12話 最後のルノバ女子会

「おい。


 今日のオヤツはなんだろうな。


 オイラ。そわそわしちゃうぜい」


 バジルが声音をかえて、手にした少年ドアーフ人形を上手に操る。


「昨日の野苺のクッキーはとっても美味しかったから、今日も同じだといいね」


 私は少女ドアーフ人形担当なので、できるだけ可愛い声をだす。


 私達はこうやって毎日、人形劇にいそしんでいるのだ。


「そっか。オイラはブルーベリーがいいな」


「ほんとだ。私もそれがいい」


 意見がそろった時、柱時計の小さな扉がパタンと開いて中から「ポッポ」と鳴きながら鳩がとびだしてくる。


「「三時がきたー!」」


 私達は声を弾ませた。


「そんなに楽しみにしてくれるなんて、喜しいね」


 うん? 誰? そんなのノワール様に決まっているじゃない。


 いつのまにか三時に三人でバジルの部屋に集まって、お茶をするのがお約束になっているから。


 集まりの名前はそれぞれの名前の頭文字をとって【ルバノ女子会】という。


 ちなみに名前をつけたのはノワール様だ。


ノワール様は厳しいだけじゃなく、お茶目な所もあるのがいい。


「すぐに準備をするので、お姫様達はそこに腰かけてお待ち下さいね」


 とりあえず私達はパリスが目で合図した低いソファーに移動した。


「準備って必要?」


 豪華なお菓子や綺麗な茶器をのせたワゴンをひいてノワール様の後から入ってくるパリスに首を傾ける。


 いつもはノワール様がトレイに簡単なお菓子とお茶をのせて、1人でやってくるのに今日は様子がちがう。


「必要に決まってるでしょ。


 ルル。まさか忘れたんじゃないでしょーね。


 今日が【ルバノ女子会】最後の日だっていうのを」


 右隣に座るノワール様の言葉がおわるやいなや、今度は左隣のバジルが寂しそうに呟いた。


「明日、ルルはフィフィ家に帰る。


 明日なんか、ずーとこないで欲しい。


 だから明日の事を話すのが嫌だったの」


「バジル……」


 私はバジルの小さな身体をギュッと抱きしめた。


 今まで私が帰る日について何も言わなかったから、バジルにとっては

どうでもいい事なんだと思っていた。


誤解してごめんね。


「バジル。


 そんな顔をするもんじゃない。


 去る人を笑顔でおくりだすのが礼儀でしょ」


「だってえ……。


 お人形劇につきあってくれるのはルルだけなんだもの」


「淋しいのは私だって同じよ。


 アンソニーやシモンとじゃ女子会はできないもの。


 やっぱり女は女同志が一番よね」


「ノワール様!」


 あの最強キラキラ軍団より私の方がいいって言ってくれたのだ。


感激で胸がいっぱいになり、思わず立ち上がり胸の前で両手をあわせた。


「そんなウルウルした目で私を見るのはやめなさい。


 それより、ルル。


 あなたに一つ、お願いがあるの」


 ノワール様が姿勢を正す。


「私にできる事ならなんでもします」


「できるわ。


 というか、貴方にしかできない事なの」


 うーん。無能な私にできる事って、全力でバジルの遊び相手をする事ぐらいしか思いつかない。


 もし、それを望まれているなら大歓迎よ。脱税の件が解決したら、すぐにハイランド家へ駆けつけます!


「お願いはバジル様がらみの事ですか?」


「違います」


 ノワール様はゆっくりと左右に首をふる。


 なら何なの? 


全くわからない。


「次はアンソニーの本物の妻として、ハイランド家を訪れて欲しいの」


 ガーン。


頭の中で重低音の鐘がなった。


 私達の嘘がバレていたなんて、ショックすぎる。


 一体どうして?さてはシモン様が口をすべらせたとか……。


もしそうなら、ニ度と秘密をうちわけたりするもんですか!


 一人で目を丸くして驚いたり、頬をふくらませたりしているとノワール様が小さく鼻で笑う。


「ルルの百面相は見ていて面白いけれど、シモンを疑ってはダメよ。


あの子からは何も聞いていないわ。


 なぜかしらね。


 毎日一緒にお茶をのんでいると、ルルの心が自然によめてしまったの」


「魔道具を使わなくてもですか?」


「そうよ。


 最近、私。


 体調が凄くいいの。


おかげで魔力まで復活したようなの」


 ノワール様が目尻を下げたと同時にお茶の用意が整った。


 テーブルには花の透かし模様がはいった白いクロスがかけられ、真ん中には彩どりの花がいけられた花瓶がおかれている。


「うわ。今日のは一段と美味しそうね!


 これもパリスが焼いたの?」


 それぞれの前に置かれたオレンジ色のソースがたっぷりとかかったケーキに私は頬をほころばせた。


「ええ。そうよ。


 趣味で始めたお菓子づくりだけどルル様がきてから、急激に腕があがったのよ」


「それは私が食いしん坊で毎回『美味しい、美味しい』って食べていたからだわ。


 パリスって典型的な褒められて

伸びるタイプだったのね」


「不思議ね。


ルルがきてから二人にいい変化があらわれるなんて。


ひょっとして私達に魔法でも使ったの?」


真向かいに座ったノワール様が首を傾ける。


「いいえ。


残念ながらそれはただの偶然でしょう。


 私にそんな力はないもの」


 小さく切ったケーキの一つをフォークで刺して口に運んで咀嚼していると、バジルの不満げな声が耳に届く。


「偶然なんかじゃないと思う。


 だって私の魔力もルルといたらどんどん強くなったもん。


おかげでドアーフ達がオシャレになったわ」


「あ! たしかに服がかわってる」


 言われるまで気がつかなかったけど、どのドアーフ人形の服も以前よりずーと豪華になっている。


 ドアーフ達の服はすべてバジルが魔法でこしらえていた。


なのでバジルの魔力が強くなっているという証明になるのだ。


「やっぱりだ。


 ルルには周りにいる人を幸せにできる、癒しの魔力があるに違いない」


ノワール様が満足そうな顔をする。


「だといいけど、やっぱり違うわ。だってフィフィ家ではそうじゃなかったもの」


「それはルルがフィフィ家の人達を大嫌いだったからでしょ」


 バジルが何気なく発した言葉にハッとした。


 確かにそうだ。


 ネーネやマリンの幸せなんか一度も願った事はない。


むしろ逆ならあるけど。


だけどここの皆には幸せになって欲しかった。


 それでも私なんかに癒しの魔力があるわけない。


 やはりただの偶然よ。


「ルル。

 貴方に癒しの魔力があろうが、なかろうが私は貴方にアンソニーと結ばれて欲しいの。


 それとも貴方はアンソニーが嫌いかしら?」


 あれこれ思い悩む私にノワール様が悪戯っぽい笑みをうかべる。


「嫌いだなんて……。


 ただ私が良くても向こうの気持ちもある事だし、本物への道は険しいと思います」


 頬を真っ赤に染めて言いよどんでいると、


「それも大丈夫!


 さっき言ったでしょ。


 私は人の心が読めるって」


 ノワール様は天井を仰いで豪快な笑い声をあげた。


 笑い声はバジルの部屋中に響きわたり、私やバジル、パリスの笑いまでさそう。


 結局その日はルバノ女子会にパリス(女子認定されているから)も加わり、最後の女子会は大いに盛り上がった。


 気がついた時はすっかり日がくれていたほどに。




 

 


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