を持っても、私は勇輝君の隣にいることを選ぶよ」


  結衣の言葉は、勇輝の心を強く揺さぶった。結衣は、勇輝への愛情のためなら、すべてを受け入れるという、強い決意を固めていたのだ。勇輝は、結衣のその愛情に、胸が締め付けられるような思いがした。


「結衣……」


  勇輝は、結衣を強く抱きしめた。結衣の身体は、勇輝の腕の中で震えていた。勇輝は、美咲との密会で得た知識を思い出した。女性の身体は、すごく繊細で、丁寧に扱ってあげなければならない。勇輝は、結衣の身体を壊さないように、優しく、そして丁寧に抱きしめた。


  勇輝と結衣は、互いの身体を求め、熱いキスを交わした。勇輝は、結衣の柔らかな唇を優しく撫で、その熱い吐息を吸い込んだ。結衣は、勇輝のキスに、全身の力を失うように、勇輝の腕の中で身を任せた。勇輝は、結衣の身体を撫で、彼女の柔らかな肌の感触を楽しんだ。


  その夜、勇輝と結衣は、互いの身体を求め、愛を確かめ合った。勇輝は、結衣の熱い身体を抱きしめ、彼女の甘い声を耳元で聞くたびに、結衣への愛情がさらに深まっていくのを感じた。結衣は、勇輝の愛情に、これまでの不安がすべて消え去り、幸福感に満たされていた。


  勇輝は、結衣の身体を大切に扱い、彼女の快感を最大限に高めることに集中した。結衣は、勇輝の優しい愛撫に、全身が震え、彼の名を呼び続けた。勇輝と結衣の愛は、言葉だけではなく、身体を通じて、より深く、そして強く結びついていった。


  夜が明け、窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてきた。勇輝と結衣は、ベッドの上で、互いの身体を抱きしめ合っていた。勇輝は、結衣の髪を優しく撫で、彼女の額にキスをした。


「結衣……俺は、お前を裏切らない。ずっと、お前と一緒にいるから」


  勇輝の言葉に、結衣は、勇輝の胸に顔をうずめた。結衣は、勇輝の言葉を信じ、そして、勇輝が自分を愛してくれていることを、心から感じていた。


  入学式を前に、勇輝と結衣は、互いの気持ちを確かめ合い、二人の関係は、これまで以上に強固なものとなった。しかし、この密会は、勇輝と結衣の関係に新たな転機をもたらす一方で、結愛や美咲、そして杏奈との関係に、新たな波紋を投げかけることになるだろう。


### **第十六話:新たな始まり**


  入学式当日。勇輝は、朝から落ち着かない気分でいた。美咲との「秘密」の関係。結衣への想い。結愛との家族としての絆。そして、杏奈の存在。四人の関係性は、もはや勇輝一人ではどうすることもできない、複雑な迷路と化していた。


  「勇輝君、朝ごはん、食べなきゃだめだよ」


  結愛が、勇輝の隣に座り、勇輝の皿に卵焼きを乗せた。勇輝は、結愛の優しさに、胸が締め付けられるような罪悪感を感じた。美咲は、そんな二人を、穏やかな笑顔で見つめていた。その笑顔の奥に、勇輝は、美咲との「秘密」の関係からくる緊張感を読み取っていた。


  「いってらっしゃい、勇輝君」


  美咲は、勇輝の背中に、優しく手を添えた。勇輝は、美咲の温もりに、思わず振り返る。美咲は、勇輝の顔を見て、微笑んだ。その微笑みは、母としての優しさと、一人の女性としての情熱が入り混じった、複雑なものだった。


  勇輝は、美咲と結愛に背を向け、玄関を出た。高校の門まで歩く道のりは、勇輝にとって、これまでの人生で最も長く感じられた。


  高校の門にたどり着くと、そこには、結衣と杏奈が立っていた。結衣は、勇輝の姿を見ると、駆け寄ってきた。


「勇輝君、おはよう!」


  結衣の笑顔は、いつもと変わらない、優等生の笑顔だった。しかし、その瞳には、勇輝との間に築かれた絆と、美咲と結愛、そして杏奈への警戒心が入り混じっていた。


「結衣、おはよう」


  勇輝は、結衣の手を握り、微笑んだ。その手は温かく、勇輝の心に、安堵をもたらした。


「勇輝!久しぶりじゃん!」


  杏奈は、勇輝に抱きつき、勇輝の背中を叩いた。杏奈の屈託のない笑顔に、勇輝は、杏奈が自分にとって、かけがえのない親友であることを再確認した。しかし、杏奈の瞳の奥には、勇輝への初恋と、結衣と結愛へのライバル心が隠されていた。


  四人は、複雑な感情を胸に秘めたまま、高校の門をくぐる。新しい生活が始まる。新たな舞台で、勇輝、結衣、結愛、杏奈、そして美咲の五人の関係性は、さらに複雑に、そして激しく揺れ動いていくことになるだろう。物語は、彼らの高校生活と共に、さらに複雑な関係へと進んでいく予感をもって終わる。


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