34話 私はネーネ
「そうだ! この男だ!」
ルドの上げた声に他のドアーフも首をたてにふる。
「やっぱり思った通りだわ。この男の名前はネフトリアというのよ」
あらためて広げた絵に視線を移した私は、思わず飛び上がりそうになった。
「びっくりしたわ。魔獣が口から炎を吐いているんだもの」
いつのまにか、ただの絵が動く絵に変わっていたのだ。それはいつからかはわからない。
けれど、これはバジルの魔力が相当進化している証だろう。
「さすがアントワープ様の娘だわ。末は聖女だったりして」
脳内にうかんだ胸をはりドヤ顔をするバジルが可愛くて、つい微笑みがこぼれた。
「これはね。バジルという女の子が描いた絵なの。
バジルは私がこの魔獣に頭から食べられる夢を見たんだって。
それで私に気をつけるようにって、教えてくれたの」
手にした絵を皆の前にヒラヒラさせると、どのドアーフもジーと絵を見つめる。
そんな中、ドギがおごそかに呟いた。
「お嬢。それは予知夢じゃろうな。なので絶対に鉱山の中には入ってはならんぞ!」
「あら。それじゃ、この悪党がはびこったままじゃない。
私はそんなの絶対に嫌よ!
今すぐ鉱山の中にいる魔獣を倒して、ドドを連れ戻したいの」
ね。ドギ。お願い。いいでしょ」
私は眉を顰めるドギに魅了魔法をかけて、例のポーズを披露する。
「ううーむ。そこまで言うならしかたない。
心配じゃから、ワシらもお嬢について行くぞ」
ドギの言葉が終わらやいなや、皆が「おー」と拳をつくった手を高く掲げた。
「お嬢。ありがとな」
ルドは目をウルウルさせて、私の肩をポンと叩く。
「その言葉は無事にドドを奪回した時に言ってね。
今はまだ早いわよ」
私は少し口角を上げると、目を細めた。
そんな私を見て、
「なんだか今までのルルお嬢じゃないみたいだな。
すげえ強くなってるぞ。やっぱ結婚したからかな」
ドフが不思議そうに首を傾けた。と同時にドアーフ達から盛大な笑い声がおこる。
なんだか明るくていい幸先だわ。
「じゃあ皆。今から魔獣を倒しにいきましょう!!!」
私は大きな声でそう言うと、危険な鉱山に躊躇することなく足を踏み入れたのだ。
中の温度は外よりも低くて、ヒンヤリとした空気が頬に心地よい。
「お嬢は列の真ん中を歩くのじゃ」
「もうドギったら。今の私は勇者の気分でいるんだから、お姫様扱いはやめてくれない?」
「そうはいかん」
「はーい」
私はそう言うと、前後をドアーフの護衛に守られながら坑道を歩く。
周囲には色とりどりの魔蝶々がヒラヒラと飛んでいる。
魔蝶々の羽はキラキラと輝いているから、ランプの代わりになってちょうどいい。
採掘作業は軟な人間だと、すぐに音をあげてしまうほどきつい、と言われている。
まずは壁に穴をあけ、そこに爆弾をなげこみ壁を壊す。
その際にでてきた瓦礫を他の場所に運んで、瓦礫を粉々にして、その中に含まれている金をとりだすのだ。
鉱山労働は3Kと言っても過言でない。
だからここを気に入って働いてくれるドアーフはフィフィ家の宝だ。
そんな大切なドアーフを踏みにじるヤツは地獄に突き落としてやる。
「必ずネフトリアの息の音を止めてやるわ!」
闘志を燃えたぎらせていると、前を行くドアーフが急に歩みを止める。
「お嬢。
この先がネフトリアの棲家だ。けどあそこへ通じる道はトロッコでしか行けない。
だがトロッコに乗れるのは1人だけじゃ。
悪いが、調査はここまでにしてくれんかのう」
ドギが申しわけなさそうに、眉を下げた。
「それじゃ、ただの鉱山見物じゃない。私はそんなの嫌よ。
一人でも大丈夫だから、私をトロッコにのせてちょうだい!」
「だけどお嬢。
きっとあの魔獣使いはお嬢を殺すぞ。
なんの関係もない人間が自分のアジトへ忍び込んできたんだ。
悪党なら誰でもそうするだろ。
お嬢の気持ちは十分わかったから、兄貴を助けるのはあきらめてくれ」
ルドが真剣な眼差しで私を見据える。
そして他のドアーフ達も「そうだ、そうだ」と口々に私を説得しようした。
「心配してくれるのはとても喜しいけど、私は大丈夫よ。
だって魔獣使いの娘として会いに行くんだもの」
私はそう言うと、すぐに「ネーネの姿になーれ」と自分に魔法をかけた。
とたんに身体は白い煙に包まれて、煙が消えると姿はネーネに変わっている。
「うおおおお。誰じゃこれは。めっちゃキツそうだけど、すごい美人じゃん!」
「驚いたでしょ。ルド。
私はもうルルじゃない。ネーネなのよ」
口調もネーネを真似た。ねっとりと色っぽく話す。
つい調子にのって、ドアーフ達にバチンとウインクをすると、皆は顔を真赤にして頭をクラクラさせる。
皆がボーとしているすきに私はトロッコに飛び乗り、ネフトリアの元へ進む。
悪党め。首を洗って待ってなさい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。