9.ライバル登場!?
午前中の授業がやっと終わり、待望の昼休みがやってきました。
比企谷学園は進学校でもあるので、授業についていくのも大変なのです……疲れました。
ふと、蓮治くんの席を見ると、なんと既にいませんでした。どうやら、先に学食へ向かったみたいです。
「一緒に行けばいいのに」と思わなくもないですが、多分、私がクラスで注目されないように気をつかってくれているのでしょう。
さてさて、私も早く学食に向かわないと……。そう思って、席を立ち上がろうとした時のことでした。
「ねぇ、あんたが守司玲那?」
その声に顔を上げると、見知らぬ女の子が立っていました。同じ一年生のようですけど、知らないお顔です。
ちょっとつり目な美人さんで、なんだか高そうな猫ちゃんに似ています。
「そうですけど……あなたは?」
「ふん! この学園に通っていて、アタシの顔を知らないヤツがいるとはね!」
女の子が、所々カールした髪をバサッとかき上げます。……セットするのが大変そうな髪型です。
「アタシは
仁王立ちしながら自己紹介してくれる比企谷さん。なるほど、珍しい名字だと思ったら、理事長さんのお孫さんなんですね!
「これはどうもご丁寧に。ご存じのようですが、私は守司玲那と申します。よろしくお願いいたします」
「あ、こちらこそ。これはご丁寧に」
私が自己紹介を返しながらペコリと頭を下げると、比企谷さんも丁寧に頭を下げてくれました。
どうやら、しっかりしたおうちの子みたいです。
「――って、ちがーう! アンタの自己紹介を聞きに来たんじゃないのよ!」
と思ったら、なんだかノリツッコミみたいなことを言い出しました。比企谷さんは面白い人みたいです。
「た、単刀直入に尋ねるわ! アンタ、れ、れ、蓮治くんとは、どういう関係なの!」
「蓮治くんと、ですか?」
比企谷さんに訊かれて、はて? となりました。
そう言えば、私たちが親戚だということは、学校で言ってもいいんでしたっけ?
一緒に住んでいることは、流石に黙っていた方がいいのでしょうが……。
「どうなの? 答えなさいよ! 登校もお昼も一緒だなんて、一体どういう関係!?」
「え、ええと……私と蓮治くんは……」
私が答えられずにいると、比企谷さんはグググと顔を寄せて圧をかけてきました。
ものすごい迫力です。
(あれ? もしかして、この子。蓮治くんのことを……?)
なんとなく、ピンと来てしまいました。もしかしなくても、比企谷さんは蓮治くんのことが好きなのではないでしょうか?
理事長さんのお孫さんということは、きっと彼女も蓮治くんたちと同じく、初等部からこの学園に通っているはずです。
私よりも、蓮治くんとの付き合いは長そうです。
その中で、蓮治くんの不器用な優しさを知って、好きになってしまっていても不思議ではありません。
(あれ……?)
何故でしょう、比企谷さんが蓮治くんのことを好きなのでは? と思った途端、胸がチクチクしてきました。はて……?
「ちょっと? 黙ってないでなんとか答えたらどうなの?」
「おい、比企谷。あんまりオレの親戚をイジメないでくれるか?」
「アタシはただ質問に答えろと言っているだけでイジメては……って、蓮治くん!?」
比企谷さんが驚いて飛びのきました。なんと、いつの間にか蓮治くんが教室に戻ってきていました!
