22話 シモンの作戦
さっそうとシモン様がフィフィ家を後にした。
そしてその数分後、私達はシモン様の馬車が通るであろう道沿いで待機していた。
こんな素早い行動は移動魔法を使ったからだ。
これは高度な魔法でかなりの魔力を消費する。
私の魔力は日々強くなっているとはいえ、まだまだ十分ではない。
なのでけっこう疲れた。
けれどアンソニー様には内緒にしている。
私には超過保護なアンソニー様だから知れば必要以上に心配するだろうから。
それってちょっとうるさく感じる。
贅沢なのはわかっているけど。
「止まれ」
アンソニー様は一目で貴族の物だとわかる立派な馬車が近づいてくると、道の真ん中に飛び出して両手を広げる。
「わざわざこんな所まで会いに来るなんて。
俺と別れるのがそんなにつらいのか?
白豚の旦那よ。
おっとこれは失礼。
最強のアンソニー公爵様へ戻っていたのか」
ガタンと扉を開いて、馬車から下りてきたシモン様がアンソニー様の顔をのぞきこんだ。
「黙れ。シモン」
アンソニー様が低い声をだすと同時にシモン様の身体が前のめりになる。
アンソニー様が魔法でケリをいれた、のだと思う。
「俺がマリンを愛してるだって?
絶対にあり得ない事を言って、よくも俺の名誉を傷つけてくれたな。
シモン。よく聞け。
二度とつまらない嘘がつけないように、お前の唇をぬいつけてやる」
「許せ。アンソニー。
あれは俺の作戦を成功させる為に必要な嘘だったんだ。
訪問の目的はフィフィ家が脱税をしていると書かれた手紙が、貴族達に送り付けられているのをヤツらに認識させる事だったがな」
シモン様はアンソニー様の指先から放たれた銀色の光を身体を斜めにして、ヒョイとかわす。
「なにが作戦だ!?
調子のいい言い訳をしやがって。
ま、たしかにあんな手紙が出回っているとは俺も知らなかったがな。
それにしてもあの件は極秘にしているはずなのに、一体どこの誰がそんな手紙を書いているんだろうか」
アンソニー様は胸の前で両手を組むと空を仰いで思案する。
「誰もいないさ。
あの話は俺の作り話だからな」
シモン様はグイと胸をはる。
「なんだと!
いくらフリーターで暇だからって、余計な事をして俺達の邪魔をするな」
「ひっどいな。アンソニーて。
これは邪魔じゃなくて、協力なの。
ああ言えば、あせったヤツらが動きだすだろ。
尻尾をつかむチャンスが早まるじゃん。
もし何かわかったら、すぐに俺に知らせろ。
約束どおりハイランド家で舞踏会を開いてもらうから。
そしてそこにヤツらを招待する。
そうやって俺がヤツらをひきつけておいたら、アンソニーは自由にフィフィ家をかぎまわれるだろう。
俺的には。
一秒でも早く、アンソニーとルルちゃんにハイランド家へ戻って来て欲しいんだ。
二人を首を長くして待っているノワール様とバジルの為にもな」
「そうだったのか……」
アンソニー様は高く振り上げた拳を下げる。
「シモンの言うとおりだわ。
シモンのおかげで、ネーネが私に脱税の疑惑を押し付けようとしている事がわかったんだもの。
あの感じじゃ。ネーネは脱税について何か知っているようね。
ここでシモンを責めるより、邸に戻ってこれからの対策を練る方が得策よ」
私はアンソニーの腕に自分の腕をからめて、頬にチュッとキスをおとす。
自分からキスをするのは初めてだった。
ちょっとマリンぽくて嫌だったけど、効果は抜群だ。
「それもそうだな。
今回はシモンに感謝すべきか」
アンソニー様は珍しく耳たぶまで赤く染めて、うわずった声をだした。
「わかればいいんだよー。
しっかし、堅物アンソニーをここまでメロメロにするとはルルちゃんもやるじゃん!」
シモン様は白い歯を見せてニヒッと笑うと急ぎ足で馬車へ戻ってゆく。
「気をつけて帰ってね」
二頭立ての馬車に手を振ったとたん、馬車は煙のように消えていった。
翌日、さっそくネーネが邸から消えた。
「急用ができたから数日邸を留守にします。
私がいないからって、仕事に手をぬくんじゃないわよ」
と言い放つと、あせって馬車に飛び乗っていったわ。
ネーネがどこに行くのか今はわからない。
けど、すぐに全てを明るみにさせて私の前に跪かせてやる。
これから私の仕返しは始まるの。覚悟しててね。
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