妹に婚約者を奪われて白豚に嫁いだら、ハッピーエンドがまっていた
りんりん
プロローグ
フィフィ家のハズレ令嬢。
妹よりもチビで地味な私は周りからそう蔑まれていた。
今、私は悪魔と暮らしている。
悪魔の正体は私の継母で彼女の生い立ちは謎めいていた。
実父はとある砂漠の国の王室専属魔導士だったが、王家の財宝を盗もうとして国外追放になった。
そして彼は私の住む国へ流れつき、下町の女と結婚し娘が生まれる。
その娘こそが私の憂鬱の元。
悪魔女だ。
これは継母から聞かされた話である。
確かに悪魔女は砂漠の人そのものだ。
この国では滅多に見かけない褐色の肌。
少し吊り上がった切れ長の目。
夕陽をおとしこんだような赤い瞳。
黒髪を目の上で一直線に切りそろえた悪魔はエキゾチックな魅力にあふれていた。
なのでほとんどの人は継母の話を信じている。
だけど私は嘘っぱちだと思う。
根拠はない。
ただの直感だ。いつかそれを証明できたら、どんなに気分がいいだろう。
幼い時流行り病で母を亡くした私は、お父様と継母の間に生まれた異母妹と大きな格差をつけられて育てられた。
毎月ドレスを新調してもらう妹と服は使用人の制服ワンピース一枚だけの私。
毎日ご馳走を食する妹と別室で残り物をあてがえられる私。
継母は私に友達ができるとその関係をつぶしにかかる。
妹には一人も友達がいない。
なのに私が楽しそうにしているのが我慢ならないのだろう。
それより妹の我儘な性格をなんとかした方が妹の為だと思うのに。
とんだ毒親だ。
とに角私にとって我が家は理不尽な事だらけだった。
それでも私は不幸じゃない。
幼馴染の婚約者がいつもソバにいてくれるから。
「ええええええ!
急に魔法が使えなくなったって!
それは絶対、悪魔のせいだ。
君が魔法を使うたびに『妹が使えないからっていい気になっている』と君を鞭で打っていただろう。
でも心配いらない。
君が心から魔法を使いたいと望めば、すぐに魔力は復活するはずだから。
ああ。明日にでも君と結婚したいな。
毎日君と一緒にいて悪魔から守ってあげたいから」
私達は親同士が勝手に決めた婚約者同志だけど、心を通わせていた。
私は伯爵家の跡取り娘で彼は男爵家の三男。
なので将来はわが家に婿入りする事になっている。
彼が邸に住んで目を光らせれば、さすがの悪魔もこれまでのように好き勝手はできないはず。
彼と結婚すれば全てがいい方向にかわっていく。
はずだったのに……。
お父様の訃報をきっかけに、唯一の希望がガラガラと音をたてて崩れていった。
「お父様が亡くなってしまったの……。
もう私には貴方しかいない。
今すぐ結婚して、どこか遠い国で暮らしましょう」
いつもの優しさを期待して婚約者に向かって手を差しのべると、彼は背筋が凍りつくような冷たい声をだす。
「その提案は却下だ。
君との婚約も破棄する」
「急にどうしちゃったの?」
「鈍いヤツだな。
君が伯爵家の跡取りじゃなくなったからさ。
僕が君を愛する理由はソコだったのに。
さえないチビのくせに、美しい僕に本気で愛されていると思っていたのか」
「馬鹿!!!
どうしてそんな意地悪を言うのよ!」
両手でつくった拳を胸にあてて、思いっきり叫んだ時だった。
「これで堂々と私達の仲を発表できるのね。
お父様が亡くなったのは不幸中の幸いだわ」
いつのまにか現れた妹が彼の腕に自分の腕をからませて甘ったるい声をだす。
「だよなー。
ハズレ令嬢なんかと結婚せずにすんでラッキーしかない」
元婚約者はニヤリと笑うと、妹の黒髪にチュッとキスを落とした。
「お姉様、これでやっとおわかり?
彼が本当に愛しているのはこの私なの。
今までお姉様を愛しているフリをしていたのは、フィフィ伯爵家を手に入れる為よ」
私を傷つける言葉を次々と口にする妹を元婚約者は止めようともしない。
それどころか、妹の頭を優しくなでながら、
「僕の事はキッパリ忘れるんだ」
とキツイ目で私を睨んだ。
財産欲しさに、姉の次は妹の婚約者になるなんて最低最悪な男だ。
こんな男とはこちらから縁切りよ。
「ブスで馬鹿のくせに財産も恋も全てを手に入れようとするなんて、人生なめんじゃないわよ」
妹は私を指差しながら大口をあけて嘲笑った。
継母に異母妹に元婚約者。
どうやら彼らは私が耐えれば耐えるほどいい気になる人達のようだ。
それがわかった以上、私だってこれ以上我慢なんかしない。
私がされた仕打ちを何百倍にして返してやるから覚悟するのよ。
そう誓った日からちょうど一年後。
最強の公爵様の愛妻となった私はクズ達に厳しい言葉を口にする。
お母様の肩身のドレスに身をつつみ、瞳を氷のように凍らせながら。
私にした事の全部、今ここで死ぬほど後させてやる。結局、勝ったのはこの私。
ざまあみろ!
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