――ふとドアの辺りを見ると、よっちゃんとあっちゃんが親指を立ててこちらに笑顔を向けていました。
どうやら、私が比企谷さんにイジメられていると思ったのか、蓮治くんを呼んできてくれたみたいです。
「れ、蓮治くん、比企谷さんは別に私をイジメてなんて……」
「ばーか、傍から見たら十分イジメなんだよ。たとえ悪気がなかったってな」
蓮治くんが「見てみろ」と言わんばかりに首をめぐらしました。
つられて教室の中を見回して、私は言葉を失いました。クラスメイトの皆さんが、不安そうに私たちのやり取りを眺めていたのです。
――なるほど、周囲からは私が比企谷さんにイジメられているように見えていたんですね。
私としては、楽しくおしゃべりしているくらいの感覚だったのですが……。
比企谷さんもそのことに気付いたのか、うつむいてしまって、ちょっと涙目になっています。
なんだか、かわいそうです……。
「あ、あの!」
だから私は次の瞬間、深く考えずにこう言っていました。
「せっかくですから、比企谷さんも一緒に、お昼、食べませんか?」
***
――そして昼休みの食堂。
「あのあの桜木先輩! 今度、陸上部の見学行ってもいいですか?」
「もちもち大歓迎! っていうか、あっちゃんだっけ? せっかくならさ、陸上部に入ればいいのに。初等部の頃から足が速いって、結構有名だったジャン?」
「ええ~? 桜木先輩に知ってもらえてたなんてカンゲキです~!」
私の右手の席では、あっちゃんと道輝くんが部活の話で盛り上がっています。
一方、左手の席では。
「へぇ、景くんは童話が好きなんだ? 奇遇だねぇ、私も童話には一家言あるの」
「そうなの? よっちゃんさん。ねぇねぇ、おすすめの童話教えてよ! ボクまだ、図書館の童話制覇してなくて」
「うちの図書館は蔵書が多いもんね。よしよし、お姉さんにまっかせなさい!」
よっちゃんと景くんが、童話の話で盛り上がっていました。
景くんが童話好きでよっちゃんと趣味が合うとは、予想外です。
あっちゃんとよっちゃんは、私を心配して学食までついてきてくれたのです。が、何やらいつの間にか、守司本家の人たちと仲良くおしゃべりしています。
そして、私の左隣では……私の制服の袖をクイクイと引っ張りながら、比企谷さんが顔を真っ赤にしてうつむいています。
私の右隣に座る蓮治くんの方をチラチラと見ながら。
「守司さん、その……なんか話題振ってよ!」
「……比企谷さんが直接お話すればいいのでは? 蓮治くんとは、私よりも長いお付き合いなんですよね?」
「それができればとっくの昔にやってるわよぉ!」
なんだかキレ気味に答えられましたが、どれもヒソヒソ声です。周りには聞こえていません。
……流石に、私の右隣の蓮治くんには丸聞こえだと思いますが。
当の蓮治くんは、いつも通りの不機嫌な顔のままカレーライスを黙々と食べています。
「いやはや、随分と賑やかな昼食になったものだな」
一方、翔くんはメガネをクイッとしながら、周囲の騒がしい光景に目を光らせていました。
なにせ、八人もの大所帯です。賑やかさが違います。
翔くんは皆さんをぐるりと見回すと、私の横で小さくなっている比企谷さんに目をとめました。
「杏里くんも久しぶりだな。おじいさまはご
「は、はい翔先輩! 先輩方もお元気そうで……」
あれ? 比企谷さん、なんだか緊張してる? 翔くんのことが苦手なのでしょうか?
「先ほども話した通り、玲那くんはうちのおじい様……守司陽一郎の唯一の孫娘なんだ。どうか、仲良くしてあげてほしい」
「は、はい! それはもう! こ、こちらこそ仲良くしていただけたら、はい」
私の袖を握る比企谷さんの手が、更にギュッとなりました。
「か、守司さん! どうぞ仲良くしてくださいね?」
「もちろんです。あ、私のことは玲那でいいですよ~」
「で、ではアタシのことも、どうぞ杏里と……オホ、オホホホホ」
おかしな笑い方をしながら、私の手を握ってくる杏里さん。
それを見ながら、なんだかとっても悪い笑顔を浮かべている翔くん。
――はたして、二人の間に何があったのか? 知りたいような、知りたくないような。
そんなお昼休みでした。
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